第3話 タルブの町で

 ララティナは、予定通り、近隣の町タルブを訪れていた。

 タルブはルルティナのいた村から近く、近辺では最も大きな町である。


「箒で飛ぶのって、早くて楽だけど、結構疲れるんだよね」

「だが、箒以外ではここまで早く町に着かなかっただろう。空ならば危険も少ない」


 深夜に出発し、着いた時には早朝になっていた。ララティナは宿を取り一日休んでから調査を始めることにした。もう、正午も過ぎている頃だった。


「休んだから、元気はいっぱい!調査に向かおう」


 宿の部屋の中でシュバルツと話していたララティナは、調査に向かうことにした。


「しかし、部屋の中とはいえ、我と会話していいのか?」

「だって、念話より普通に話した方が。いいもん」

『そういうものか、しかし、出かけるのだから、念話に切り替えるぞ』

『うん、わかった』


 ララティナにとって、シュバルツとの会話は、気分を和らげてくれるものだった。念話はそれはどれで疲れるため、普通に会話できるなら、そうしたかったのだ。


『今日は図書館に行こうと思うの』

『ふむ、情報収集か?だが、普通の図書館に、魔女の禁術の情報があるのか?』


 図書館に向かっているララティナに、シュバルツはそんな問いかけをしてきた。


『うん、魔女の存在は、秘匿されてはいるけど、伝説や伝承では伝えられてるんだ』

『ほう、それを調べるのか?』

『そうだね、そういうものには、魔女が意図的に残している部分があるんだ。それは一般人には理解できないけど、魔女なら有用な手がかりになるの』


 ララティナは、昔ルルテアから教わったことを思い出しながら答える。

 具体的な方法は、知らないが、魔女が見たらわかるようなことなら禁術に繋がるかもしれない。





 会話している内に、図書館に着いた。しかし、どうも様子がおかしい気がした。


『うん?何だか違和感が……』

『人の気配が少ない。一応警戒しておこう』


 シュバルツの言葉で、ララティナも気づいた。図書館には人がいないのだ。

 いや、正確には違う。受付に女性が一人立っていた。眼鏡をかけた大人しそうな女性だった。恐らく、司書であろう。何やら困惑しているように見える。


「あの、どかしましたか?」

「あ、あの、その、えっと」


 戸惑っているようだ。


「そのですね、えっと」

「何やってんだ、お前ら」


 司書らしき人物が話始めようとしていると、図書館に初老の男性が入って来た。


「クーナ、お前いくら仕事だからって、律儀に図書館に来てんじゃねえよ!」

「は、はい、すみません」

「別に怒ってんじゃない!危険だろうが!ちょっとは考えろ!」


 初老の男性はかなり怒っている様子だった。

しかし、その怒りは、クーナと呼ばれた女性を、心配している故のものに思えた。

 しかし、ララティナからすると訳がわからない。思い切ってきてみるとしよう。


「あの、いいですか?」


 そう聞くと、初老の男性は、こちらに目を向けると、


「あんた、旅人か?悪いが、今ここは危険だ。用事なら我慢しな」


と言ってきた。

 別に急ぎの用という訳ではないが、図書館がずっと使えなくなると、少々まずいだろう。

 ララティナは、詳しい話が聞きたいと思った。


「ここで、何かあったんですか?」

「まあ、そうだな」


 初老の男性は、少しばつが悪そうにしながら説明を始めた。


「実はここ最近、この図書館を利用していた奴が、殺されていてな」

「殺されて?」

「ああ、この図書館で殺されたんだ。そして、この事件には不可解な点が多い。つまりは危険だ」


 殺人事件とは物騒だ。しかし、不可解な点とは何だろうか。


「てことで、ここに居るんじゃないぞ、わかったな。二人共だ、いいな」


 そう言って初老の男性は、去っていた。

 ララティナがどうしようかと悩んでいると、クーナが話しかけてきた。


「あの、お答えできずすみませんでした。私、クーナっていいます」

「あ、はい。私はララティナっていいます。あの、クーナさん、もっと詳しい話を聞いてもいいですか?」


 ララティナは、少し気になったので、もっと詳しく聞いてみることにした。クーナは少し悩んだ後、


「最近、図書館に来た男性が、亡くなったんです。この図書館の中で」


と話始めた。


「亡くなった?」

「そうなんです。あの時は、お客さんは数名いましたが、突如悲鳴が聞こえて、その方向に行ったら……遺体を見つけたんです。その、上半身と下半身に半分になった遺体を」

「!」


 ララティナは驚いた。そんな猟奇的な事件が、この図書館で起きていたなんて、と。そして、目に涙を浮かべているクーナを見て、自分が過ちを犯したことに気が付いた。


「ごめんなさい。クーナさん、私、無神経でした。そんな話聞いてしまって」

「あ、いえ、謝らないでください。それに、ここからが重要なんです」


 クーナの口振りから、不可解な事件とは、その猟奇的な部分のことかと思ったララティナだったが、どうやら違うらしい。


「すぐに、兵士の方々に連絡したんです。最初は、図書館の中にいた私を含めた人が、疑われました。けど、すぐに違うと判明しました。兵士の方々が調べたところ、遺体に不可解な点があったみたいなんです」

「不可解な点?」

「はい、どうやら遺体は、何かに締め付けられて、分けられたみたいなんです。そんなことが出来る人間なんて、存在しないという見解から私達の疑いは晴れました」


 ララティナは再び驚くことになった。締め付けて分けられたなんて、どれ程の力で締め付けられたのか、想像も着かないのだった。


「それだけではないんです。事件を調査していた兵士の一人が、行方不明なんです。その人も、どうやら最後は図書館にいたみたいなんです。だから、この図書館は呪われていると町では噂になっていて」


 話を聞き、この図書館では、殺人事件と失踪事件が起きているらしい。そして、ララティナは思案する。そんなことが出来る存在を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る