第23話

 ボンッと煙が舞い火が上る。


「ぎゃひーっ!?」


 小さな爆発に驚いた鈴木が逃げた。

 次の瞬間。

 穴の周辺で大きな爆発が起こった。


「ふぎーっ!?」


 爆風に煽られ地面を転がる鈴木。

 鈴木が小麦粉をはたき落とす間、腐王の穴の真上にメタンガスを充満させておいたのだ。

 そこにさっきの粉塵爆発だ。

 わずかな火の粉がガスに引火し、爆発を引き起こす。


「二人とも、離れるぞ!」

「「はいっ」」


 ダッシュで100メートルほど離れ、そして再び空気操作。

 高濃度メタンを含んだ空気を腐王の上に。


 奴は穴の中。手足がないので這い上がってこれないのか?

 さっきの触手のようなものは爆発で吹き飛んだ。

 なんども繰り返せば、肉塊を粉々にできるかもしれない。


 ボンッと地響きのする音と煙。


「"空気操作"!」


 続けてメタン。

 忘れてはいけないのは酸素。これがないと燃えないからな。


「なっ。なっ!? や、やめろクソ空気! 貴様、ボクの魔王になにをする!」

「お。普段の口調に戻ったのか」

「ぐぎぎぎ。お、お前まさか空気成分の操作スキルを!?」

「正解。空気清浄をカンストさせたら発生したんだ」

「カ、カンスト!?」


 ずっとそれしか使ってなかったし、使わないと命に係わるスキルだったからな。

 常に使用していたのが功を奏した形になっている。


「ま、いい。鈴木、危ないからそこどいてくれ。ガンガン爆発させるからさ」

「そ、それは許さない! ボクはこの魔王を持って帰って、山田と佐藤より上だと知らしめる必要があるんだ!」

「お前ら友達じゃなかったのかよ……」

「は? そんなはずないだろう。それとりお前、さっさと死ねよ! 魔王、やれ──」


 土まみれの鈴木は、腐王が転がる穴に向かって指示を出した。

 

 ずぶり……再びうねうねとした触手が浮かぶ。

 そして真っすぐ伸びた先は。


「ぐぶっ──」

「す、鈴木!?」


 鈴木の胸だった。


 そのままうねうねと持ち上げられ、今度はぽいっと投げられ地面を転がる鈴木。


「げほっ。げほっ」


 わずかに吐血しながらも、鈴木は生きているようだ。

 もしかしてあれか……脂肪で助かったとか?


「ぐぬぬぬ。空気、お前なにかしたのか!? 許さない許さない絶対許さない」

「なんでそうなるんだよ! お前がちゃんと制御できてないだけだろっ」

「ボクが失敗などするはずがない! 君のように下等な奴とは、おつむのデキが違うのだから! お、魔王! ようやく動けるようになったのか? 早く空気を殺せ」


 ずぶり、ずぶりと、脈打つように腐王が……穴から出てきた!?


 だが様子がおかしい。

 ぼたぼたと肉塊が零れおち、明らかに腐っているのは見て分かる。


「腐ってるじゃんか!」

「腐王ですもの、腐っていますわ」

「何言ってんのリシェル。腐王は触れたものを腐らせる魔王だったでしょっ」


 リシェルのボケにシェリルが素早くツッコム。

 じゃあやっぱりアレは、腐っているのか。


「"空気操作"」

「や、やめろ!」


 鈴木が腐王の前に立ちはだかる。

 だけどもういい。

 俺を殺そうとしている相手に、気を使う必要なんてないよな。


 腐っているのならと、腐王の周辺の空気温度を上昇させた。


 空気の温度調節も、それなりに制約がある。

 今現在は-60度から、150度まで。

 どっちも正直、まともに生きていける状況じゃない。

 まぁ地球だと―60度の町とかロシアだっけかシベリアだっけかにあったけどさ。


 熱して熱して。


 肉塊が熱せられるのが嫌だったのか、腐王の塊が膨らみ、そして瘴気を放出した。


「"空気清浄"──おろ? なんか腐王の肉が縮んだ?」


 というか溶けたように見える。

 俺の浄化をまともに食らって、肉が溶ける……だと?


「空さんっ。腐王の体は今や瘴気そのものなのです」

「そのまま浄化で小さくしちゃって!」

「なるほど。そういうことなら──"空気清浄"!」


 スキル発動時が一番浄化パワーが高い。

 連続してスキルを唱え、腐王の肉塊を浄化する。


「うわあぁぁっ、止めろおおおぉぉぉぉっ」


 鈴木が走り出す。

 胸から血を滴らせて、腐王へと駆け寄った。


 ぶにゅりと、鈴木の体が腐王のそれに沈む。


「んぐっ。むぎ……や、やめ……く、うき……たす……」

「……"空気操作"」


 表面がぐつぐつと煮えたぎった腐王の肉。

 鈴木の体からもジューっという肉の焼ける音は聞こえ……。


 もう助からない。

 助けようがない。

 いや、助ける必要性がない。


「"空気操作"」


 だけどせめて一思いに……と思うけれど、俺のスキル効果じゃそれは無理だ。

 なら気絶している間に……。

 高濃度のクロロメタンを鈴木に吸わせ、効果はすぐに現れた。


 意識を失った鈴木は、そのまま肉塊へと沈む。


 それから俺は空気清浄を唱えまくった。

 唱えて唱えて唱えて。縮まっていく肉塊が、空気操作の範囲にすっぽり収まるサイズになると──


「"空気操作"──可燃性物質で爆ぜろ!」


 メタン、クロロメタン。今操作できる可燃性物質はこの二つ。

 それぞれの成分濃度が濃い空間で、腐王をどんどん囲っていく。

 そして──


「シェリル。引火!」

「任せてっ」


 シェリルの放つ矢は、リシェルの付与魔法で火属性が備わっている。


「"ノーム。私たちを守る壁を作ってっ"」


 俺たちの目の前に大きな土の壁が作られる。

 それが一、二、三……合計五枚。


 シェリルの放った矢は弧を描き、その壁の向こうへと落下した。

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