275 武器防具の修復2

 俺は魔法の鞄から金属のインゴット類を取り出して机に並べる。

 防具の素材としてよく使う革なども出しておく。


 そして、最初に装備を終えた冒険者に言った。


「それで、どこを調整して欲しいんだ?」

「肩の部分が――」

「あー、なるほど。調整すべきは肩じゃないな。腰の部分が緩くなって、肩に負担がかかっているんだ」

「そうなのか?」

「少し、調整してみよう。…………よし、完了」


 冒険者たちが驚いて目を見開いた。


「さすがに速すぎないか?」

「ああ、テオさんが凄腕なのは知っているけど……さすがにな」


 そんな冒険者たちに俺は笑って告げる。


「俺の元々の本職は勇者パーティーの雑用係だぞ。武器防具の調整なんて戦闘中にこなせないと話にならん」

「戦闘中にか……改めて聞いても凄まじいな」

「ジゼラ自体が速いし、気配を消しながら、敵の攻撃をかわして、修復しないといけなかったからな。調整も速くないといけないんだ」

「ほー」

「じゃあ、次はどいつだ?」

「剣が刃こぼれして……」

「了解。……よし完了。次」

「鎧が――」

「なるほど、わずかに胸甲が歪んでいるな。……完了。次」

「使っているうちに剣のバランスが……」

「ちょっと振ってみてくれ」

「おお」

「把握した。……完了」

「おお、振りやすくなった!」


 そんな調子で武器防具の微調整を続けていく。

 皆、一流冒険者だけあって、致命的な故障などはない。

 壊れたといっても、ほんの少しの刃こぼれ程度の修理だけ。

 苦労は何もなかった。


「……僕のもお願い」

「おお? あれ? ジゼラか」

「イジェとケリーとフィオを送りにきて、ご飯をもらって。ついでにミミたちを連れて帰るんだ」

「そっか」


 修復調整に集中していたから気づかなかったが、キッチンからおいしそうな匂いが漂って来ている。

 イジェがキッチンに入って調理を開始したのだろう。


「それで、ジゼラの調整の必要な武器ってどれだ?」

「まず剣。今日悪魔三匹切った時に歪んだんだ」

「あー、なるほど。歪んでるな。これでよく鞘に入ったな」

「もっと歪んでたけど、手でえいって戻した」

「……そうか。剣に希望はあるか?」

「うーん。悪魔と戦った感じ、少し長い方が便利かな。小指半分ほど。重さはそのままで」

「了解」

「切れ味はいまのままで充分なんだけど、靭性と剛性が欲しいかも」

「そっか。歪んだからな」

「うん。あいつら硬いんだ」


 俺は剣を調整し始める。

 オリハルコンとミスリル、鋼やチタンなどの各種金属の配合比率を変えて剣を作っていった。


「ありがとう! これで勝てると思う!」

「そうか」

「まあ、剣が歪んでても負ける気はしないけど、より簡単に勝てるようになったよ!」

「それは良かった」


 そこにイジェが夜ご飯を運んでくる。


「ジゼラ、モチハコビシヤスクシタよ」

 イジェは木の箱に夜ご飯を詰めてあげたようだ。


「ありがとう!」

「コッチはヤショク。ヨルオナカがスクかもシレナイシ」

「ありがとう! うれしいよ」


 ジゼラは受け取ったご飯を自分の魔法の鞄に入れた。

 ジゼラは魔法の鞄を持っているのだ。 


「後で食べるね」

「ウン、ジゼラ、キをツケてね」

「大丈夫だよ」


 そして、ジゼラはメエメエとミミ、ミミの母ヤギを連れてヤギの家へと戻って行った。


 そのころにはもう日が沈んでいた。

 俺も夜ご飯を食べると、ヒッポリアスとピイ、ヴィクトルと一緒に中庭へと移動する。


 シロと子魔狼たちもついてきたがったが、今回はヒッポリアスの家でお留守番だ。

 フィオとケリー、イジェが子供たちを見てくれている。


「ヒッポリアス。寒かったら言うんだぞ」

『きゅお~。ておどーる、ひっぽりあすをだっこしてねる!』


 ヒッポリアスは大きな姿だ。


「ありがとう、くっついて寝た方があったかいものな」

「きゅお~」


 地面に直接寝ると、体温が奪われる。

 だから、木の板を敷いて、その上で横になる。

 そこにヒッポリアスは体を寄せてくれる。

 ヒッポリアスは温かいのだ。


「野宿は久しぶりですね。廊下が近くにあるので野宿という雰囲気でもないですが」

「そうだなぁ」


 ヴィクトルも俺の近くに木の板を敷いて、毛布を掛けて横になっている。


「ぴい~」

 臣下スライムの一匹がヴィクトルに近づいていく。


「ヴィクトル、そのスライムがあっためてくれるそうだ」

「おお、それはありがたい」

「ぴい~~」


 スライムたちは体温を自在に操れるのだ。


「おお、あったかいですね、ありがとうございます」

「ぴっぴい」


 俺も板の上に横たわり、体に毛布を掛けて夜空を見上げた。

 ピイが毛布の中に入って、温めてくれる。


「ありがとう。ピイ」

「ぴっぴい~」


 ピイはプルプルする。その振動も心地が良い。


「そろそろ秋だなぁ」

「私はもう秋だと思いますよ」

「そうか。そうかもしれないな」


 風は肌寒い。

 ヒッポリアスはその風を防ぐように横になってくれていた。

 俺とヴィクトルはヒッポリアスと廊下に挟まれた位置に横になっている。

 おかげで、だいぶ暖かかった。


 俺は扉を開けた廊下にいるアーリャに語り掛ける。


「アーリャ、寒くないか?」

「大丈夫、臣下スライムが来てくれたから」

「ぴっぴ」


 アーリャのところにも臣下スライムは来てくれていたようだ。


「そうか、寒かったらいいなさい。対策は色々あるからな」

「うん。ありがとう」


 そして、間もなく俺たちは眠りについた。

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