第31話


 ギルドからの依頼は、町から3時間ほど行った所にある村へのお使いだという。

 しかも急ぎの依頼で、今すぐ出発しろ、と。


 で、夜遅くに村に到着したんだけどもさ。


「実は最近、村の周辺にゴブリンが出るようになりまして。畑の作物を荒らすのですよ」

「はぁ……」

「それでその……畑の見張りをお願いできませんでしょうか?」


 村長宅にギルドマスターから預かった手紙を渡すとこれだ。

 夕食は町を出るとき、歩きながらでも食べれる物を買って済ませてあるけど。

 それでも小腹が空いた。だって歩きっぱなしだったんだから。


 それに、障害物競争を丸一日ずっとやらされ、そのまま依頼だ。

 疲れもする。


「ここのところ毎晩やられていまして。このままでは町への出荷はおろか、自分たちで食べる野菜すら確保できなくなってしまいます」

「お困り……なんですね」

「はい。お疲れとは思いますが、どうか今晩だけでも畑の見張りをしていただけませんか? 実はこの手紙、ギルドに冒険者の派遣を依頼した返事でして」

「あ、では冒険者が来るんですか?」

「はい。明後日には来ていただけるそうです」


 明後日。じゃあ今晩だけ見張っても、明日の夜はどうするんだ?


 人の好さそうな笑みを浮かべた村長さん。

 そんなににこにこされたら、断れないじゃないか。


 いや、冒険者になろうっていうんだ。困ってる人を助けるのも、冒険者の仕事だろう。

 それに、こういうことって地球にいた頃だと、絶対できないイベントだもんな。

 いいじゃないか。人助けって。


「リシェル、シェリル──」

「いいわよ別に」

「はい。空さんが人助けをなさりたいと思うなら、そうすればよいと思います」

「ん。ありがとう。俺が先に見張ってるから、二人はテントで休んでくれ。何かあったら起こすよ」


 さすがにもう眠いだろうし、畑の近くでテントを設置する許可を貰った。

 焚火用の薪も貰い、俺は火の番をする。


「ゴブリン来たら、ちゃんと起こしてよっ」

「無理しないでくださいね。眠くなったら変わりますから」

「分かってるよ。お休み、リシェル、シェリル」

「「おやすみ」なさい」


 村長さんに借りた小さな椅子に腰かけ、時々焚火に薪を入れる簡単なお仕事だ。

 簡単だからこそ、眠気に襲われる。

 他に何かやってないと、こりゃダメだ。


『きゅ』

「お前は寝ないのか、毛玉?」

『きゅい~』


 そういやこいつ、道中ずっと俺の頭の上にいたよな。

 障害物競走も最初の一周目だけ一緒だったが、二周目からは着いてこなかった。気づけば日向ぼっこしてやがったし。


 つまりこいつは十分な睡眠を貪っていた!?


『きゅう~』


 くっ。可愛く鳴けば許されると思っているな。


 許す!


「そういえば毛玉。お前どうやってパチパチするんだ?」

『きゅ?』


 膝の上に乗っていた毛玉がぴょんっと飛び降りると、ぷるぷると毛を震わせた。

 そして『きゅきゅ』と可愛く鳴いて俺を見上げた。

 くぅ~、可愛いよ可愛いよ。ペット可愛いよ。


 もっふもふを触ろうと手を伸ばす。

 するとバチッと静電気が。


「うぉっち……おー、イテテテテ。体毛で静電気を発生させるのか。しかし決して湿度の低くないこの時期でも、静電気起こせるとはなぁ」

『むっきゅ』


 ドヤっと毛を膨らませ、再び俺の膝の上に乗る。

 もう静電気は起きない。


「一度バチってなったら、もうお終いなのか?」

『きゅ?』

「イジジジジッ。分かった、もう止めろ」

『きゅきゅきゅ』


 静電気は瞬時に発生させ、任意で止められるってことか?

 あの、これ本当に動物?


 たぶん肉食動物やモンスターに襲われた時用の、護身術みたいなもんなんだろうけど。

 この世界の肉食動物は大変だなぁ。


「さて、しっかり見張りをするか。ゴブリンは夜行性で目が光るって村長が言ってたな」

『むっきゅん』


 またもや俺の膝の上から飛び降りた毛玉は、今度は焚火の明かりが届かない位置まで跳ねていく。


『きゅっ』

「あぁ、お前夜行性なのか?」


 毛玉の目が光っている。

 日中も活動していることだってあるし、昼夜問わず活動するタイプか。


「じゃあお前、畑の奥の方とかも見えるのか?」

『きゅっ』

「ならゴブリンの気配を感じたら、教えてくれ」

『きゅ~♪』


 しかしこの夜、ゴブリンは結局姿を現さなかった。

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