第6話 謎の男

 図書館での事件の後、ララティナはまだ、タルブの町に留まっていた。

 あの後、特別に図書館で、本を調べさせてもらった。しかし、禁術の手がかりを得ることはできていなかった。

 次にやることを考えていると、クーナから、食事に誘われていた。


『先日のお礼ということか』

『うん、そうなんだ。別に図書館を使わせてもらうだけで、お礼だと思うから、申し訳ないんだけど』

『そう言うな。こういう時は感謝するべきだ』


 先日の事件から、シュバルツの感じが変わったことをララティナは感じていた。

 前から優しさは感じられたが、それを隠さなくなっていた。ララティナはそれが嬉しくて仕方なかった。


『そうだね。感謝した方がいいよね。ありがとう、シュバルツ』

『ふむ。それより、これからどうする?手がかりもなく、この町に留まり続けるのか?』

『だからといって、何もないまま行動するのも、難しいんだよね』


 どこか別の町に行くにしても、その目星がついていない。現状、どうすればいいのか、悩み中だった。

 話している内に、待ち合わせ場所である飲食店に着いた。ここで、クーナが待っているらしい。

 ララティナは早速、店の中に入った。






「クーナさん、今日は誘ってくれてありがとうございます」

「いえいえ、私の方こそ、ろくなお礼ができていなくて申し訳ないと思っていたんですよ、今日は、遠慮しないでくださいね」


 ララティナはクーナとともに、テーブルを挟み、席につき、料理を待っていた。

 この店はタルブの町でも有名らしく、多くの客で賑わっていた。


「ここの料理、とってもおいしいんですよ」

「そうなんですか、楽しみです!」

「ふふ、そうですね」


 しばらく、他愛のない会話をしていると、店員が料理を運んできた。ララティナは、クーナに注文を任せていたので、何が運ばれてくるかは知らなかった。

 

「これは……」


 ララティナの目の前に、大きなステーキが現れた。


「タルブ牛のステーキです。この町の名物ですよ。美味しさは保証します」

「い、頂きます」


 右手にナイフ、左手にフォークを持ち、ステーキにナイフを入れる。思ったよりもすんなりと、切れたことに驚いた。

 ゆっくりとステーキを口に入れ、噛みしめる。その時、理解できた。


「柔らかい……」


 肉は抵抗なく、噛めた。口の中に肉汁が広がる。


「お、おいしい……おいしいです!クーナさん!」

「気に入って頂けて、私も嬉しいです。私も頂きますね」


 二人は、しばらく、肉を堪能した。





「おいしかったです。ありがとうございます」

「いえいえ」


 ステーキを食べ終えた二人は、少し休憩していた。そんな中、クーナが何かを思い出したように、


「そういえば、ララティナさん。先日、知り合いの方に、不思議な話を聞いたんです」


と、話始めた。


「不思議な話ですか?」

「はい、町の近くに、タルブ山と呼ばれている山があるんですけど、その頂上には、剣が刺さっているそうなんです」

「剣が刺さっているって、どういうことですか?」

「えっとですね、何やら大昔に、この町を襲った竜がいたそうなんです。その竜を倒した英雄が、竜の邪気を封じるために刺したと聞きました」

「よくある伝承的なものですね」


 この話が興味深いものであると、ララティナは感じた。見習い魔女にとっては、そういう伝承も聞こえ方が違ってくる。

 クーナもララティナが、何か特別なことを感じ取るかもしれないと思い話したのだ。

 ここは公の場であるため、滅多なことは言えないが、調べる価値のあるものだと、ララティナは感じた。


「確かに不思議な話ですね。伝承が本当であれ、どうであれ」

「そうなんです。ララティナさんにも知らせたくて」

「おい、貴様ら」


 とりあえず、この場は世間話的に済ませようと、二人が会話しようとしていたが、それを一つの声が遮った。


「今の話、本当か?」


 テーブルの横に一人の男が立っていた。ボロボロのマントに身を包んでおり、顔から察するに、十代後半に思える。


「えっと、な、何ですか?あなたは?」


 突然現れた男に、クーナは困惑していた。

この男、威圧感がすごかった。ララティナは、いざとなったら、自分が何とかする必要があるとさえ、感じていた。


「今の話が本当か、と聞いている」

「あの、だから」

「質問をしているのは俺だ。答えろ」

「ひっ!」


 男はクーナを睨みつけた。恐ろしい眼をしており、クーナは思わず、後ずさった。


「待ってください!」


 ララティナは、思わず叫んでいた。


「何だ」


 男は、ララティナを睨めつけた。


「そんな強引にしないで、落ち着いてください。まずは名乗ってください」

「……」


 数秒の沈黙後、男は口を開いた。


「ヴァイスだ」

「ヴァイスさんですね。わかりました。私はララティナ、こっちはクーナさんです」

「すまなかったな。少し、興奮していた。それで、質問に答えてくれるか?」


 さっきまでの威圧感は薄れ、落ち着いた口調になったため、ララティナは一先ず安心した。これなら、クーナも大丈夫かもしれない。


「はい、クーナさん、落ち着きましたか?」


 ララティナが目をやると、クーナはゆっくりと頷いた。


「はい。ありがとうございます。さっきの話は、おとぎ話だと言われています。なので、真偽はわかりません」

「そうか」


 ヴァイスは、少し考えるような素振りを見せた後、話し始めた。


「一応、実物が見たい。その場所に、案内してもらいたい」


 その言葉に、クーナは再び困惑することになった。


「案内って、タルブ山には、獣もいますし、危険ですよ」

「俺が護衛する」

「でも、でも」

「頼む」


 ヴァイスは、必死に頼んでいた。何か事情があるように、ララティナは感じた。クーナもそれを感じ取ったのか、何か決意したような表情になった。


「わかりました。案内します」

「ありがとう。では、明日ここに集合でいいか?」

「はい、それで構いません」


 ヴァイスは、それだけ言うと店を出て行ってしまった。

 残された二人は、顔を見合わせた。


「あはは、何だか大変なことになっちゃいました」

「クーナさん!」

「はい?何ですか、ララティナさん?」

「私も行きます」

「えっ!」


 ララティナは純粋に心配なのと、剣について調べたいという気持ちから、同行することを決めていた。


「本当ですか?それは、心強いです」

「はい、いざとなったら」


 そう言って、胸のペンダントを指さした。


『とういことで、シュバルツ。もしかしたら出番があるかも』

『構わん。それが我の役目だ』

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