276 野営
速やかに眠りにつけるのも冒険者として大事な技能だ。
冒険者ならば。交代で眠りにつくことはよくある。
四時間ごとに交代するとき、中々眠れなかったらその分睡眠時間が削られる。
そうなると体力が持たないのだ。
…………
……
「っ!」
俺が飛び起きるのと、
「「「ピピイイイイイイイイイイイイ!」」」
臣下スライムたちが大声で鳴くのがほぼ同時だった。
直後、上空が赤く光り、
「はああああ!」
アーリャの水球が飛んできた火球を迎撃する。
直後、「べちゃり」という音とともに、中庭に黒い物体が三つ降ってきた。
それはまるで粘土で作られた旧大陸のゴブリンのような姿だった。
人の子供のような形ではあるが、全体がタールのように真っ黒だ。
テイムスキルをかけてみたが、やはり通じない。
ということは、人か、生物ですらないかのどちらかである。
恐らく生き物ですらないのだろう。
悪魔の仲間に違いない。
「索敵を!」
ヴィクトルはそう叫ぶと黒ゴブリンたちにとびかかる。
「了解。ヒッポリアス、ピイ!」
「きゅお!」「ぴ~」
ヒッポリアスとピイが索敵を開始する。
ヒッポリアスは頭に魔力の角をはやし、臨戦態勢に入っている。
「攻撃は後回しだ」
「きゅお!」
目の前に黒ゴブリンがいるのにヴィクトルは索敵の指示を出した。
つまり、ヴィクトルは黒ゴブリンとは別に本体かボスが隠れていると判断したのだろう。
その判断に俺も賛成だ。
ヒッポリアスの攻撃は切り札。本体かボスにぶつけるものだ。
雑魚の黒ゴブリンは俺たちで処理できる。
「GUYAAAAAYAAA」
黒ゴブリンは人の言葉を発しない。やはり人ではないのだろう。
「はあっ」
ヴィクトルは黒ゴブリンを、目に留まらぬ速さで一気に三体斬り捨てた。
さすがの動きである。
「これで終われば楽でいいんですけど!」
ヴィクトルに斬られても、黒ゴブリンは止まらない。
上半身と下半身にわかれたまま動く。
三体のうちの二体、上半身と下半身合わせて四つがヴィクトルを襲い掛かる。
「厄介な! 任せます!」
「任された」
残りの一体はバランスを崩しながらも、下半身はそのまま、俺目掛けて突っ込んでくる。
そして、上半身は腕を使って、飛び跳ねてアーリャに突っ込んでいく。
「一瞬でいいから、止まってろ」
俺は製作スキルを使って、俺とアーリャに向かう黒ゴブリンの足と腕を掴む形状で岩の拳を作り出す。
「HUGYAAaaa」
黒ゴブリンにとっては突然現れた岩の拳に、手足を握られたようなものだ。
倒すために止めたわけではない。触れるために止めたのだ。
止まった黒ゴブリンの下半身に触れて、鑑定スキルを発動させた。
鑑定スキルは生物には通じない。
だが、悪魔たちは俺たちの神に生物として認められていないので鑑定スキルが通じるのだ。
「弱点は冷気! 本体は地中!」
「了解です!」
ヴィクトルが叫び、アーリャが詠唱を開始した。
そのころにはヴィクトルが相手にしていた二体の黒ゴブリンの身体は計八個に分かれていた。
八分割されると、さすがに有効な動きができないらしく、もぞもぞとうごめている。
「ヒッポリアス!」
「きゅおおおおおおおお!」
ヒッポリアスと俺はテイムスキルで結ばれているので、意思の疎通が速い。
すべて言わなくとも真意が伝わる。
ヒッポリアスの頭に生えた角に魔力が集まっていく。
その魔力はすさまじく量だ。
「アーリャ!」
「わかってる!」
次の瞬間、ヒッポリアスの魔力弾が地面に向けて放たれた。
――ドオオオオオオオオン
爆音とともに衝撃波が走り、廊下がきしむ。
地中を走る配管が破れて、水が吹き出る。
巻き上げられた土が周囲を覆い隠す。
土煙のせいで。目をあけてられないが、そうも言っていられない。
俺は涙を流しながらも土煙を凝視する。
その土の中を何かが動いていた。悪魔だ。
その悪魔は地中に逃げようとしている。
「逃がさない」
アーリャの氷魔法が発動する。
土煙と水柱ごと、悪魔が凍り付く。
――ガガン
氷が割れた。
かなりの大ダメージを負っているはずだが悪魔はまだ動いている。
地中に逃れようと、必死にもがく。
「させるか!」
俺は再び製作スキルを発動させる。
土の拳を今度は氷と土の混合物で作り上げて、悪魔を握りしめる。
「GYARARARARARAAAAA」
悪魔は叫び声をあげ、
「はあああああ!」
その直後に、悪魔がヴィクトルに斬り刻まれて十六に分かれた。
「AALALALGYAALALA」
斬り刻まれても、悪魔は叫ぶ。
再び融合しようと、少しずつ集まっていく。
「まだ動くのか! 氷を」
「任せて!」
「きゅおおおお!」
アーリャとヒッポリアスが氷魔法を悪魔に向かって放つ。
悪魔の動きた止まった。
「ピイィィィィィイイイイイイ」
次の瞬間、ピイが悪魔の破片を飲み込んだ。
周囲から悪魔の気配が消えた。
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