第9話
「出入口の方からね。ちょっと聞いてくるわ」
そう言って、女の子の母親が立ち上がった。
子どもたちが場の異変に気が付いた様子はなかった。到着まではあと一週間近くあるから大事でなければいいのだけれど。
しかし、すぐに戻ってきた彼女の顔を見て私の杞憂が現実になることがすぐにわかった。
「落ち着いて聞いてね」
小声で耳打ちしてきたその声は、必死で冷静を装っているのがわかった。
「…………沈んだらしいわ」
「え?」
「私達の大陸が、沈んだって」
頭の中から思い切り鈍器で殴られたような衝撃を受けた。すぐには理解出来ずにもう一度聞き直す。
「沈んだ?」
「私達が出航してすぐに嵐になって……それでほとんど飲まれるように」
身体の震えが止まらなかった。心臓が最後のあがきのように狂って鳴っている。
じゃあ、父と母は。
「お姉ちゃん 船がいるよ」
ケイトの声に私は女の子の母親と眼を合わせて窓の外を見た。
外は雨が降り始めていて視界が悪い。
けれど、確かに何十メートル先には黒い船がいた。中央マストの上には白い旗が生きてるように靡いている。
あれは多分中枢政府の旗だ。どうしてこんな海の真ん中に。
私がそう思った瞬間、聞いたことない大きな音と共に船が揺れた。悲鳴がそこら中でわき上がる。私は反射的にケイトの手を引っ張って抱き寄せた。
再び、衝撃が船を襲う。誰かが叫んだ声が聞こえた。
「砲撃よっ!」
私は再び窓の外を見る。
先ほどの黒い船を視界に収めた瞬間、船の先端が白い閃光を放った。白い細い糸のような光は海を裂きながら私達が乗る船の後方に当たった。
刹那の空白を要したあと、また同じ爆発音が響いた。
政府が攻撃していることは疑いようがない。だが今は何故なのかと答えを探し始めた思考を閉じる
私が出来るのはここで悩むことではない。
優先順位を、考えろ。
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