第20話

「お、おはよう空……」

「お、おは、おはようございます、そ、空さんっ」

「声が上ずってるわよリシェル」

「シ、シェリルだって顔真っ赤じゃないっ」

「そ、そんなことないもん!」


 テントで目覚めた朝。

 昨夜はあんなにぐいぐい攻めていた二人も、一転して何故か羞恥心丸出し。


 あ、ちなみにぐいぐいっていうのは、ぐいぐいにじり寄って来たっていう意味。

 他の意味ではない。

 むしろ俺、あの状況でよく理性を飛ばさずにいられたものだ。


 絶賛恋人募集中だと聞かされ、そりゃあ当然立候補するでしょう。

 今思い出すとそりゃあもう恥ずかしいったらありゃしない。



 ──黒歴史回想──


「「私(わたし)たち、絶賛恋人募集中なんです!」」


 そう言ってぐいぐい迫って来る二人。

 顔は真っ赤。

 潤んだ瞳で見つめられ、こっちは生唾物だった。


 募集中。そう言って俺を見つめるっていうのは、俺、求められちゃってる?

 俺、初めて告白されてる?


「俺……二人と出会ってまだそんなに日にちも経ってないけど……」


 好きだ。

 そう言おうとした。

 だけどその時には言えなかった。


「空、わたし、あんたのこと好き」

「あ、シェリルずるい! 私も空さんのことが好きですっ」

「え? え?」

「やぁ~っ、言っちゃったぁ」

「は、恥ずかしいです。凄く恥ずかしいですぅ」


 キャーキャーと騒ぎながら俺から離れた二人は、そのままテントの中に潜っていってしまった。

 そのテントの中から、


「そ、空っ。へ、返事はいつでもいいんだからねっ」

「わ、私たち、待ってます」

「「キャー」」


 自分たちで言って自分たちで恥ずかしくなって騒ぐ。

 女子高生ってこんな感じなのかなぁと漠然に思った。


 でも二人がせっかく勇気を出して言ってくれたんだ。

 俺も応えなきゃな。


 二人が引き籠るテントの前に立ち、


「俺も二人のことが好きだ」


 そう伝えた。


「「キャーッ」」


 テントがばうんばうん跳ね、しばらく二人の歓喜の声が上がっていた。



 ──回想終了──



 その後、シェリルがテントから出てきて食事の支度をしてくれたけど。終始キャーキャーと恥ずかしがって、結局パンと固形スープをお湯に溶かしただけの食事になった。

 今朝は少しだけ落ち着いたのか、ハムを焼いてくれた。

 まぁ野宿でできる食事なんてこんなものだ。

 里に帰ったらいつもの料理が食べられることを期待しよう。


「よし。じゃあ里に帰るか」

「はいっ」

「えぇっ」


 元気に返事した二人は、左右にササっと分かれてそれぞれ俺の腕を取る。

 むにゅりとした感触が新鮮過ぎて、俺の頭の中が真っ白になる。


 あぁ、夢じゃないよなぁ。

 こんな可愛い恋人ができるなんて……。


 ま、まさか!

 終業式が終わって教室に入る瞬間からここまで、実は夢でしたなんてオチじゃないだろうな!


「ど、どうしたのよ空」

「い、いや。夢じゃないよなぁって」

「夢、ですか?」

「そ、そう。実は俺、異世界に召喚なんてされてなくって、学校の机で寝てるとか、そんなオチが待ってたりしないかなってさ」


 二人は顔を見合わせ、そして傾げ、次に俺の腕を引っ張った。

 引かれて身を屈めると、そこに二人の顔が急接近!?


 両頬に柔らかく、そして温かい感触が伝わった。


「ゆ、夢なら覚めなきゃいいのよ」

「そうです。ずっと夢を見ていてください、空さん」


 顔真っ赤な二人。


 俺……ほっぺにチューされました。


 夢でもいい。

 そうだ、二度と目覚めなければいいんだ。

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