第5話

 私は深呼吸をしてからベッド脇に座る。

 大人の動揺は子どもにダイレクトに伝わるものだ。平常心を保たなければならない。

 最近、年寄りくさいなとあろうことか父に言われたが、こういうところなのかもしれない。


「ごめんね、起こしちゃった?」


「……夢をね、見たんだ」


 ケイトはまどろんだ声で言う。


「夢?」


「お姉ちゃんがいて、お母さんがいて、お父さんがいて、シーちゃんの家族もいて、動物たちもいっぱい。みんなで楽しく過ごしてるの」


 シーちゃんとは、ケイトが週一で通っている学校の女の子だ。多分好きなんだろうけど、私には恥ずかしがって教えてくれない。


「本で読んだ。そういう楽しくて幸せな場所は楽園っていうんだよ」


「楽園か」


 ケイトの頬を撫でると、ケイトは薄らと笑ってすぐに寝息を立て始めた。

 

 楽園。幸せな場所。

 

 掌から伝わる熱い温もりが、私の心を駆り立てる。


「私が、守らないと」


 姉馬鹿でもいい。年寄りくさくてもいい。


 それはもうじき私にしか出来ないことになる。


 強い決意とは裏腹に、その夜は身体の震えが止まらなかった。

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