第3話 タルブの町で
ララティナは、予定通り、近隣の町タルブを訪れていた。
タルブはルルティナのいた村から近く、近辺では最も大きな町である。
「箒で飛ぶのって、早くて楽だけど、結構疲れるんだよね」
「だが、箒以外ではここまで早く町に着かなかっただろう。空ならば危険も少ない」
深夜に出発し、着いた時には早朝になっていた。ララティナは宿を取り一日休んでから調査を始めることにした。もう、正午も過ぎている頃だった。
「休んだから、元気はいっぱい!調査に向かおう」
宿の部屋の中でシュバルツと話していたララティナは、調査に向かうことにした。
「しかし、部屋の中とはいえ、我と会話していいのか?」
「だって、念話より普通に話した方が。いいもん」
『そういうものか、しかし、出かけるのだから、念話に切り替えるぞ』
『うん、わかった』
ララティナにとって、シュバルツとの会話は、気分を和らげてくれるものだった。念話はそれはどれで疲れるため、普通に会話できるなら、そうしたかったのだ。
『今日は図書館に行こうと思うの』
『ふむ、情報収集か?だが、普通の図書館に、魔女の禁術の情報があるのか?』
図書館に向かっているララティナに、シュバルツはそんな問いかけをしてきた。
『うん、魔女の存在は、秘匿されてはいるけど、伝説や伝承では伝えられてるんだ』
『ほう、それを調べるのか?』
『そうだね、そういうものには、魔女が意図的に残している部分があるんだ。それは一般人には理解できないけど、魔女なら有用な手がかりになるの』
ララティナは、昔ルルテアから教わったことを思い出しながら答える。
具体的な方法は、知らないが、魔女が見たらわかるようなことなら禁術に繋がるかもしれない。
◇
会話している内に、図書館に着いた。しかし、どうも様子がおかしい気がした。
『うん?何だか違和感が……』
『人の気配が少ない。一応警戒しておこう』
シュバルツの言葉で、ララティナも気づいた。図書館には人がいないのだ。
いや、正確には違う。受付に女性が一人立っていた。眼鏡をかけた大人しそうな女性だった。恐らく、司書であろう。何やら困惑しているように見える。
「あの、どかしましたか?」
「あ、あの、その、えっと」
戸惑っているようだ。
「そのですね、えっと」
「何やってんだ、お前ら」
司書らしき人物が話始めようとしていると、図書館に初老の男性が入って来た。
「クーナ、お前いくら仕事だからって、律儀に図書館に来てんじゃねえよ!」
「は、はい、すみません」
「別に怒ってんじゃない!危険だろうが!ちょっとは考えろ!」
初老の男性はかなり怒っている様子だった。
しかし、その怒りは、クーナと呼ばれた女性を、心配している故のものに思えた。
しかし、ララティナからすると訳がわからない。思い切ってきてみるとしよう。
「あの、いいですか?」
そう聞くと、初老の男性は、こちらに目を向けると、
「あんた、旅人か?悪いが、今ここは危険だ。用事なら我慢しな」
と言ってきた。
別に急ぎの用という訳ではないが、図書館がずっと使えなくなると、少々まずいだろう。
ララティナは、詳しい話が聞きたいと思った。
「ここで、何かあったんですか?」
「まあ、そうだな」
初老の男性は、少しばつが悪そうにしながら説明を始めた。
「実はここ最近、この図書館を利用していた奴が、殺されていてな」
「殺されて?」
「ああ、この図書館で殺されたんだ。そして、この事件には不可解な点が多い。つまりは危険だ」
殺人事件とは物騒だ。しかし、不可解な点とは何だろうか。
「てことで、ここに居るんじゃないぞ、わかったな。二人共だ、いいな」
そう言って初老の男性は、去っていた。
ララティナがどうしようかと悩んでいると、クーナが話しかけてきた。
「あの、お答えできずすみませんでした。私、クーナっていいます」
「あ、はい。私はララティナっていいます。あの、クーナさん、もっと詳しい話を聞いてもいいですか?」
ララティナは、少し気になったので、もっと詳しく聞いてみることにした。クーナは少し悩んだ後、
「最近、図書館に来た男性が、亡くなったんです。この図書館の中で」
と話始めた。
「亡くなった?」
「そうなんです。あの時は、お客さんは数名いましたが、突如悲鳴が聞こえて、その方向に行ったら……遺体を見つけたんです。その、上半身と下半身に半分になった遺体を」
「!」
ララティナは驚いた。そんな猟奇的な事件が、この図書館で起きていたなんて、と。そして、目に涙を浮かべているクーナを見て、自分が過ちを犯したことに気が付いた。
「ごめんなさい。クーナさん、私、無神経でした。そんな話聞いてしまって」
「あ、いえ、謝らないでください。それに、ここからが重要なんです」
クーナの口振りから、不可解な事件とは、その猟奇的な部分のことかと思ったララティナだったが、どうやら違うらしい。
「すぐに、兵士の方々に連絡したんです。最初は、図書館の中にいた私を含めた人が、疑われました。けど、すぐに違うと判明しました。兵士の方々が調べたところ、遺体に不可解な点があったみたいなんです」
「不可解な点?」
「はい、どうやら遺体は、何かに締め付けられて、分けられたみたいなんです。そんなことが出来る人間なんて、存在しないという見解から私達の疑いは晴れました」
ララティナは再び驚くことになった。締め付けて分けられたなんて、どれ程の力で締め付けられたのか、想像も着かないのだった。
「それだけではないんです。事件を調査していた兵士の一人が、行方不明なんです。その人も、どうやら最後は図書館にいたみたいなんです。だから、この図書館は呪われていると町では噂になっていて」
話を聞き、この図書館では、殺人事件と失踪事件が起きているらしい。そして、ララティナは思案する。そんなことが出来る存在を。
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