第4話 図書館にて
『シュバルツ、聞いていた?』
『もちろんだ、どうした?』
『うん、多分、この事件、魔女が関わっていると思う』
犯行の手口から、普通の人間ではなく、魔女または使い魔の仕業としか思えない。
『しかし、どうするつもりだ?関わるというのは危険だ。我としては構わんが、よく考えるべきだ』
シュバルツは冷静に言った。
調べるべきだと思った。放っておく訳にはいかない。特別な力を持っている自分が、見てみぬ振りをしたくなかった。
『ごめんね、シュバルツ』
シュバルツは、その言葉だけで理解してくれたようだ。
「クーナさん、事情はわかりました。けど、私も急ぎの用なんです。少しの時間だけ利用するのを、許してもらえませんか?」
「図書館の中が、危険なのかもしれません。ですから、申し訳ありませんが、許可することは出来ません」
やはり簡単にはいかない。危険だとわかっている場所にわざわざ行かせる者はいないだろう。
思案している内に、ララティナはそもそもの問題を思い出した。
「というか、クーナさんはどうしてここに?危ないってわかってるのに」
「あ、え、その」
クーナは、かなり焦ったようだ。やがて、落ち着くと、
「実は、その関係ないとは思うのですが、事件が起きる前、一冊本を頂いたんです。事件の時、その本が近くに落ちていたんです。二つの事件の後、両方です。もしかしたら、その本が関係しているのかと思って、見に来たんです」
「えっ!?」
その言葉にララティナは大きく驚いた。その反応にクーナは落ち込んでしまった。
「すみません。変ですよね、本と、事件とに結びつきなんてあるはずないのに」
「何の本を貰ったんですか!?」
ララティナの驚きは、クーナの発想が、変だと思ったからではない。むしろ、事件の核心だと感じたのだ。二つの事件の時に、落ちていたというのも変だ。
「えっと、魔導探偵物語の魔女殺人事件という本ですけど、何の変哲もない小説なので、兵士の人々は偶然だと片付けていました」
ララティナは思った。魔女に関わる本が増えたというのは、事件と関係あってもおかしくはない。普通の人にとっては、小説でも魔女にとっては、魔導書だ。
「すみません。少し整理したいと思います。クーナさん一から質問させていただいてもよろしいでしょうか」
「は、はい」
ララティナの顔が真剣であったため、クーナは答えるべきだと思った。この子と応答することは必要だと感じた。
「まず、最初に事件が起きたのは、その本を貰ってからどれくらいですか?」
「えっと、一週間後だと思います」
「次に、誰から仕入れたんですか?」
「図書館の利用者の方が、もう読んでいないので寄付したいと仰ったので、その方から頂きました」
「その本は以前からあったんですか?」
「はい、以前にあった同じ本が、破れてしまって仕入れようかと思っていた際に、その方からお話を頂いたので」
話しを聞き、大体はわかった。その本の元々の持ち主が、鍵を握っているかもしれない。
「本を寄付した人がどんな人だったかとか、その人の周りで何かあったとか、教えてもらえますか?」
「えっと、普通の魚屋のおじさんですよ。今も元気ですよ。変わったこともないと思います。最近も、普通に働いていらっしゃいます。本が好きな方で、よく図書館を利用されています」
前の所有者は問題なかった。何か図書館で、原因があったと考えるべきだろう。前の所有者が、仕掛けをしたとはクーナの口振りから考え難い。
「なるほど、すみませんが、その本を見てもいいですか?」
この流れなら、本を見せてもらえるかもしれない。そう思ったララティナは、いよいよ本題を切り出すことにした。
「……わかりました。お見せしましょう。付いて来てください」
クーナは少し悩んだが、本をみせることにした。ララティナは何か知っている、そう思った。
◇
クーナに連れられて、ララティナは、図書館の奥に来ていた。クーナは本棚から一冊の本を取り出した。
「これがその本です」
「ありがとうございます」
本を渡され、ララティナは、驚いた。異様な気配がする。邪気のようなものが渦巻いている。
「クーナさん、何も言わずこの本を渡してくれませんか?」
「えっ!」
ララティナは、すぐに焼却すべきと判断した。中身を探って問題なければすぐに処分したいと思う程、嫌な感じだった。
「急に、どうしたんですか?もし、この本に何かあるなら、教えてください」
それはできなかった。魔女の秘密を言わなければならなくなる。しかし、放っておくことはしたくない。ララティナは、説得を試みることにした。
「詳しくは言えませんが、この本は危険です。手放した方がいい。この本がある限り、不幸は続きます」
「そうなんですか……でも、危険というなら、ララティナさんに渡すというのも、ダメです。責任を取って、私が処分します」
クーナは、思ったより、すぐに信じてくれたが、今度はララティナの心配をし始めてしまった。
ララティナはクーナがとてもいい人だと思った。こんな怪しいことを言っている自分を心配してくれるなんて。
しかし、この本に何があるかわからない現状、普通の人に処分を任せる訳にはいかなかった。
「えっと、クーナさん……はっ!」
「えっ!」
再び説得しようと思っていたララティナだったが、違和感に気付いた。
クーナの手から、本が落ちた。意思を持っているかのように蠢いた本は、ゆっくりと落ち、開いた状態となった。
「本が落ちた……?」
と、クーナが本を拾おうとに手を伸ばした、その時だった。
「きゃあ!」
本より伸びた植物の蔦のような物が、クーナの腕に巻き付き、本側へと引っ張った。
すると、クーナの腕が本に飲み込まれた。いや、腕だけではない。顔や体までどんどん吸い込まれていく。
「だめ!」
ララティナは、咄嗟にクーナの足を掴み、引っ張ろうとした。しかし、あまりに強い力には勝てず、ララティナまで本に吸い込まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます