第6話 謎の男
図書館での事件の後、ララティナはまだ、タルブの町に留まっていた。
あの後、特別に図書館で、本を調べさせてもらった。しかし、禁術の手がかりを得ることはできていなかった。
次にやることを考えていると、クーナから、食事に誘われていた。
『先日のお礼ということか』
『うん、そうなんだ。別に図書館を使わせてもらうだけで、お礼だと思うから、申し訳ないんだけど』
『そう言うな。こういう時は感謝するべきだ』
先日の事件から、シュバルツの感じが変わったことをララティナは感じていた。
前から優しさは感じられたが、それを隠さなくなっていた。ララティナはそれが嬉しくて仕方なかった。
『そうだね。感謝した方がいいよね。ありがとう、シュバルツ』
『ふむ。それより、これからどうする?手がかりもなく、この町に留まり続けるのか?』
『だからといって、何もないまま行動するのも、難しいんだよね』
どこか別の町に行くにしても、その目星がついていない。現状、どうすればいいのか、悩み中だった。
話している内に、待ち合わせ場所である飲食店に着いた。ここで、クーナが待っているらしい。
ララティナは早速、店の中に入った。
◇
「クーナさん、今日は誘ってくれてありがとうございます」
「いえいえ、私の方こそ、ろくなお礼ができていなくて申し訳ないと思っていたんですよ、今日は、遠慮しないでくださいね」
ララティナはクーナとともに、テーブルを挟み、席につき、料理を待っていた。
この店はタルブの町でも有名らしく、多くの客で賑わっていた。
「ここの料理、とってもおいしいんですよ」
「そうなんですか、楽しみです!」
「ふふ、そうですね」
しばらく、他愛のない会話をしていると、店員が料理を運んできた。ララティナは、クーナに注文を任せていたので、何が運ばれてくるかは知らなかった。
「これは……」
ララティナの目の前に、大きなステーキが現れた。
「タルブ牛のステーキです。この町の名物ですよ。美味しさは保証します」
「い、頂きます」
右手にナイフ、左手にフォークを持ち、ステーキにナイフを入れる。思ったよりもすんなりと、切れたことに驚いた。
ゆっくりとステーキを口に入れ、噛みしめる。その時、理解できた。
「柔らかい……」
肉は抵抗なく、噛めた。口の中に肉汁が広がる。
「お、おいしい……おいしいです!クーナさん!」
「気に入って頂けて、私も嬉しいです。私も頂きますね」
二人は、しばらく、肉を堪能した。
◇
「おいしかったです。ありがとうございます」
「いえいえ」
ステーキを食べ終えた二人は、少し休憩していた。そんな中、クーナが何かを思い出したように、
「そういえば、ララティナさん。先日、知り合いの方に、不思議な話を聞いたんです」
と、話始めた。
「不思議な話ですか?」
「はい、町の近くに、タルブ山と呼ばれている山があるんですけど、その頂上には、剣が刺さっているそうなんです」
「剣が刺さっているって、どういうことですか?」
「えっとですね、何やら大昔に、この町を襲った竜がいたそうなんです。その竜を倒した英雄が、竜の邪気を封じるために刺したと聞きました」
「よくある伝承的なものですね」
この話が興味深いものであると、ララティナは感じた。見習い魔女にとっては、そういう伝承も聞こえ方が違ってくる。
クーナもララティナが、何か特別なことを感じ取るかもしれないと思い話したのだ。
ここは公の場であるため、滅多なことは言えないが、調べる価値のあるものだと、ララティナは感じた。
「確かに不思議な話ですね。伝承が本当であれ、どうであれ」
「そうなんです。ララティナさんにも知らせたくて」
「おい、貴様ら」
とりあえず、この場は世間話的に済ませようと、二人が会話しようとしていたが、それを一つの声が遮った。
「今の話、本当か?」
テーブルの横に一人の男が立っていた。ボロボロのマントに身を包んでおり、顔から察するに、十代後半に思える。
「えっと、な、何ですか?あなたは?」
突然現れた男に、クーナは困惑していた。
この男、威圧感がすごかった。ララティナは、いざとなったら、自分が何とかする必要があるとさえ、感じていた。
「今の話が本当か、と聞いている」
「あの、だから」
「質問をしているのは俺だ。答えろ」
「ひっ!」
男はクーナを睨みつけた。恐ろしい眼をしており、クーナは思わず、後ずさった。
「待ってください!」
ララティナは、思わず叫んでいた。
「何だ」
男は、ララティナを睨めつけた。
「そんな強引にしないで、落ち着いてください。まずは名乗ってください」
「……」
数秒の沈黙後、男は口を開いた。
「ヴァイスだ」
「ヴァイスさんですね。わかりました。私はララティナ、こっちはクーナさんです」
「すまなかったな。少し、興奮していた。それで、質問に答えてくれるか?」
さっきまでの威圧感は薄れ、落ち着いた口調になったため、ララティナは一先ず安心した。これなら、クーナも大丈夫かもしれない。
「はい、クーナさん、落ち着きましたか?」
ララティナが目をやると、クーナはゆっくりと頷いた。
「はい。ありがとうございます。さっきの話は、おとぎ話だと言われています。なので、真偽はわかりません」
「そうか」
ヴァイスは、少し考えるような素振りを見せた後、話し始めた。
「一応、実物が見たい。その場所に、案内してもらいたい」
その言葉に、クーナは再び困惑することになった。
「案内って、タルブ山には、獣もいますし、危険ですよ」
「俺が護衛する」
「でも、でも」
「頼む」
ヴァイスは、必死に頼んでいた。何か事情があるように、ララティナは感じた。クーナもそれを感じ取ったのか、何か決意したような表情になった。
「わかりました。案内します」
「ありがとう。では、明日ここに集合でいいか?」
「はい、それで構いません」
ヴァイスは、それだけ言うと店を出て行ってしまった。
残された二人は、顔を見合わせた。
「あはは、何だか大変なことになっちゃいました」
「クーナさん!」
「はい?何ですか、ララティナさん?」
「私も行きます」
「えっ!」
ララティナは純粋に心配なのと、剣について調べたいという気持ちから、同行することを決めていた。
「本当ですか?それは、心強いです」
「はい、いざとなったら」
そう言って、胸のペンダントを指さした。
『とういことで、シュバルツ。もしかしたら出番があるかも』
『構わん。それが我の役目だ』
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