第40話

 生命の樹の近くに、立花の墓を作った。

 花の種を植え、ノームに頼んで咲かせてもらった小さな花たち。


 せめて彼の魂が、日本へ戻れますように。


 俺にはそう祈ることしかできない。


「さ、開けた穴も塞がないとな」


 立花の他にも、小山たちに置いていかれた者が三人。

 精霊使いと騎士っぽい男たちだが、立花を埋葬したあとになって確認すると、既にこと切れた後だった。

 できればいろいろ聞き出したかったのだけれど。


「そうですね。ノーム、お願い」


 精霊使いや騎士の遺体のある穴も綺麗に埋めて貰う。

 花は必要ないだろう。


「空、これからどうするの?」

「んー……」


 まずは長老のところへ行く。毛玉を見て貰うために。

 それから……どうしようか。


 俺たちを召喚した国がセイドリアってのは分かった。

 分かったからどうするのかという話でもある。


 隣国と戦争をしようとしているらしいが、セイドリアってどこにある国なんだろうな。


「二人はセイドリアって国を知っているかい?」

「セイドリア……き、聞いたことがあるような、ないような?」

「セイドリア王国は、ここからずっと北東の方角にあります。えぇっと、描きますね」


 そう言ってリシェルが小石を拾って、地面に描き始めた。

 描かれた地図はアメリカ大陸のように上下に分かれたもの。その北の部分を東にびろーんっと伸ばした感じだ。


「私たちの住む大森林がここです」

「南側の中央付近か」

「はい。セイドリアがここなんです」


 北側の大陸の、かなり東よりだな。ずいぶん遠い。

 それを知って、俺はどこかほっとした。






 翌朝、エルフの里でフロイトノーマ長老に毛玉を再び診てもらった。

 その結果──


「従属の契約はされていない」

「え? でもこいつ、山岡に──」

「まぁ待て。今契約がされていないということは、契約者が故意に解除したか、もしくは死んだかだ」

「あ……」


 俺は山岡のことを思い出した。

 小山に左腕を切り落とされ、胸も斬られた。

 出血多量で死んだとしてもおかしくはない。

 それに、一瞬とはいえ200度の温度に晒されたんだ。生きてるほうが奇跡だろう。


「じゃあ毛玉は……その、一緒にいても大丈夫ですかね?」

「ふむ……完全に魔物化はしているが、魔物の全てが狂暴という訳ではない。それに、空殿の空気清浄で過剰な分の瘴気は消滅している」


 元の動物に戻すことはできないが、狂暴化もしないだろう。

 逆に魔物化したことで、知能が高くなっているようにも見える。


 それが長老の出した答えだった。


「お前、頭がよくなったのか?」

『きゅっ』


 後ろ足で立ち上がると、もさもさな胸を張って見せる。

 おぉう、賢く(?)なってるぞ。


『きゅっきゅきゅ~』


 前足をもそもそ動かした毛玉。

 するとまさかまさかのステータスが浮かんだ!?


「お、お前。ステータスなんてあるのか!?」

『むっきゅっ』

「ほぉ、これは興味深い」

「え? 長老も知らなかったことなんですか?」

「動物や魔物にもステータスがあるとは思っていた。人にあるのだから、他の生物にあってもおかしくはないだろう。だが──」


 それを確認するためには、動物か魔物がそれを出しているのを見るしかない。

 ただ動物が自分のステータスを見ようと、そこまで考えが及ぶかって話もあると長老が話す。

 確かにそうだよな。動物がステータスを見て、どうするかってのもある。


『きゅっきゅ』

「なんだ、俺に見て欲しいのか?」

『きゅ~っ』

「そうかそうか。どれどれ」



 けだま 1歳 雄

 種族:パチパチ兎(魔獣化) LV3

 属性:雷

 筋力:34  体力:43  敏捷:198

 器用:62 魔力:174 幸運:315


●スキル●

 静電気ボール5



 なんか偏ったステータスだな。敏捷が高いのは兎ならではなんだろうけど。

 魔力も高いし、幸運……これはまた……。


「しかしお前……男だったのか」

『きゅっきゅっ』


 そうだと言わんばかりに、毛玉は前足を床に着いたり立ったりを繰り返す。

 種族はパチパチ兎のまま、魔獣化と書いてある。魔物じゃなくって魔獣なのか。

 獣……こいつが?


『きゅ?』


 いえ、ただの毛玉です。


 そして驚くべきことはもう一つ。


「お前の名前、毛玉で決定なんだな」

『きゅう~』


 頭をごりごりとこすりつけてくる毛玉だが、角ができたせいで少し痛い。


「パチパチじゃないのね」

「毛玉も本来名前じゃないですよね」


 シェリルとリシェルがじとーっとした目で見ている。

 いや、パチパチだって名前としてどうなんだってレベルじゃん。


「姿は少し変わったが、毛玉は毛玉のままでよかったよ」

『きゅぅうぅ』

「腐王も消滅したし、瘴気をだすものもなくなった。魔瘴石を作れる立花も……。だから、もう動物が魔物化する心配もないな」


 毛玉を抱き上げ高い高い。


「いや、腐王だけが瘴気を発しているわけではないぞ」

「邪神の眷属の遺体は、この世界にあと5体ありますから」

「それだけじゃないわ。人間が戦争を始めると、戦場にたくさんの死体が残るでしょ。魂を浄化させず放置していたら、それも瘴気を放つようになるの。でしたよね、長老?」


 うえぇぇ。

 じゃあ北東のセイドリア王国ってのは、瘴気をばらまこうとしているのか。

 なんて迷惑な国なんだ。





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2章完結いたしました。次からは3章スタートとなります。

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