最後の試練は鬼退治?!

にゃべ♪

第1話 寂れた村の少女

「最後の試練じゃ。松崎誠吾、お主に鬼退治を命じる」

「鬼? いるの? じっちゃん」

「じっちゃんではなく、師匠と呼べと……」

「わーった! 行ってきまーす!」


 俺はじっちゃん、いや、師匠の命を受けて鬼退治にする事になった。鬼を倒す武器は、豆。何でも念を込めた豆をぶつけると鬼を倒せるらしい。その手の権威でもあるじっちゃんの指導を受けて、俺も一応その力を目覚めさせる事が出来た。今この力を使えるのはかなり少ないらしい。

 それについてはじっちゃん曰く、世の妖怪が減ったから対応する能力者も減ったって言う事らしい。


 じっちゃんは退魔の仕事はほぼ引退して、表の仕事として骨董屋を細々とやっている。今後、じっちゃんは骨董屋をメインの仕事にしたいらしい。そんな思惑もあって、裏の仕事は俺に全部任すつもりなんだ。

 ま、俺も折角能力があるなら退魔の仕事ってやってみたいと思っていたし、渡りに船って訳。


「さて、で、鬼ってどこにいるんだ?」


 じっちゃんからしごかれてあやかしを見る事は出来るようになったものの、普段目にするのは不成仏霊か動物霊ばかり。天狗とか鬼とか河童とか、そう言うメジャーなものにはまだお目にかかった事はない。

 じっちゃんから何にも聞かずに飛び出したのもあって、最初からハードモードだよ。


 取り敢えず、まずは鬼伝説で有名なところを巡る事にした。まずは鬼ヶ島から始まって、地名に鬼がついているところ、昔話で鬼が出てくる話の舞台――。

 どれも普通と違う気配までは感じ取れたものの、鬼だってハッキリ分かるものは感じ取れずじまい。これは長い試練の旅になりそうだ。


 俺は鬼の伝承を辿っている内にいつの間にか人里離れた山の中に迷い込んでしまった。奇しくも今日は2月3日、鬼と縁のある節分当日だ。木々が生い茂り、昼でも暗い山道を1人孤独に歩いていると、何で自分はこんな事をしているのかと哲学者になってしまう。


「ううっ……どうかクマとかに出会いませんように……」


 何故俺がこんな深い山の中を歩いているのかと言うと、その先にも村があるからだ。過疎地は老人の宝庫なだけに鬼の伝承も伝えられている可能性は高い。早く当たりを引きたかった俺は、少しばかり焦っていたのかも知れない。

 慣れない山歩きで足が棒になり、音を上げようとしたその時、視界が開けて集落の姿が見えてきた。


「おお、やっと……。でも、人の気配がなさすぎ?」


 辿り着いた過疎の村はひと気がまったくない。既に廃村になってしまっているのではとすぐに最悪の想像を思い浮かべる。それでも何とか気持ちを持ち直し、一応ここまで来たのだからと村を見て回る事にした。


 放置された畑、荒れ放題の家々、時間が止まって風化していくばかりの景色を眺めながら、自分がホラー映画を撮るならここでロケするなとかそんな妄想を膨らませていると、集落の一番奥、比較的原型を留めている空き家に謎の気配を感じた。

 まだ人が住んでいるんだと思った俺は一直線にその家に向かい、玄関に向かって声をかける。


「すみませーん! ちょっと話をいいですかー!」

「……」

「すみませーん! あの、怪しい者じゃないんですけどー」

「……」


 どんなに話しかけても返事は返ってこない。人の気配は中からしている。居留守だなと判断した俺は、そっと引き戸に手をかける。アルミサッシの引き戸は想像よりも軽く開いてしまった。鍵をかけているかと思っていたのでこれは想定外。田舎特有の防犯意識の低さに、少し呆れてしまう。


「あのー。入っていいですかー? お邪魔しまーす」


 返事がない以上、ここは強引に行った方が勝ちだと、俺は勝手にその家に入る。もしかしたら家主は寝たきりで玄関まで来られないとか、そんな状況を想像していると、奥から俺と同じくらいの背格好の少女がめんどくさそうな顔をしてぬぼーっと現れた。


「あ、ども。お邪魔します……」

「……出てけ」

「あの……えっと」

「出てけ!」


 少女は有無言わさないような気迫で俺を言葉だけで追い出そうとした。最初はその勢いに圧倒されたものの、何の成果もなくスゴスゴと引き下がるのも悔しかったので交渉を試みる。田舎少女に有効なものと言えば、やっぱ都会のお菓子でしょ。

 俺は背中の鞄のチャックを開け、じっちゃんへのお土産にしようと買った各種お土産物のお菓子からちょっと洒落ている感じのものを選び出し、少女に差し出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る