277 悪魔との戦い

「警戒!」


 ヴィクトルが目を真っ赤にして、涙をだらだらと流しながら叫ぶ。

 気配が消えたと思った瞬間こそ、最も危ないのだ。


 だから、俺たちは全力で周囲を警戒する。

 下の配管が破れたことによる水柱のおかげで、土煙がおさまっていく。


 俺は地面に鑑定スキルをかけて、潜んでいる悪魔がいないか確認する。

 ついでに周囲の草木にもだ。

 陸ザメたちを襲った悪魔は草木に憑依していたので、念のためである。


「俺の鑑定スキルは敵を察知していない」

「了解です。ピイさんは?」

『ない! しんかすらいむたちも、だいじょうぶだって』

「気配なしだそうだ」

「そうですか」


 ヴィクトルはふうっと息を吐いて、剣を鞘に納める。

 ひとまず、襲ってきた敵は倒したと考えていいだろう。


「ピイ、大丈夫か? お腹壊してないか?」


 ピイは最後悪魔を食らったのだ。

 悪魔は生き物ですらない。いくらピイでも体調が悪くなってもおかしくない。


『ぴい~ まずかったけど、だいじょうぶ。えいようがある』

「そうなのか。大丈夫ならいいんだが」

「みなさん、怪我はありませんか?」

「俺は無事だ。アーリャは」

「無傷」

「ヒッポリアスも無傷だな」

「きゅお~」


 テイムスキルで俺とヒッポリアスは結ばれている。

 だから、近くにいる場合、ヒッポリアスの状態は聞かずともわかるのだ。


「ヴィクトルはどうだ? 前線で戦ったのはヴィクトルだからな」

「私も無傷ですよ、ソロなら、こうはいかなかったでしょうが」


 どうやら、全員が無傷なようだ。

 強敵を相手にしたのに、想定以上の戦果と言っていいだろう


「これで、ひとまず撃退できたと考えてもいいのでしょうかね?」

「恐らくな、問題はジゼラの状態だな」


 戦闘中なのか、戦闘が終わったのか、そもそも敵が襲ってこなかったのか。


 俺は魔法の鞄から金属や石材を取り出しながら、ピイに言う。


「ピイ、臣下スライムを通じて様子をうかがえないか?」


 臣下スライムたちは拠点の各所に配置されている。

 そしてピイと臣下スライムたちは、鳴き声と振動で情報のやり取りができるのだ。


『きいてみる』


 そういうと、ピイは特殊な震え方をしつつ、

「ぴ、ぴ、ぴ~ぴ、ぴぴい~~」

 特殊な鳴き方をした。


 ――ぴっぴっぴいいぴ、ぴ、ぴぴ、ぴ~

『せんとうはおわったって』

「終わったのか。被害状況は?」

『すこしあるけど、だいじょうぶっぽい』

「そうか。大怪我しているやつがいないなら、何よりだよ」


 俺とピイの会話で、ジゼラたちの状況を把握したヴィクトルがホッとして息をついた。


「さて、とりあえず、配管を直すか」


 まだ水は噴き出している。

 俺たちも、中庭もびしゃびしゃだ。


『きゅおー、ひっぽりあすやりすぎた?』

「いや、ばっちりだったぞ。悪魔は配管の下に潜っていたからな」

『そかー』

「ありがとう、ヒッポリアス。助かったよ」


 そう言いながら俺は配管の修理を進める。

 凍結を防ぐために色々な手立てを施してあったのだが、凍結の季節の前に壊れてしまった。


「直すのは簡単だからね。一度作った物だからな」

 俺は不安そうに見上げているヒッポリアスの頭を撫でると、鑑定スキルを発動させる。

 そして、製作スキルを一気に実行して、配管を修理した。


「これでよしっと」


 そのころには冒険者たちは完全武装で、廊下に集まっていた。

「俺たちの出番がなかったな」

「みんなが、活躍してくれたからです。助かりました」


 ヴィクトルがそう言って笑った。


「ピイもヒッポリアスもありがとうな。助かったよ」

「きゅおきゅお!」「ぴぃ~」

「廊下や建物に被害はないか確認しないとな」

「あ、それは任せろ。被害の確認ぐらいなら俺たちもできるからな」

「じゃあ、頼む。壊れた場所があれば教えてくれ」


 廊下にはイジェたちも出てきている。


「コワカッタ」

「だいじょぶ?」

「わふ~」

『つよい!』「ぁぅ」『たたかう!』


 子魔狼たちは特に興奮気味だ。


「みんなは寝てなさい」

「な、中庭に出てもいいか?」

「少し待ってください」


 ケリーは調査がしたいらしい。


「ヴィクトル、俺はジゼラのところに行ってくる」

「わかりました。こちらはお任せください」

「頼んだ。ヒッポリアス、ピイ、いくよ」

「きゅおきゅお!」「ぴい~」


 ヒッポリアスの背に乗って、ピイを肩に乗せて、ボアボアやヤギたちの家に向かって走る。


 ボアボアの家の前には、

「お、おお?」

『すごい、きゅお~』

 バカでかい悪魔の死骸が転がっていた。



 死骸の横に飛竜が立ち、死骸の上にはジゼラが座っている。

「テオさん、そっちは大丈夫だった?」

「ああ、こちらは大丈夫だったが、大きすぎないか?」


 身長五メトルはありそうな人型の悪魔の死骸だ。

 ボアボアやヤギたちは、起きているが家の中で息を殺しているようだ。


 悪魔の再襲撃を警戒しているのだろう。


「飛竜もジゼラも怪我はないか?」

「がお」「ないよ」

「そうか、よくもまあ、こんなでかいの倒したな」

「うん。大きかったうえに、速かったからね。強かったよー。飛竜がいなかったらもっと苦戦したかも」

「がお」

「あ、テオさん、剣が壊れちゃった。直して」


 そう言ってジゼラは巨大な死骸からぴょんと飛び降りる。


「ああ、修理はまかせろ」


 いつまた悪魔が襲ってくるかわからないのだ。

 ジゼラの剣はなるべく万全な状態にしておきたい。


 俺は素早く鑑定し、製作スキルで直す。

 刀身が歪み、無数の刃こぼれがあった


「よし、これで直った」

「ありがとう! さすがテオさん」

「刃こぼれしていたが、硬かったのか?」


 俺は巨大な死骸に手を触れて鑑定スキルを発動させる。

 強靭な肉体だ。皮膚も硬い。強力な魔物だ。

 だが刃こぼれさせるほど皮膚が硬いわけではない。


「刃こぼれさせたのはこっちだよ」


 ジゼラが笑いながら、巨大な死骸の後ろを指さした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る