第2話 漆黒の鎧
その瞬間、地面から強い光が発せられた。辺りを光が包み、視界が奪われる。
再び視界が戻った時、目の前に大きな人影があることに気が付いた。
まず、目に入ってきたのは黒、それは鋼鉄の姿であり、巨体であった。黒き甲冑を全身に纏った人型の魔物がそこに立っていた。
魔物は周囲を見渡した後、
「ふむ、呼ばれたか」
と呟いた。低い男性の声であった。言葉から、状況をある程度理解していると考えられる。
「あの、貴方が使い魔さんですか?」
思い切って声をかけてみると、
「ああ、貴様が我を呼んだ魔女か?」
と、やはりララティナのこともある程度理解しているようだ。しかし、見習いであるとまではわかっていないようだった。
「はい、ララティナと申します。えっと、急に呼び出してしまって……」
「待て」
ララティナは色々と説明しようとしたが、魔物は、その言葉を遮った。
「我は使い魔として、呼ばれたのだろう。堅苦しくする必要はない、楽にしろ。我と貴様は対等であるべきだ。契約とはそういうものだろう」
何だか小難しい言い方だが、言っていることは理解できた。要はもっと気楽でいいということだ。
「えっとね、実はまだ正式な魔女では無くって、これから、そうなる為の試練を受けるんだ。それに力を貸して欲しくて貴方を呼んだの」
それを聞いた魔物は、
「構わん、我等にとって、その辺りは大差ない。我を使い魔として召喚できたということ、こちら側としてはその事実だけで充分だ」
と、気にしていないようだ。
「そうなんだね、よかった。魔物さん?よく考えると名前もまだ聞いてなかったね」
「名前については、貴様の師と思われる女が、解説してくるだろう」
魔物の言葉に、ルルテアは苦笑いしながら、
「ララティナ、この黒騎士さんは鋭いわ。いい使い魔を召喚したわね。彼の言う通り解説するわ」
と、前置きして、解説を始めた。
「使い魔の名前は召喚者が名付けるのよ。名前というのは特別よ、これによって使い魔を自分の物とするの」
ララティナは、名前を付けると聞いて、悩み始めてしまった。
「な、名前ですか?そうですね。た……大切なことですよね、ちょっと待って下さい。考えます」
重要なことだと考えるララティナだったが、もう一人の当事者である魔物は、
「あまり、考える必要はないぞ。貴様の好きに付けるがいい」
と、案外軽いように感じられる。けど、彼の言う事も最もだと、ララティナも思った。ここで悩みすぎても仕方ないので、直感で決めることにした。
「それじゃあ、シュバルツでどうかな?」
反応を伺おうとしたが、全身を黒い鎧で固めた魔物がどう思っているかは想像できなかった。
数秒置いてから、
「いいだろう。我が名はシュバルツ、使い魔として貴様の助けになろう」
と宣言した。
その言葉から、彼の感情は完全には読み取れないが、少なくとも嫌がってはいないのでは無いか、とララティナは思った。
「それで、どうするのだ」
「うん、実は急で悪いんだけど、早速試練の為の旅に出発したいんだ」
「なるほど、良いだろう」
シュバルツに急いで出発したいと伝えると直ぐに了承してもらえる。
「あ、でもその姿だと目立つよね。どうしようかな?」
「使い魔は、魔力を込めた宝石に入ることができるわ。私達の場合は、指輪の宝石よ。ララティナ、貴方はそのペンダントを使いなさい」
ルルテアに言われ、ララティナは自身が付けているペンダントを見る。金色のチェーンの先に、漆黒の宝石が付いたペンダントだった。
「はい、わかりました」
「それじゃあ、念じなさい。ペンダントの宝石と、シュバルツに触れさせなさい。そして、イメージしなさい。シュバルツがペンダントに入るのを」
言われた通り、シュバルツにペンダントを、触れさせる。集中し目を閉じる。イメージすると、変化がわかった。そっと目を開けると、そこにシュバルツの姿はなかった。
「シュバルツ、どうかな」
「問題無い。思ったより心地よいな」
ペンダントを首にかけると、何故だか安心した。心強い味方がいてくれる、そう思うと勇気が湧いてくるのだった。
