「化け猫まつり」について

 

 前々回の投稿にあった「嵐に擬態する龍」からの展開。


 いきなりで申し訳ないんですが、「嵐に擬態する龍」って我々の世界の常識に照らすと循環参照なんですよね。擬態も何も、そもそも嵐は龍だから。

 しかしそのような理屈は、ファンタジーパワアの前に無力です。観測された事象を信じるのです。



【舞台の話】

 前々回のメモにもありますが、舞台のモデルは沖縄です。台風が来る珊瑚礁の島という事にしました。珊瑚岩の石垣、漆喰固めの屋根、棕櫚しゅろの木、赤い花、翡翠の海。


 本文中に「海豆花かずかの赤」と出してますが、あれはブーゲンビリアのイメージでした。いや、あの花はマメ科だそうなので、海沿いの豆科の花で海豆花です。


 読み方ですが、公開前の時点では海豆花ハ・ドゥビエンとしてました。が、ベトナム風フリガナを持つ単語が他に出てこなかったので、日本語由来の読み方に変更。

 「かいずか」だとリズムが良くなかったので、母音をいっこ落として「かずか」。

 祭司様を「さじさ」、おっ父様を「おっとさ」にしたのも同じ手法で、前作「化け猫ユエ」の荘園での訛りにも使ってます。お気に入り。


 水源を井戸ではなく湧き水を引く形にしたのも、沖縄の水利用を調べてて、そういうサイトを見たからです。


 これこれ。

https://www.eb.pref.okinawa.jp/kids/mamechishiki/002.html


 よく考えればこれも「水道」なので、「昔は水道はなかった」という老人の言い方はちょっとおかしいんですよね。書いてて気付きましたが、字数もギリギリだったので誤魔化しました。

 そうそう、沖縄には地下ダムがあるんですって! すごいな、資料館行きたいな(ごまかし)


 

【人物の話】


・化け猫娘

 人のふりをするモノの怪。モノの怪のふりをする人。

 本人が「どっちでもいい」と言っているのでどっちでもいいです。


 ところで、化け猫娘の名前を明記するか迷ったんですよ。明記すれば明らかな続編になりますし、こむら川へ出品するに際して「続編かあ」のバイアスはあると思ったんですよね。(注: こむら川小説大賞は、単体で成立する書き下ろしが条件)


 でも、前作を読んだ方からすれば明らかに同一人物です。右目が猫目のまじない師を出しといて「別人かも」なんて無理がある。そんなことするぐらいなら、堂々と名前を出してしまおう、となりました。


 エビバディセイホー

 続 編 で す ☆


 いいの。帆多は明るいユエがやりたかったの。

 この段階から、メモ書きもはっきり「ユエ」と記載しています。


 性格やしゃべり方の癖は前作から引き継ぎ。

 あれから百年ほどたって、いろいろ変わった所もあるのでしょう。が、そこには踏み込みません。そのための他者視点です。

 だいぶ省エネ構造してますね。僕は設定や背景をガリガリ作るたちなので、イチから組んだらギリギリだったかも。


 さてさて、せっかくの海ですし、髪の色は砂浜色と記載。

 翡翠の海という単語から黄金のビーチを連想してもらえるよう祈ります。

 金と琥珀のオッドアイについても、少年が琥珀を知らないので「濃さが違う」程度の表現に留めおいて、ユエは完成。

 

 あと、普段やらない事として、今作では化け猫娘のぶさを少年に目撃させました。

 僕は女性キャラの胸にはめったにフォーカスしないのですが、ボーイミーツお姉さんに性的連想は欠かせません。

 


・語り部


 老人の思い出語りをつかって進めるのは既定路線でした。

 これには理由が二つあって、ひとつは話中の経過時間を飛ばしやすいこと。もう一つは言わなくていい情報を隠しやすい事です。

 ユエ自身の設定は入り組んでいるので、視点をユエに寄せるとどうしても設定描写が長くなる。腐れ牛の味とか書かなきゃならなくなるし、右目のセリフや下腹の居候も無視できなくなります。

 今回は他者の目を借りて、右目の相棒と下腹の居候には一歩引いてもらいました。



 爺さんの昔話だとヤらしい感じになりはしないかと懸念して、当初の語り部は「老婆」でした。

 えてして男の昔語りは武勇伝になりがちです。

 しかしボーイミーツお姉さんの構図も捨てがたく、語り部をお爺さんに変更。ヤらしさはなんとか抑えましょう。


 一人称はわかりやすく「わし」。少年時の台詞では「ワシ」。たぶんあの島みんなワシ。

 年齢的にも社会的にも子どもである方が収まりがいいので、11歳としました。12歳で漁に出られる、つまり一人前扱いです。

 ボーイミーツお姉さんを選択したことで、当初のメモからは少し外れて進行(不信感うんぬんを削除)し、ユエの行動は想定よりも少しおとなしくなります。


 先述の通り語り部は胸を見ちゃってますが、猫頭で腐れ牛を喰ってた化け物のおっぱいなので、感覚的にはシレーヌ(漫画デビルマンに出てくる、鳥+女の悪魔)の胸を見たような感じだったはず。

