274 武器防具の修復
「では私も待機しましょう。腕が鳴りますなぁ」
ヴィクトルが腰に差した剣に手を置いた。
冒険者たちの中には拠点では武器を持ち歩かない物もいる。
だが、ヴィクトルは基本的に武器を携帯しているのだ。
「私も外で待機する」
アーリャも張り切っている。
「ありがたいが、アーリャは今日魔法を使いすぎただろう?」
「余裕」
「余裕か、だが本番は明朝だぞ?」
俺とヴィクトルが外で寝るのは、襲撃に備えるためだ。
昨日まで襲撃されなかったのだから、今晩襲撃される可能性はそう高くない。
もちろん、ジゼラにほこらを見つけられたことに気付いた悪魔が先手を打つ可能性もあるのだが。
「明朝も参加する」
「うーん。どうする? ヴィクトル」
アーリャが冒険者たちの中でも特に強い魔導師なのは間違いない。
だが、今朝からずっととろ火で甜菜を煮ていたので、集中力も疲れもあるだろう。
「そうですね。アーリャさんには廊下で寝てもらいましょうか」
「わかった」
廊下は外よりもずっと暖かい。
そして、部屋の中で寝るよりもずっと速く外に飛び出せる。
「うーん。明朝以降の計画ですが……」
そして、ヴィクトルは全員を見回した。
「私とテオさん、ジゼラ、アーリャ、ヒッポリアスとピイで、ほこらに攻め込みます」
冒険者たちは大人しく聞いている。
冒険者たちの中には、自分も攻め込みたいと思っている者も少なくない。
だが、皆がヴィクトルのことを信頼し尊敬されているので、異論がでなかった。
「皆さんにはこちらとボアボアさんの家の拠点防衛をお願いします」
「ヴィクトルさん、何対何でわけたらいい?」
「そうですね、向こうには飛竜さんとボアボアさんもいらっしゃいますし、八体二でお願いします」
「わかった」
飛竜は、地元では竜王になるほど、強い竜だ。
それに、ボアボアは悪魔にやられて死にかけた過去がある。
だが、ボアボアもけして弱くはないのだ。
「明日の戦力分散についてですが、こちら側に――」
「わかった」
「今晩は就寝時も武装を解かずにお願いします」
「もちろんだ」
ヴィクトルは言わなくてもわかるような当たり前のことも丁寧に指示を出していく。
そうやることで、うっかりを防ぐのだ。
冒険者たちとシロ、メエメエは真面目に聞いていて、子供たちを構えていない。
だが、ミミとヒッポリアス、子魔狼たちはそんなこと関係なく嬉しそうに遊んでいる。
母ヤギは子供たちの近くで横になって監督していた。
「みんな。武器防具、その他、戦闘に必要なものの調整や修復は任せろ。全部持って来てくれ」
「わかった! だが、武器防具は毎日手入れしているからなぁ」
「うんうん」
「冒険者として戦闘する機会がなくとも、手入れは怠らないのは基本だからな」
みんながそんなことを言っている中、若い冒険者がおずおずと手を上げる。
「あっ、俺、テオさんにお願いしたい修理して欲しい防具があるんだけど」
「いいぞ、もってこい。ついでに武器ももってこい。見てやろう」
「ありがとう。すぐ持ってくる!」
若い冒険者は嬉しそうに走って食堂を出ていった。
「……あ、実は俺も」
「恥ずかしながら俺も……壊れたわけじゃないんだが、ずっと鎧に気になる箇所があって」
「いいぞ、全部持ってこい」
「ありがてえ!」
数人の冒険者が走っていった。
「俺たちも準備しに行くか」
「そうだな」
それ以外の冒険者たちも自室へと戻って行く。
そんな中ヴィクトルは食堂に残った。
「ヴィクトルはいいのか?」
「私は、いつでもやれますから」
「凄いな、常に戦闘態勢なのか? 疲れないか?」
「逆ですよ」
頭突きしてきたミミの頭に拳を合わせてやりながら、ヴィクトルはほほ笑んだ。
「逆?」
「ええ。常に無理なくできる装備を全力の武装としているだけです」
言葉通り受け取れば、全力の武装の基準を落としているように聞こえる。
だが、それほど単純ではないのだろう。
「常に戦場にいるつもりでことをなせという奴か」
冒険者や騎士にとって大切な心構えと言われている言葉だ。
だが、実践できている者はほぼいない。
「まあ、そういう言い方もあるかもしれませんね」
装備や所持品を厳選するだけでなく、体を鍛えて、所作と心構えに気を遣っているに違いない。
「ヴィクトルは装備の修理や調整は必要ないか?」
「はい、もし必要を感じた場合はその日のうちに言っていますから」
「そうか。俺としてもその方が助かるかもな」
「でしょう? 直前に沢山持って来られても、間に合うとも限りませんし……」
そこに冒険者たちが駆け込んでくる。
「テオさんに調整してもらいたい防具をもってきたぞ!」
「了解。修理調整して欲しい武器と防具は身に着けてくれ。その方がわかりやすい」
「わかった!」
冒険者たちは武器と防具を身に着ける。
一流冒険者たちばかりなので、鎧を身に着けるのもかなり速い。
みなあっという間に着用し終えた。
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