「ララティナ、いい?使い魔との会話は普通にできるけど、念話といって、頭の中で会話することもできるわ」
「あ、はい。やってみます」
頭の中での会話、考えをララティナが、シュバルツに伝えようとすると先に、
『これでよいか?』
と、シュバルツが先に言葉をかけてくれる。
『ありがとう、聞こえるよ』
ルルテアの様子を見てみると、聞こえていないと、ジェスチャーしてくれる。
『うん、ルルテアさん達には、聞こえてないみたいだから大丈夫そうだね』
『そのようだな』
大丈夫そうなので、ルルテアに声をかける。
「ルルテアさん、大丈夫そうです」
「よかったわ。それなら、私の最後の授業は終わりよ。いよいよ貴方の旅が始まるわ。準備はいいか、一から確認するわよ」
そう言われて、旅に必要な物の確認作業に入る。
「まずは、鞄」
魔女の鞄は中が異空間になっていて、入れる物に制限が無い。これの中に魔女の道具が入っている。
「次に帽子」
魔女の帽子は三角形の帽子、これには特別な力を付与したりするが、ララティナのはただの帽子である。
「次にマント」
魔女のマントは透明マント、使うと存在を消すことができる。
「次に箒」
魔女の箒は、空飛ぶ箒、これで自由に空を飛ぶ事ができる。
「最後に杖」
魔女の杖は、魔法の杖、この杖から魔法を放ったり、照準を定めたりするのに使う。
「魔女にとって必須な物は、そんなところかしら。その他、旅に必要な物は準備できているわね?」
「はい、ちゃんと、偽装用の物も持っています」
魔女は、基本的に一般人に正体がばれてはいけない。そのため旅する時には偽装用に普通の鞄なども用意しておくのが普通だ。
「良さそうね、さて、ここまでは師匠として、ここからは家族としての言葉よ」
そう言うとルルテアは、そっとララティナを抱き寄せ、
「ララティナ、正直に言うと私はとても心配なのよ。貴方には、魔女となるべき能力が備わっているとわかっているはずなのに」
と呟いた。
「ルルテアさん……」
「師匠としては失格かもしれないけれど、あえて言うわ。辛くなったら、いつでも戻って来ていいのよ。ここは貴女の家なのだから」
ルルテアは、優しくそう言った。その言葉は、ララティナにとってとても心強い言葉だった。
しばらくの沈黙の後、
「いけないわね、師匠の私が、こうでは。ララティナ、気を付けて行くのよ」
と言い、体を離す。
いよいよ旅立ちの時だ。ララティナは、帽子とマントを身に着け、箒に跨る。
「行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃい」
「気を付けなよ」
ルルテアとハクジャに見送られ、出発する。
大地を蹴ると体が浮き上がる。重心を前に向けると、そのまま前へと進んでいく。前に進んだら、振り返らない、寂しくなってしまうからだ。
「ララティナよ、どこへ向かう?禁術の在り処はわかっているのか?」
「えっとね、まずは近くの町で、手がかりを探してみようと思ってる」
シュバルツに聞かれとりあえず、今の計画を説明する。
ララティナは、頭の中で地図を思い浮かべながら、口を開いた。
「ここから西に行くと、タルブという町があるの。この近くなら一番大きな町だと思う」
「なるほど、いい案だろう」
シュバルツは、極めて冷静に答えてくれる。
「にしても、何だか安心したな」
箒で飛びながら、ララティナは、呟いた。ララティナの体はマントの力によって外部からは見えていない。
「何のことだ?」
「シュバルツがいい人そうで、よかったってことだよ」
そう言うと、シュバルツは少し沈黙した後、
「いい人という訳ではない。我と貴様は、契約関係にある。貴様を守ることが我の使命だ。ギブアンドテイクというものだ」
と、冷たく言い放った。
「ま、まあ、それでもいいけど」
ララティナは、あまり納得できなかったが、気にしないことにした。
スピードを上げ、町を目指す。
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