第11話 束の間の依頼
ファングと話した次の日、いつもの解体仕事をしたあと、ギルドに来る前に買っておいた昼ご飯を作業場で食べる。それを食べ終わってしばらくゆっくりしているとファングから再びギルドマスター室に呼び出されていた。
「はい、というわけでこの人がこの町ヴァライズの領主であるメルト・ヴァライズ伯爵だ」
「お前さんのほうが合いに来たがらんみたいだからな。俺のほうから会いに来ちゃった」
ファングの横には黒い髭をたっぷりと蓄えた黒長髪お爺さんがニカッとした笑顔で立っていた。染めてるのか?てか何が「会いに来ちゃった」だよ。町のトップににしちゃ茶目っ気たっぷりだな。
「ちなみに年は俺らと似たようなもんだぞ」
「じゃあその髭はなんだ?」
「それが今回のことに関係している」
わざわざ会いに来るってことは何かあるんだと思ったが、やっぱり面倒事か。
「今回『
その瞬間ファングのほうを睨む。どこまでかは分からないが喋りやがったな?
「一応言っておくが何も言ってないからな。ただお前さんならミナ嬢のスキル暴走をどうにかできるかもしれないと俺が提案しただけだ」
スキル暴走とはその名の通り、自分のスキルがコントロールできず、意図せず周りに影響を与えてしまうことを指す。メルトの娘であるミナは現在14歳で、およそ七年も前にスキル暴走が起こってから現在まで領主が住む城を一度も出たことがないらしい。
もちろん七年前に発症してから領主としてのコネを使ってどうにかしようとしたが結果は芳しくなく、半ば諦めかけていたところでファングが提案したらしい。
「本来ならもっと前に提案したかったんだが、お前さんなら絶対断るだろうと踏んでいたからな。だが、この前のゴブリンエンペラーとの戦いを見て、今なら引き受けてくれるんじゃねーかと思ってな」
「…報酬次第だ」
「そう言えるようになっただけ成長だよ」
なんでおっさんがおっさんに褒められなきゃならねーんだ。褒めるならもっと色気あるグラマラスな大人女性に褒められたい。
「なら兄弟子であるあんたならどうにかできるんじゃねーのか?」
「俺でも解決できるかもしれないが、ギルドマスターが領主から直接依頼を受けたとなると外聞が悪い」
冒険者ギルドは世界をまたにかける独立組織。その一支部のトップに貴族がお金を渡しただけで賄賂だとイチャモンをつけられる可能性があるのだ。しかも具体的な顔が浮かぶだけにたちが悪い。
「一番波風立たずに解決するには名義上冒険者ギルドに雇われた一平社員であるお前が解決するのが早い」
「ちなみにだが報酬は俺の、領主としての最大限のコネで取り寄せた最高級のベッドを」
「よし受けよう」
即答である。睡眠大好きなおっさんとして定評のある俺にとって睡眠の質を左右するベッドは何物にも代えがたいものだ。領主が用意するものなら期待の品が来るだろう。
「これならわざわざ待つ必要なかったんじゃねーのか」
何やらファングが一人でぶつぶつ言っているが無視して、依頼を受けるうえで一番知っておきたい部分を聞く。
「結局ミナとやらのスキルは何なんだ?」
「我が娘ミナの持つスキルは『活性』。あらゆる生命の細胞を活性化させるスキルで、本来ならば活性具合も活性の方向性も操れるようになると思うのだが、今はスキル暴走のせいで動物も植物も無差別に成長させてしまう」
このスキル暴走が原因で外に出ることができず、基本的にはすべてが金属でできた部屋で生活しているらしい。それでも不幸中の幸いだったのはあくまで細胞の動きを活性するだけで細胞分裂は促さない、つまり寿命が縮むことはないということだ。
「ちなみにこの髭はミナのスキルの影響だ。なんせ毎日会うからいちいち切るのも面倒でそのままにしてるんだ」
心なしか嬉しそうに言うんじゃない。ニヤケ前回の髭だるまなんてどこにも需要ないから。そもそも活性するなら全身の毛と爪も伸びるはずだろ。
まあともかく俺は至高の寝床のために依頼を受けることになった。
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