第12話

 無意識に辺りを見回すがケイトの姿はない。

 

 人はたくさん倒れていたけど、子どももたくさん倒れていたけど、ケイトはいなかった。



 嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。



 もはや船は水平を保っておらず、沈没するのにもう何分もないことは直感的にわかった。


「どこ、ケイト……ケイトぉぉっ!」


 私の叫び声は響かず、覆い被さるように降る雨がかき消してしまう。船のどこからか鈍いギシギシという音がした。


 どこにもいない。

 

 ケイトがいない。ずっと一緒にいたケイトが、いない。

 

 私はふらつきながら手すりまで近づいて眼下の海を見渡す。

 真っ黒な海には救命ボートがいくつも浮いていたが、大波に煽られて転覆するのが見えた。人がこの海に投げ出されればまず助からないだろう。


 私のいる正面にいた黒い船の先端がまた閃光を放ち始めた。


「……どうしてよ」


 私達の大陸が沈んだと聞いた。ならば彼らの行動の真意は明らかだ。

 

 彼らにも守るものがあるのだろう。守らなければならない命があるのだろう。

でも私は言わずにはいられなかった。訴えずにはいられなかった。

 

 どうして人間が人間を殺すのだ。

 どうして手を差し伸べられないのだ。

 大切な人を守るために、どうして誰かが犠牲にならなければいけないのだ。

 

 どうして、どうして。

 

 私の言葉はかき消され、無慈悲の閃光が襲ってくる。

 再び、身体が宙に浮いた感覚を持ったと同時に、私の意識は消失した。


 その刹那に見えた夜空にはやはり、星はどこにもなかった。

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