 後からユエの身体の線を見て「あれが、あそこに」と合わせてしまう。

 それが思春期男子です。

 性癖の目覚め? 現時点ではあるともないとも言えます。

 

 ちなみに語り部のお爺さん、書き始めた時は90歳ぐらいの、当時の人間でもギリギリありそうな年齢で考えてました。

 ただ、ユエの血を飲んで、普通の人間のままでいられるかな、というので引っかかりが。

 他のまじない師と違って、ユエの血は下腹の居候の血でもあるから、うん、長命にしちゃえと。並外れた長命は良いことばかりじゃないから、こう、モノの怪に関わった因果っぽさがでるだろうと。

 よし、120歳超えで。


 こうして開幕の一文が決まりました。



・聞き手の学者


 昔話には聞き手が必要です。30歳ぐらいの民俗学者っぽい人をイメージ。ただ、名無しの化け猫娘を「ユエ」とする事が決まったので、彼女を知る人物が望ましいです。あからさまな説明係さんです。


 さてこの聞き手、何者にするか。


 案1: 前作ラストに出てきた青年

 案2: ユエの師匠が生まれ変わった姿。


 ユエを直接知る以上、話の聞き手は百年以上生きててくれないと困るので、ディテールがない「青年」は却下。

 ユエの師匠なら反魂法の一つや二つ使えるだろうと案2を中心にします。


 が、反魂法だの生まれ変わりだのをチマチマ説明する文字数もない。

 よし、ならば君は人の社会に溶け込んだ吸血鬼ヴァンピルだと、終幕を書きながら設定が決まります。

 「化け猫ユエ」では師匠不在の理由について明記していませんでしたが、ここで「魔女の吸い出しに失敗して返り討ちにあった」ことになりました。


 というわけで、ユエは吸血鬼ヴァンピルまじないを教わった化け猫となります。


 観測されるまで設定が確定しないシュレディンガーの化け猫です。


 ユエの師匠を聞き手に置いたことで、前作のモチーフ「君が忘れても私が覚えてる」が自然と絡んできました。


 師匠とユエの話も書きたい。


 

・おっ父様とさ


 最初は普通の村人として想定していました。

 ところが、7話あたりを書いていて二つの問題にぶつかります。


 ひとつ。天舌てんぜつ退治の対価をどうするか。

 ふたつ。お祭りの御輿(龍神的なやつ)にアクセスできる人が出てきていない。


 ふたつめの問題をクリアするため、父はとつぜん祭司さじになります。

 そうすると少年は祭司の子になるので、語り部も「村の古老」から「おお祭司さじ」にクラスチェンジ。

 このクラスチェンジがひとつめの問題を解決してくれました。

「そんなら、あんたを神様にしてやる!」



・おっ母様かさ

 お母さん。普通に。

 少年が寝込んでから二日間、ユエが同じ家に滞在していましたが、かなり話題に困ったんじゃないでしょうか。

 ハグ文化がないので、目を覚ました息子をペタペタ触ると言う謎な行動を取ります。



・兄様たち


 少年は末っ子じゃない設定だったのですが、そうすると邪魔っけな弟や妹を家の外に出す理由がいります。

 いいのが思いつかなかったので少年を末っ子としたところ、12歳を超えた兄たちはさっさと働きに出てってくれました。

 ここで「祭司を継ぐのは長男では?」となりましたが、化け猫娘をまつりあげる約束をしたのが少年でしたので、いろいろあったのでしょう。



【モノの怪】

疫鬼エキ

 もともと別の長編に出そうと思ってキープしていたです。西洋風の舞台なら鼠をモチーフにした所ですが、亜熱帯怪奇譚の舞台にはそぐわないので「蠅と蠅床」から腐れ牛となりました。腐っても牛だぞ。

 少年に向かってきたのは、新たな蠅床にするためでしょうか。


 疫鬼の役割は二つあって、ひとつはユエが村に立ち入る為のきっかけ。もう一つは下腹の居候の餌です。化け猫に何か喰わせておかないと、下腹の居候が主張を始める。そんなスペースはない。居候チートは今回出番なし。


 少年を重めの病気にするにあたり、「疫鬼に近づきすぎた」というのは最初から準備してました。もののついでで平笠に瘴気除けの機能を付加し、化け猫登場時の目隠しとします。


