第12話 束の間の気づき

「うわでっか。ひくわー」


「今までそれなりの人がうちに来たが、「ひくわー」なんて口にしたやつは君が初だよ」


「え、まじ?こんなロウソク刺さった誕生日ホールケーキみたいな形しといてこの大きさはないでしょ」


領主の館を見て的外れな感想を呟いていると、俺と領主であるメルト・ヴァライズを乗せた馬車は領主の館の中へと入っていく。入り口前の広場で馬車の乗降口を御者兼執事のおじいさんが開けてくれる。


さらに玄関の扉も執事のおじいさんが開くと敷かれた赤いカーペットの左右に執事とメイドたちが並んでお辞儀をしていた。


「うむ、ごくろう」


「それは百歩譲って領主でありここの長である俺のセリフじゃないかな?」


いいじゃん。やってみたかったんだし、一回で満足だから。


そんなことより絶賛スキル暴走中であるミナの元へと行く。部屋の前に着くと見てわかるほどごつい横スライド式の鉄のドアがあった。その横には開いた手の枠が書かれたパネルがあり、そこに手をかざすことでドアを開けられるようだ。


メルトがそこに手をかざした瞬間ドアが開く。すると次の瞬間には生活必需品が一式揃った部屋の中、テーブルに腕を乗せ、椅子に座って足をぶらつかせる少女からスキル暴走による波動を感じたので自らのスキルで自分とメルトを防御する。


分壁ぶんへき


そう呟くと二人の前にレンズ状の光の盾が生まれる。それのおかげで二人はスキル暴走の影響から逃れるのだった。


「…やっぱりか」


悲痛な気持ちを押し殺しながらも俺はそう呟く。視線の先ではスキル暴走している張本人、ミナと思われる少女が空を見つめて微笑んでいた。あれはだめだ。あの顔は自分が普通の生活をすることを諦めた顔だ。何度も見たことある。


「言いたいことはわかる。俺もどうにかしてやりたい。そのためにいろいろ手は尽くした。だが俺が頑張れば頑張るほど、ミナは普通を諦めてしまう」


メルトからしてももどかしい状況なのだろう。これはすぐに解決して、すっきりした気持ちで至高のベッドで眠るとしよう。


「あ、お父様。とどちら様でしょうか」


「ああ。彼は「いい。自分で紹介する」


こちらに気づいたミナがこちらに尋ねてこようとするのに対し、メルトが答えようとするのを俺が遮る。


「俺はエドモンド。君と同じくスキルという名の呪いに侵され、その呪いを手懐けた男だ」


その紹介を聞いて二人が驚く。ファングのやつ、俺の来歴に触れることは説明しないでくれたようだな。


「エドモンド、君は…いや、余計な詮索は止そう」


メルトはファングからあまり過去の話をしないように忠告されていたことを思い出し、言葉を引っ込める。


「いや、こんなおっさんのくだらない昔話に興味があるなら少しだが話すことにしようか。これがきっと君がスキルを飼いならすきっかけになるはずだ」

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