第11話
迷いを拭い切れていない状態で、私は泣いている男の子のそばでしゃがんだ。
「君、お母さんは? どこまで一緒だった?」
男の子は泣きながら「わからない」とだけ言った。
私は辺りを見回すが、逃げ惑う人でごった返していてそれらしき人はいない。私がどうするかと考えていると、ケイトが私から離れて降りた。すると、ケイトは何も言わず男の子の手を両手で握った。
その様子を見て、私は時間が止まったような気がした。
荒れ狂う波の音も、雨粒がデッキを叩きつける音も、混乱する人の声も全て消える。
頭の中を巡っていた迷いは完全に消えて、私は微笑むことが出来た。
「よし。お母さんを探すよ、ケイト」
「うんっ」
ケイトが私を見上げて笑ってみせた、次の瞬間だった。
ケイトの笑顔をかき消すように、私の視界が白い光に包まれる。
鼓膜が破れるかのような轟音が炸裂し、身体に浮遊感が巡ったと思ったときには私は倒れていた。
キーンというこれまでの何倍もの耳鳴りが耳にこびり付いている。だんだんと、喧騒が蘇ってきた。雨に濡れる床の冷たさを頬に感じた。まるで脳みそをぐちゃぐちゃにかき混ぜたように気持ち悪い。
混濁する意識の中でついさっきのケイトの笑顔が浮かんだ。
私は歯を食いしばりながら、無理矢理身体を起こした。目の前に飛び込んできた光景に絶句する。
「え…………」
何メートルも吹き飛ばされていたことよりも、背中の激痛よりも、目の前の光景に思考が止まる。
私がさっきまでいたデッキの半分が、無くなっていた。
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