 最初、手ぶらで山に入らせたんですが、山に入って食べ物採ろうというのに手ぶらもないだろうと鉈を追加。


 尻餅つく展開は決まってましたが、鉈持ってるならどっか切るだろう。ちょうどいいから傷口に蠅でもとめようか、と話が盛られます。

(今思ったんですけど、籠ぐらい持ってかなきゃいけなかったよなぁ。慌てて家を抜け出したんだろうなぁ、少年)


 疫鬼、最後の展開までストーリーに絡めば、お話の完成度もひとつ高くなったんじゃないか、とは思います。これは今後の課題ですね。



天舌てんぜつ

 嵐に擬態する龍。

 「化け猫まつり」は擬態のギミックよりも、怪奇譚としてまとめる事に重点を置いていたので、初登場時からいきなりの解説です。「嵐のふりをする龍だよ」

 嵐のふりをして人を住処に追い込み、その住処ごと吸い上げるという設定です。前作でだした「家は強力な結界」という設定を力づくで薙ぎ倒します。さすがは龍です。


 そんな猛烈な天舌てんぜつはナレ死(注: ナレーションなどで『倒された』ことだけが描写される)します。

 モノの怪の王様も二柱の神様相手では分が悪かったのでしょう。



・みさんご様


 龍神祭が同じ龍である天舌てんぜつを遠ざける、というアイデアだったんですが、お題が擬態なら祀られている神様も擬態がいいよね、と海蛇の神様になります。二本の髭をもつ、龍もどきの神様で、名前はすぐ決まりました。


 さん様。サンゴ蛇モチーフです。


 現実のサンゴ蛇は海蛇じゃないんですが、まあ珊瑚礁の島でそう呼ばれる海蛇がいてもおかしくはないかと。

 ところが実際に書いてみると、「さん様」表記がとても読みづらい。漢字が全体的に四角くて、ふりがな振っても文字が頭に入らない。


 で、ミサンゴ様、御さんご様、みさんご様と悩んで、ひらがなを採用しました。

 ひらがなはひらがなで、周りに埋もれやすい弊害があるのですが、取りうる選択の中ではベストです。


 サンゴヘビにならって、色合いは赤黒のシマシマ。海蛇は猛毒をもつので、みさんご様もきっと荒神でしょう。

 ところで、サンゴヘビに擬態する無毒な蛇にミルクヘビと言うのがいます。

 おミルク様。


「おいでませ、おミルク様」


 卑猥です。



【タイトル】


 タイトルはすぐ浮かんでくる方なのですが、今回はちょっと時間がかかりました。アピールやPVのためには、タイトルから内容がわかった方がいいのかなぁ、とかウジウジ悩んで、公開時は「化け猫まつりと百年前の少年」

 ……ヨシ。

 よくない!

 で、「化け猫まつり」です。



【その他、雑感】

 本文中に描けなかった裏設定や振り返りなど。


・疫鬼を抑え込んだり、後ろから少年の動きを止めたりしたのは腕力ではなく猫の魔法(王族猫はどっしり構える)。


・後ろから肩と包丁を持った腕を押さえられたとき、少年は背中に時おり柔らかい何かが当たるのを感じたはず。ちょっと後になって「あの時のあれは」となったに違いない。思春期男子。


・「い」の発想の元になったのは、FF7Rのドン・コルネオによる「ういの~、うぶいの~」

 僕だってちょっとぐらいユエにかわいい台詞言わせたかったんだ。まさかモヒカンの豚から着想すると思わなかったけど。

 このモヒカンの豚、キャラとしてはけっこう好きです。


・ユエは舟ではなく、浅瀬を牛車で渡ってきた。


・お気に入りの場面

「忘れ物を取りにウチに来よったよ」

 おっ父様もおっ母様も神様の忘れ物をどうするか悩んだ事でしょう。



・みさんご様と飛び去る前の叫び。

「リィィィーーールーーーー!!!」

 裂帛の気合いと語り部は言ってますが、あれは右目の相棒の名前です。王族猫リールー。


 化け猫変化はユエひとりの能力ではなく、実は相棒から引き出した魔法です。相棒にテンション高めに呼びかけて、強い魔法を引っ張り出したんですね。神格化したこともあって、頭だけでなく全身に猫を纏っています。

 また、天舌てんぜつの登場時に「わたしたちが勝とうと思ったら」としれっと言ってますが、ユエはリールーと二人で戦っている認識だからですね。えへへ。


・10000字ジャストを狙うっていうの、提出してから気づいた。こんど機会があったら狙ってみよう。


・たまに「まつり」をキャラと誤認する。


・今回だれも死んでないぞ! やった!





 以上、後書きの振りをした自作語りでした。きもちー。


 そもそもこの化け猫娘は何者なのか。この点は、


 〝娘と右目と子宮と呪いの亜熱帯怪奇譚〟

 「化け猫ユエ」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896395656


 を是非お読み頂ければと思います。




 ちょんちょん。

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