195.妻のちょっとした夫への復讐

 夫婦というのは、家族ではあるが同時に他人である。紙切れ一枚で『家族』というていが出来上がるが、根本的には別々の世界で生きてきた赤の他人なんである。


 そんな他人が一緒に居れば、時には不満だって爆発するわけである。



 ……と、しっとり始まりましたがね、今日の無雲はけっこう心がスッキリしてるんですよ。これはね、おいたんへの不満を実力行使でちょっとだけ解消したからなんですよ。


 いきなり結論を書いても話が通じませんので、まず順を追って書いていこうと思います。イェイ!!


 

 昨日は日中からマイナス思考に囚われていて、パッとしなかった無雲なのですが、やっぱり夜にはお酒を飲んでました。が、内臓が疲れていて眠くなるまで飲めなくて、何だか中途半端にアルコールを体内に取り込んでいた状態でした。



 二十二時、一応寝てみるか……と床に入りますと、脳が覚醒状態で全く眠れない。そして思考はみるみるうちに『死』で染まっていき、もうどうしようもないくらいの絶望感に襲われてしまいました。



 して、シクシク泣き始めた無雲なのですが、おいたんは「泣いても仕方ないだろ」「頑張って生きるしかない」などとのたまう。「お前のせいだボケ!」と叫びたい無雲でしたが、それは言っちゃいけない気がして、ただただ「死にたい」と言いながら泣いてました。それでもおいたんは「泣くなよ(イライラ)」と言うばかりなので、無雲は母から睡眠薬を貰おうと部屋を飛び出しました。



 で、母の元へ行ったのですが、「お母さんが飲んでる眠剤効かないから、飲んでも無駄だと思う」と言われ、とりあえず泣きながら母と話しました。



 母と一時間以上話し、落ち着いてきた所でウイスキーを三杯ほど飲み、ホワアァァとしたので寝ようとすると、母からある入れ知恵をされました。



 して、ここから『妻のちょっとした夫への復讐』が始まったのです。



 部屋に入ると、寝ているおいたんが目に飛び込む。無雲はそのおいたんの足を、グニィィィッ!!! っと踏みつけた!!!


「いってぇぇぇぇ!!!!!!」

「あ、ごめーん。下見てなかった☆」


 巨漢……いや、豊満な無雲の肉体をもって踏みつけられれば、そりゃ痛いでしょ。ヘヘヘ。


 寝床に入っておいたんの方を向いて寝ようとすると、またおいたん叫ぶ。


「酒臭ぇぇぇ!!!」


 無雲、無言で深呼吸を繰り返す。おいたんに向けて、プハァァァァッ!!! って。


 さらに、寝る直前に飲酒したからトイレが近い。


「トイレ行ってくる」


 ムクッと起き上がった無雲、またもややった。グニィィィィィ!!!


「いてぇぇぇぇぇ!!!!!!」

「あ、ごめん。眼鏡してなかったから足見えなかった☆」


 

 スカッとしたわ(笑)。


 これくらいやっても良かろうよ(笑)。



 排水溝を旦那の歯ブラシで磨く奥様が存在する、と聞いた事があるのですが、きっとその人たちと同じ心境で、私はこの足踏み行為と深呼吸をしていたのですよ。これね、母からの入れ知恵なのです。



「いい、寝ている所、偶然を装って足を踏むのよ。いいわね?」



 恐らく母も父にやっていたんだと思いますよ、この作戦(笑)。



「今はベッドで寝てるからお父さんの足踏めないけど……ふふっ」



 ってほくそ笑んでましたからね(笑)。



 可愛いもんでしょ、こんな嫌がらせ。ケケケッ。無雲が与えられたダメージに対する罰としては、可愛い可愛い。無雲の体重がBMI三十以上ある豊満さだとしても、可愛い可愛い。



 いやね、この行為をしたら凄くスッキリしましてね、その後はよく眠れましたわ。

歯ブラシで排水溝磨かないだけ良しとしてくれるかな。うん。歯ブラシにバイ菌が付いて、口腔内に異常が生じると高くつくからやらないだけなんですけどね。ケケケッ。


 

 無雲は、ちょっと悪役令嬢な気分。悪役奥様というべきか。



 無雲だって、聖人じゃないのであります。時にはおいたんに対する不満だって爆発するわけであります。それを、溜め込んで放出するより、小出しにした方がいい。多分。



 以上、妻のちょっとした夫への復讐エピソードでした☆

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