278 合流

「なんだこれ」

「きゅお~?」


 そこには金属の塊が転がっていた。

 身長二メトルほどの人型にみえる。だが、腕に当たるものが四本あった。

 胴体と頭に当たる部分がすぱっと斬られている。

 ジゼラの太刀筋だ。


「これも悪魔だよ」

「強かったか?」

「速さはそこそこ。力は強かったね。そして何より硬い」


 俺は鑑定スキルを金属塊にかけてみる


「……オリハルコンかよ」

「あーやっぱり? そのぐらいの硬さだと思ったんだ」


 ジゼラは何でもないことのように言う。

 だが、普通の人族はオリハルコンを斬ることはできないのだ。


「どういう仕組みで動いたんだ?」

「わかんない。関節部分がつながってないんじゃないの?」


 関節部分を調べてみると、接続されてはいなかった。

 簡単にバラバラになる。


「魔法生物の類いか。あ、悪魔は生物ではないが……」

「やっぱりそうじゃないかな」

「こんな奴、ジゼラがいなければ倒すのが難しいな」

「どうだろう? 今のシロならともかく成長したシロなら多分かみ殺すよ?」


 この前ケリーが実験してくれたことを思い出す。

 シロの爪は水晶やオリハルコンとミスリルの合金を傷つけられるのだ。


「あー。確かにこのオリハルコンは、俺の作った合金よりは柔らかいな」

「でしょー」


 成長したシロたちならば倒せるだろう。


「ヴィクトルも多分斬れるよ」

「……そうだな。たしかに斬れそうだ」

「それに、こっちに転がってる奴は飛竜が殺したんだよ」

「がお~」


 そう言って、ジゼラはボアボアの家の影を指さした。

 そこにもオリハルコンの悪魔が転がっている。

 胸に大きな穴が開いていた。


「この穴は飛竜が爪で開けたのか?」

「がう~」


 どうやらそうらしい。

 硬いけど、動きの速さがそこそこだったから、なんとかなったと飛竜はいう。


「そっか、とはいえ、こいつらが俺たちの方に来ていたらやばかったな」


 ヴィクトルが斬れるといっても、二体相手にするのは難しい。

 それに加えて巨人の悪魔までいたのだ。

 ヒッポリアスとアーリャの力を借りても、苦戦しただろう。


「そっちはどんな悪魔だったの?」

「本体は地中に隠れていて、地表には黒いゴブリンみたいなのを出してきてな」


 あの黒ゴブリンは本体の身体の一部だ。

 だからこそ、黒ゴブリンを鑑定することで、本体の位置と弱点が分かったのだ。


「前回戦ったのは植物に取り憑いていただろう? 今回は土だったな。戦闘力自体はさほどでもないが……」

「憑依型? 憑依型は、見つけにくくて厄介だからね」


 陸ザメたちを襲った気に憑依した悪魔のことも、ジゼラは中々位置を特定できていなかった。

 俺が特定してヒッポリアスの魔法を通して位置を報せたのだ。


「ぼくも索敵能力が高かったらなぁ」

「ジゼラの索敵能力は高いけどな」


 ジゼラの索敵能力は、俺たちより高い。

 ジゼラですら見つけにくい憑依型が異常なのだ。


「敵が戦力配置を間違えてくれて助かったな」

「そだねー」


 恐らくだが、ジゼラを警戒し戦闘力の高い悪魔が、ボアボアの家の方を攻めたのだろう。

 純粋な戦闘力勝負ならジゼラは、ほとんど負けないのだ。


 俺はジゼラと会話をしながら、地面に鑑定スキルをかける。

 組成などを調べるいつもの鑑定とは違い、悪魔がいないかどうかの確認だけなので、負担は軽い。


「今のところ、俺の鑑定スキルにひっかかる悪魔は周囲にはいない」

「そっかー。よかったよかった」

「ジゼラ、ほこらに敵はまだいると思うか?」

「うーん。どうだろう。テオさんたちが倒した悪魔がどの程度かによるかなー」

「明日見に行くしかないか」

「いや、ちょっと行ってくる。ほこらに感じた悪魔の気配から、僕が倒した悪魔の気配を引いたら、多分勝てる」

「憑依型かもしれないだろ」

「そのときは逃げるよ。敵がまだいて逃げられても厄介だし」


 ジゼラなら相手が悪魔でも逃げられるだろう。


「そうか。気をつけていってこい」

「ピイ、臣下スライムを一匹借りたいんだけど」

「ぴっぴい」

「ありがとう。臣下スライムたちなら緊急時にピイに報せられるでしょう?」

「ぴい~」


 距離を考えたら三匹必要だとピイは言う。

 どうやら、のろしのようにリレーして、情報を伝えるようだ。


 ジゼラとピイの会話を聞いていたらしい臣下スライムが三匹やってくる。


「君たちが手伝ってくれるの? ありがとう」

「「「ぴっぴい!」」」


 ジゼラは両肩と頭のうえにスライムを乗せる。


「あと、飛竜も一応上空からついてきて」

「がう」

「ここはテオさんとヒッポリアスに任せた」

「気をつけていってこい」「きゅおー」

「じゃあね」


 ジゼラはあっというまに走って行った。

 飛竜はその後を追って、飛び立った。


「相変わらず速いな」


 ある程度走ったら、スライムを落としながら進むのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る