第8話 他愛ない切り札

ゴブリンエンペラーの頭上で仁王立ちする一人の男、つまり俺。

両手には銃としての側面を持った二丁の手持ち鉈。


「さぁ、一気に終わらせようか」


その言葉の意味を理解してか右こぶしが飛んできたので、踵落としで拳を砕く。

そのまま着地し、再び跳躍するとゴブリンエンペラーの頭上で横回転しつつ銃弾を円を描くようにして地面に撃ち込む。


「さぁて、仕込みは終わった。早くかかってこいよ」


ゴブリンエンペラーの背後へと着地すると、そう言って人差し指をくいくいっと動かし挑発する。


「フ、フ、フザケルナアァァァァ!!」


俺の思惑通り見事に挑発に乗って、俺の元へと一直線に駆けてくる。


…正確には駆けてこようとしたがそれすら叶うことはなかった。

俺に対して体が正面になるようにして方向転換をした途端、地面が崩落したのだ。


……まぁ、俺の仕業だけどね。


「ナ、ナンダコレハアァァァ!!!」


即席で作った奈落の底には漆黒の海が広がる。


「『冥土崩落』。地面を崩壊させ、その先に俺のスキルの効果がしっかり込められた黒い沼を発生させる技だ。一度その穴に落ちたら二度と出てくることはできないぜ」


そう言った俺の眼前に映るのは分解と再生を繰り返しながらドロドロに溶けていくゴブリンエンペラーの成れの果て。

這い上がろうとしているようだがまず不可能だ。なんせ踏ん張る足も、壁に掴みかかる手も再生したそばから分解されているからな。


そうこうしているうちに、ゴブリンエンペラーは完全に溶けきっていた。


「はぁ、やっと終わった。これで家で寛げる~」


「そんなわけあるか!」


大きく伸びをしながら『身の装』を解くと冥天から尻尾でツッコミを入れられる。


てか尻尾はよくないよ。砂埃が舞って咳出ちゃぶほっへっっくしょん。


「なぜ咳とくしゃみ同時に出とるんじゃ!」


「おー、君なかなかいいツッコミしてるね」


「はっ、しまったつい。…じゃなくて早くミッドガルドに行くぞ」


そういって俺を中心にとぐろを巻くようにして体を巻き付けてくる。薄々わかってたけど全く逃がさない気だ。


「ファング!こやつの性根を叩き直す。しばらく借りるぞ」


冥天が本陣の奥にいるファングへと直接伝える。けど俺からは何も見えない。


「ファングの奴はなんて?」


「うむ、綺麗なサムズアップじゃった」


あの野郎、帰ってきたら覚えとけよ。


冥天を呼んだ時と同じ黒い光の柱に包まれながら、俺は冥天が普段生活する秘境ミッドガルドへと拉致られるのだった。

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