第30話

 どこから突っ込んでいいのやら。

 冒険者登録試験は、本当に障害物競走だった。


 中には日本で見る障害物と異なる種目もあった。

 木剣がぶら下がった棒の下を、当たらないようにすり抜けろ。

 ほぼ垂直に近い角度に立てた、高さ3メートルぐらいの木を上れ。


 そして最後に燃え盛る火の輪を潜り抜けろってのがあって、最後のこれはサーカスで見る奴だろ!

 しかし燃え方はサーカスのソレとは全然違う。


「あれ、まともに潜ったらこっちに火が燃え移りません?」

「そうかもな」

「そうかもって!?」


 殺す気!?


「ふふ。消せばいいんですよ」

「え?」


 ようすを見に来たのか、受付嬢のお姉さんが笑顔で言う。

 消してもいいのか?


「おい、ライナ! よ、余計なこと言うんじゃねーっ」

「ふふふ」


 どうやら消していいようだ。

 うん、それなら余裕余裕。火の輪の周辺から一度酸素をなくせばいいだけだから。


「ちっ。しゃーねーなったく。消してもいいが、その代わり条件を付ける」

「え? ま、まさか──」

「おう。水を使って消すのはなしだ」


 ドヤ顔でにんまり笑うギルドマスター。

 うん、水ね。うん。

 使わないから。


「よぉし。あそこがスタートで、あれがゴールだ。よし、野郎から先に行け」

「俺か。障害物競争なんて、小学校以来だなぁ」


 中学のときはなかったし。

 

 スタートのタイミングは自由。

 まずはハードルから。

 木製ハードルって、当たるとどうなんだろう?

 やっぱり痛いのかな。


 三つ、等間隔で並んだ木製ハードルをぴょんぴょんとリズムよく飛び越える。

 俺、重度の花粉症だが、それだけで特に運動音痴ではない。

 ただ走っている間にくしゃみが必ず出て、その瞬間足が止まる。だからリレーはいつもドベ。

 リレーだけじゃないが、周りからは運動音痴という認識をされていた。


 だが見よ!

 空気清浄を手に入れた俺は、走っている間にくしゃみなどしない!!


「よっ──はっ──とう!」


 余裕。余裕だぜ!


 次は跳び箱をジャーンプッ。

 そして梯子……梯子寝かせたままなのかよ。誰か起こしておいてくれよ。

 自分で梯子を横向きに起こし、なんとか……くっ……よし、通れた!


 ふっ。どうだ!?


 ん?

 何故かギルドマスターと二人が首を傾げているぞ。

 なにか間違った?

 ま、まぁいいや。

 次。

 垂直に近い板の壁!


 どうやって上るんだよこんなの。

 まぁ……ここは異世界なんだ!

 為せば成る!!


「うおおぉぉぉっ、とう!」


 お、おおぉぉっ。

 予想より結構跳べた!

 けど届かないっ。


「くっ──」

『きゅうっ』

「はぁぁ!? なんでお前、俺の頭に乗ってんだよ!」

『きゅっきゅう~』


 滑り落ちるというより普通に落下した俺。だが毛玉は板にへばりついて、何故かガジガジとかじり始めた。

 じーって見ていると、まるで「ここに足を引っかけろ」と言わんばかりの穴が開く。


「毛玉、お前サイコー!」

『きゅいきゅい~』

「あと一カ所頼む」

『きゅ』


 任せろと言わんばかりに垂れ耳を持ち上げる。

 これ、反則にならないよな?

 ちらりとギルドマスターを見るが、腕組をして見ているだけだ。

 隣ではリシェルとシェリルが声援を送ってくれている。毛玉に。


『きゅっ』

「お、サンキュー。よし、今度こそ!」


 穴は地上から1メートルと2メートルぐらいの所にある。

 下の穴は最初に俺がジャンプした時に、ちょうど足があったあたりだ。

 俺、あんなに飛んでいたのか。


 これも異世界の影響なのかな。






「はぁはぁ。ま、まだやるのか?」

「さ、さすがに朝からずっと続けていたら、疲れちゃった」

「わ、私、もう……ぐぅー」

「リシェルゥゥゥ、寝るなあぁぁ」


 朝からずっと。

 途中で昼飯休憩があったものの、夕方のこの時間までずっと障害物競争をしっぱなしだ。

 ゴールしただけじゃダメだったのか?

 もう百回ぐらいやったんじゃないのか?


 ちなみにあの梯子……垂直の壁を上るために使う梯子だったことは

 シェリルの番になったときに知った。

 だが俺は毛玉が開けてくれた穴を使った。それが友情ってものだと思ったから。


「よぉし。じゃあ今からギルドからの依頼を受けて貰う」

「「え?」」

「すやすや」


 い、いきなり?

 しかも今から!?

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