273 拠点の備え

 それから、冒険者たちが立ち上がってこちらに来て、順番に自己紹介していく。

 冒険者たちは名乗った後、ミミを撫でる。

 ミミは撫でられるのが好きらしく、嬉しそうに尻尾を振っていた。


 みんなの自己紹介が終わると、

「めえ~~めえー」

「わかったわかった。暴れないようにね」

「め~」


 ミミが降ろせというので俺は床に降ろした。

 すると、ミミは冒険者たちに頭突きしてまわる。


「おお、可愛いなぁ」


 ミミは冒険者たちに撫でられて、満足げに尻尾を揺らしている。

 警戒して怯えていた姿からは想像できないほど人懐こい。

 人見知りするが、基本的に人が好きなのだろう。


「……可愛い」


 アーリャもぼそっと呟いて、子ヤギを撫でていた。


 そんな子ヤギと、ヒッポリアスと子魔狼たちが遊び始める。

 シロはそばで子供たちを見守りながらお座りして、冒険者たちに撫でられていた。


「ところで、ヴィクトル。対応が必要なことがおこったのだが」

「なんでしょう?」


 子供たちを怯えさせないように、俺もヴィクトルも静かに落ち着いて話す。

 冒険者たちも平静を装って子供たちを構いながらも、話を聞いているようだ。


「悪魔が出た。ジゼラが三匹殺したが、巣があるらしい」

「巣ですか。どのあたりでしょう?」

「ここからジゼラが走って、六分らしい」

「……ジゼラさんで六分ならば普通に歩いて二時間ぐらいですね」

「そのぐらいだろう」

「詳しい話を聞かせてください」


「ジゼラがミミと遊んでいる途中、不穏な気配察知。そちらに走ると、ほこらを発見したそうだ」

「ほこらですか?」

「ああ、そこでジゼラは悪魔三体に襲われて倒したんだが……。ジゼラはほこらの中から悪魔の気配を感じたと」

「……ジゼラさんはなんと?」

「やばそうだった、と。だからミミとメエメエたちが心配だからほこらには入らずに戻ったと」

「なんと。そこまで?」


 ジゼラにやばそうだったと言わせる敵はそうそういない。

 平静を装って入るが、冒険者たちに緊張が走ったのが伝わって来た。


「ジゼラは、ほこらを潰すなら、手伝いが欲しいと」

「……なんと」


 ヴィクトルはますます驚いて、目を見開いた。

 ジゼラは、何かあれば、一人で突っ込んで、埒をあけさせるタイプなのだ。


「まあ、ジゼラなりに護衛とか、拠点の防衛とかいろいろ考えたんだろうがな」


 きっと一人で活動していたのなら、ジゼラもそのまま突っ込んだに違いない。


「それでテオさんはどう判断されてますか?」

「子ヤギを連れて、紹介してるぐらいだから、察しているとは思うのだが」

「緊急度は低いと?」

「低いとは言わない。だが、すぐにできることが少ない。これから夜だからな」

「それは、そうでしょうね。ジゼラさんは夜襲を提案されなかったのですね?」

「ジゼラは朝が良かろうと。あいつらは多分、夜行性だから、と」

「ジゼラさんの勘ですか?」

「そう、勘だ」

「ならば、朝に仕掛けましょう」


 ジゼラは神に愛されし勇者。

 そのジゼラの勘は皆に信用されているのだ。


「ジゼラさんはボアボアさんの家の方を守ると?」

「そうだな、夜襲を警戒してのことだ」

「ジゼラさんが、警戒が必要だと思われたのならば、必要なのでしょうね。私たちも警戒しましょう」


 ヴィクトルがそう言うと冒険者たちは力強く頷いた。


「とりあえず、向こうの防衛はジゼラに任せるとして、こちらは……」

『ぴい! けいかいなら、まかせて!』

「ピイ、いいのか?」

『うん。しんかすらいむたちに、けいかいしてもらう! あくまがきたら、みんなにおしえる』

「ありがとう。助かる。ヴィクトル。ピイと臣下スライムたちが見張りをしてくれるらしい」

「ありがとうございます。ピイさん、何とお礼を言ったらいいか」

「ぴっぴい!」


 嬉しそうにピイが鳴いた。


『でも、おふろとかせんたくとか、きょうはできない! だいじょうぶ?』

「もちろん。一日ぐらいなら問題ないよ。ありがとう」


 俺は皆に臣下スライムたちがいつもやってくれている風呂の浄化と洗濯ができないことを伝える。

 皆は無言でうなずいた。


「テオさん。防衛体制ですが……」

「臣下スライムが報せてくれたときに、すぐに飛び出せるようにだな」

「寝ていても報せが来たら飛び起きればいいのですが」

「まあ、そうだな」


 寝ていても、何かあれば即座に起きて戦える。

 それは冒険者にとって基本技能だ。

 それができない奴は冒険者として長生きできない。

 開拓団に参加しているのは全員が一流冒険者だから、その点は心配はない。


「まあ廊下があるから、室内で寝てたら対応が遅れるよな」

「そうですね」

「俺が外で待機しよう。ヒッポリアスも一緒に頼めるか?」

『いいよ! きゅおきゅお!』

「ありがとう。ピイも頼みたい」

『ぴい! とうぜん!』

「ありがとう。ということで、俺とヒッポリアス、ピイが中庭で寝よう」


 ヒッポリアスがいれば、戦闘面で安心だ。

 そして、ピイは特に臣下スライムからの警報を漏らさない。

 鳴いたり特殊な振動とかで臣下スライムは伝達するのだと思うが、それを確実にキャッチできるのはピイである。

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