第22話

 秀才三人組。

 鈴木、山田、佐藤はいつも一緒にいた。

 この三人でいつも学年成績トップ3で、試験ごとに順位が入れ替わっていた。

 外見は三人揃ってのデブ。だから三つ子だと最初は思われていたっけか。


 互いに切磋琢磨して勉強に励もう。


 そんな合言葉で三人は仲がよかった──そう思っていた。


「吾輩は山田にも佐藤にも負けぬ! 腐王を使役して、二人に目に物見せるのだ!!」


 そんなことを口にしながら、鈴木は俺を睨んだ。


「貴様。本当に空気であるか?」

「あ、ああ。そうだ。空気清浄スキルのおかげで、アレルギー物質を俺の周囲から消してるから」

「なるほど。だからもうくしゃみも鼻水もないであるか」

「そうそう」

「ふっ。君にとっては神スキルだったであるが、所詮は空気清浄機なのである。せめて空気中の成分操作でもできればよかったであるが」


 それできるけどな。


「吾輩のように賢く、選ばれた者であれば成分操作で莫大な破壊力を生み出すこともできるであるの!」

「え? マ、マジで? ど、どんな風に?」

「ん? ん? 知りたいであるか?」


 こいつは他人に知識をひけらかしたがりなところがある。

 頭が良いのは確かだ。

 おだてて、いい使い方を教えて貰うかな。


「鈴木くん! 君の英知をどうか俺にも分かるように、ぜひとも教えて欲しい! いや、君が賢いことをもっとよく知りたい!」

「任せたまえ!」






「まず空気中の湿度をぐっと下げるのだ。そうしたら静電気が発生しやすくなる。相対湿度25%以下だと確実だね」

「ふむふむ。相対湿度25%……5%にしとくか」

「そこに特定の微粒子が舞えば、粉塵爆発だって容易! あ、小麦粉とかでも代用できるぞよ」

「小麦粉ね。あるある」


 リシェルを呼び、ごにょごにょとあることを伝えた。

 彼女は頷き、呪文を詠唱する。


 風の精霊に頼んで、ある物を鈴木の頭上に届けて貰うための呪文だ。


「他にも水素を使って、水素爆弾を作ったり──」


 危ない奴だな……。そもそも水素だけで爆弾なんて作れるのか?

 だって成分しか操作できないんだぞ。

 

 俺にも分かりやすくと伝えたのに、途中からもう全然言ってること分かんねー。

 身振り手振りであれこれ説明する鈴木に、俺はあのあとのことを尋ねた。


「あのさ鈴木くん。君らはヒュンって消えた後、どうしたんだよ」

「ん? クラスメイトのことが気になるであるか? 大丈夫だ。誰も貴様のことなんて気にしてないのであーる!」

「魔王を倒すとかどうとかは?」

「魔王?」


 鈴木は顔を傾げる。そして笑う。


「はっはっは。そんなの嘘っぱちであるよ。魔王が現れた。だから勇者が必要。そういえば少しはやる気を出すバカもおるであるからして」

「え? う、嘘って、どういう?」


 そこでシェリルが耳打ちをする。


「もしかして空たちは魔王討伐の名目で召喚されたの?」


 召喚されて、クラスメイトや召喚主に置いていかれた──というのは話していたが、魔王を倒すために召喚されたということは話していなかったな。

 頷いて応えると、彼女は大きなため息を吐いた。


「空。この世界に魔王はもういないわ。まぁアレが動き出せば、魔王復活になるのかしらね」

「空さん。魔王というのは邪神の眷属のことで、腐王が最後のひとりなのです」

「そ、なのか?」


 じゃあ魔王の屍が転がるこの森で召喚して、魔王放置でこいつらはどこか別の所に?

 いや、鈴木は魔王討伐じゃないと言っていた。


「鈴木。なぜ俺たちは召喚されたんだ?」

「決まってるである。戦争──大陸の覇権を握るためであーるの! ま、吾輩に言わせれば、戦争が起これば死体も増えるし、死霊術師である吾輩の力も強大になるである。好きに殺し合いするがいいのである」

「兵士にするため召喚したってことか!?」

「さっきからそう言っているであるの。異世界から召喚された者は、次元を超える際に優秀な力を授かる者が多いである。吾輩のように。ま、そうでないのもいるであるがね。ぶへへへへっ」


 嫌な声で笑いながら、鈴木は俺を見た。


「っと、そろそろ空気には死んで貰うの。そして可愛い子ちゃん……天使ちゃんを吾輩のハーレムに加えるの!」


 再び揺れた地面は、さっきのソレよりもデカく。


 ずぶり……ずぶりと何かを引きずる音が聞こえた。

 

 卑げな笑みを浮かべた鈴木の後ろ。腐王の転がる穴から、ヒュンっと細長い血色の何かが伸びた。

 それが何本も。


「うぇ……気持ち悪い」

「禍々しいです。早く長老にお知らせしなきゃ」

「ぶへーっへっへっへ。さぁ魔王。空気を殺るのだ!」

「くっ。リシェル!」

「はいっ」


 合図と共に、鈴木の頭上に白い粉が舞う。


「ぶへっ。な、なんであるか? なんであるかこの粉は!?」


 赤黒いマントに白い小麦粉がよく映える。

 それを払いのけようと、鈴木は必死に粉をはたいた。

 その動作は布を擦り合わせる結果となって──


 湿度を下げに下げまくった鈴木の周辺。持続時間が短いので何度も何度も掛けなおし、その状態を維持。

 俺にいろいろ語る間、身振り手振りで静電気を蓄えた状態だったはず。


 そこに降り注いだ小麦粉は、粉塵爆発を引き起こすに十分な演出だった。

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