第8話
移住先の大陸までは十日ほどかかると言われていた。
船は客船というには程遠く、私達は船内のホールに雑魚寝する形の船旅となった。元々、移住の為に作られたような船で中央付近にいる私達からでも端にいる人の顔は判別出来ないくらい広い。
仕切りやカーテンなどはなく、それでも周りの会話を少なかった。私達は故郷と永遠の別れを果たしたのだ、当然だろう。
ケイトは最初こそ落ち込んでいたが、今では初めての船に興奮しているようだった。私達の座る位置が窓のそばだったことからもう何時間も窓の外を見つめている。
私も彼が見ている窓の外に眼を向けた。
出発してから二日が経つ。見えるのは一面の海景色だった。日は力尽きたように落ちかけて薄暗くなりかけており、曇天模様も相まってあまり気持ちの良い景色ではない。それでも、ケイトにとってはどこまでも海という景色は新鮮なのかもしれなかった。
そこへ一人の女の子がケイトの隣りにやってきて、窓の外を同じように見始めた。ケイトも女の子も互いを認識していないように外を見つめている。
「すみません、いきなり」
急に声をかけられ内臓が一瞬跳ね上がった。
どうやら女の子の母親のようだ。知らない人と話すのが苦手な私は会釈だけ返すと、母親は一礼して私の隣りに腰を下ろした。彼女は私とケイトを交互に見たあと続けた。
「親子、ではないわよね? もしかして兄弟?」
私が頷くと母親は掌を合わせて「まあ」と笑顔を見せた。
「兄弟なんて素敵ね。今の時代そうそうないことよ。お母様は頑張ったのね」
母が褒められて私は素直に嬉しかった。
同時に、いま自分がケイトの母親代わりだということを再認識する。人見知りなんてこれからは言っていられない。
私が思いきって何か話しかけようとしたとき、場の空気が変わった気配があった。どこからか伝染してくるように、ざわめきが深くなっていく。
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