第二章 おっさんは貴族と関わります

第9話 束の間の帰還

「はー、暇だな」


「そうですかギルマス。なら今すぐに仕事量を三倍にしましょう」


「それは勘弁してくれ。暇だと口に出すことで平和を実感してるんだから」


冒険者ギルドのサブマスターであるサブリナの辛辣な冗談にのどかに返すギルドマスター、ファング。エドモンドという怠惰を愛する男のせいでツッコミ体質の男だと思われがちだが、元来ファングもどちらかといえば大雑把な性格。立場が人を変えたいい例である。


「エドモンドのやつが連れてかれてから一か月。そろそろ戻って来る頃だろ」


「そうですかね?霊獣の気は長いですよ」


霊獣とはエドモンドが召喚した冥天のような魔物とは別の理で生きる者たちのことである。霊峰ミッドガルドで常に生活していることと不思議な力を使うこと以外は謎に包まれる存在でもある。


「霊獣の気は長くてもエドモンドの気が短い。そろそろまったく集中しなくなるだろうから冥天のほうから返してくれるさ」


するとファングの答えが正解であるかのように冒険者ギルドの出入り口付近で見覚えのある黒い光が発生する。騒ぎになるのは容易に想像がつくので、ファングとサブリナの二人ともその場所に向かう。すると目がバッキバキの明らかにやばそうな雰囲気のエドモンドが立っていた。周りにいた者たちも自然と避けている。


「無理、もう無理。寝る」


虚ろな表情のままファングのほうにそう伝えると、さまよう亡霊かのように自分の家へと帰るのだった。




それは在りし日の景色。幼き日の自分と周りにいる同年代の。師である男は弟子たち全員に向けて言葉を投げかける。


「君たちは未来の希望であり器だ。君たちが輝くための力添えならば、私は喜んで手を貸そう。それが巡り巡って互いの糧となる」


普段から漆黒のローブに身を包み、フードを目深く被る怪しげな師匠。そんな怪しげな人であっても弟子たちはみな師匠のことを信じていた。信じてしまっていた。




「久々によく寝たと思えば、懐かしい夢を見ちまったな」


数日前に帰ってきたかと思えば、本能に素直に従う形で我が家のベットへとまっすぐになだれ込んだ。そして懐かしい夢を見た後で目を覚ましてしまった。


「はあ、あと一週間は寝るつもりだったんだがな」


「それはさせねーよ」


声のするほうを見るとごつい図体のムキムキ男が部屋に侵入していた。


「おいおい、ここで起こしに来るのは幼馴染系美少女と相場は決まってるだろ。」


「お前がサボらんようにギルドマスター直々に起こしに来てやったってのに随分な言いぐさじゃねーか」


「美少女が起こしに来たなら多少はやる気になってたかもしれないよ」


「その雀の涙にも満たないやる気でお前が動くわけねーだろ。ほら行くぞ」


そういって米俵を持つかのように肩に担がれてドナドナされた。こうして俺の解体職人としての仕事が始まるのだった。ええ、始まるのかあ。やだなあ。

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