第29話

「動物が好む木ねぇ。食べるっていう意味だろ?」

「そう。食べるっていう意味」


 前回と同じ植木屋さんに苗木を買いに来た。

 具体的にどれがいいかというのが分からず、店の人にお任せだ。

 もちろんリシェルとシェリルがチェックする。あと毛玉もだ。


 残り4800ルブのうち、宿泊代や食事代のことを考えて2000ルブで買えるだけ買うことにした。

 少し大きなものだとやっぱり値段が高く、数で勝負するために小さなものを選んだ。

 だいたい40本ぐらい買えたかな。


「毎度あり! また来てくださいよ、待ってるぜ」

「……どうも」


 そう何度も何度も来てたまるか!


 苗木を買ったあとはシェリルのブラシだ。

 ビーズのような光る小さな石で葉っぱの模様が描かれた、ザ・乙女! みたいなブラシを買うと、当然リシェルが羨ましそうにするわけで。


「リシェルの分も買おう。どうせ三人で稼いだお金なんだし」

「はい!」


 リシェルは花柄のブラシだ。

 こういう好みも二人は微妙に違うみたいなんだよなぁ。


 それから宿だが……。


「二人は宿に泊まればいいのに……」

「でもそれじゃあ私たちが納得できませんっ」

「そうよ。わたしたちいつだって一緒なんだから。だって……こ……ここ……こ」


 鶏か?


「ふふふ。空さんと私、それにシェリルは恋人同士ですもの。いつだって傍にいたいんです」

「あぁ、恋人の『こ』ね──」


 ってめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?


 結局みんなで町の外にテントを張って寝ることになった。

 ご飯は屋台で好きな物を少しずつ買って分けて食べる。美味しいものをあれこれ食べられる、いい買い物の仕方だ。

 買い物をした一軒の屋台で、毛玉を見たオヤジさんが「ん」と不愛想な顔で野菜のクズをいろいろくれて……毛玉歓喜。


 屋台通りにはベンチがあちこちある。

 冷めては勿体ない。

 その辺で飯を食って、それから町をでた。

 出て人気を避けるために少し離れた所にテントを張る。


「実技テストって、何かしら?」

「実際にモンスターと戦うのでしょうか?」

「んー、違うんじゃないかなぁ」


 毛玉を洗うのに借りた井戸。その周辺は運動場のように土で固められた少し広い場所だった。

 あそこはギルドと他の建物でぐるっと囲まれていて、案山子というか、木人形っていうのかな。そういうのがいくつかあったし。

 たぶんあそこでテストするんだろう。


「明日行ってみれば分かるさ」

『ぎゅうぅぅぅぅ』

「お前はまた石鹸で洗われると思っているのか。大丈夫だって。──ヨゴレナケレバナ」

『きゅっ……!?』






 その翌日。

 朝食を町の屋台で済ませ、いざ冒険者ギルドへ!


「おはようございます。登録試験を受けに来ました」

「はい、おはようございます。今日は素材の鑑定、ありませんよね?」


 そう、受付のお姉さんは笑顔でそういう。何故か半歩後退して。


 よっぽど嫌なのか!?

 だって毎日定期的に売りに来れる訳じゃないし、仕方ないじゃん!


「今日はありません。それで、試験は?」

「ほっ。お待ちください。今試験官を呼んできますので」


 安堵しきった様子で、受付嬢は奥の部屋へと向かった。


「私たち、そんなに大量の素材を持ち込んでいたのでしょうか?」

「でも町まで遠いんだから、毎日来れないし仕方ないわよね」

「俺もそれ思った。仕方ないよなー」


 三人で頷きあってると、さっきの受付嬢がマッチョのギルドマスターを連れて戻って来た。

 まさかギルドマスターが試験官?


「おう。お前らか。まぁあんだけ魔物産の素材を持ってくるんだ、大丈夫だろう」


 ギルドマスターはそう言って白い歯を見せる。

 こっちだと案内されたのは、やっぱり裏手の運動場(仮)だ。

 そこで何やらギルドマスターが木材をあちこちに運ぼうとしている。


「あの、手伝いましょうか?」

「んお? いいのか、じゃあそれをあっちに持って行ってくれ」

「はい」

「じゃあわたしたちも」

「はい、お手伝いいたします」

「いや悪いねぇ、お嬢ちゃんたちにまで」


 運ぶのはいいとして、これどう見ても陸上競技で見るハードルなんですけど?

 それの木製版。

 他にも平均台、跳び箱、梯子──これは横倒しにしてくぐれってことか?


 おい、じゃあ試験って、


「障害物競争かよ!?」 


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