258 シロの保護者ヒッポリアス

 それから俺たちはボアボアの家に向かって移動する。

 ヒッポリアスだけでなく、フィオ、ケリー、シロと子魔狼たちとボエボエとベムベムも付いてくる。


 子供たちはじゃれながら歩いて行き、最後方からシロが監督するように付いてくる。


「シロ、散歩しなくていいのか?」

「わふ?」

「散歩しないとストレスが溜まるだろう?」

「わふ」


 子魔狼たちの保護者をしてくれているが、シロは魔狼。

 必要な運動量は多いのだ。


「そうだね。シロ、走ってきたらどうだ?」

「はしてきていいよ?」


 ケリーとフィオにも勧められ、シロは「わふぅ~」と悩んでいる。


『いっしょにいく?』

 そんなシロにヒッポリアスが優しく言う。


「ヒッポリアス、一緒に行ってくれるのか?」

『ひとりだとさみしい。きゅお!』


 そういって、ヒッポリアスは尻尾を揺らした。


「そうか」


 シロは保護者としての責任感だけで、ずっと居たわけでは無いのだろう。

 運動もしたいが、それ以上に散歩はみんなでしたいのかもしれない。


「暖炉の作業が終わったら、みんなで散歩にいく?」

「わふ~……わぅ!」


 少し迷った後、シロはいま行ってくると宣言した。

 やっぱり、運動はしたいらしい。

 それに、縄張りの状態が気になって仕方がないから見てまわりたいそうだ。


『いこ!』

「わふ!」


 ヒッポリアスが大きくなって、ゆっくりと走り出す。

 シロも走り出し、すぐにヒッポリアスを追い越した。


「わふわふ~」

「きゅおきゅお~」


 シロがどこを走るか決めて、ヒッポリアスがその後ろをついて行くようだ。

 シロもヒッポリアスもとても速いので、あっという間に見えなくなった。


「わふぅ」

 クロが寂しそうに鳴く。


「クロも大きくなったら一緒に散歩しような」

「わふ」


 シロとヒッポリアスが消えたあと、しばらく考えていたケリーがぼそっと言った。


「テオ、シロとヒッポリアスでは序列はシロが上なのか?」

「どうだろうな。魔狼の群れならそうなんだろうけど……」


 魔狼の群れは、群れの長が先頭を走る。

 どこに向かうのか、決めるのは長の仕事だからだ。


「ただ、ヒッポリアスは、ついさっきかなり高速で走ったし」


 俺とイジェを乗せて、大はしゃぎで走ってくれた。

 だから、運動したい欲はシロの方が上だ。


「それに、ヒッポリアスはあまり縄張りの点検という意識がないんだよな」


 ヒッポリアスは海で暮らしていた。

 海にも恐らく縄張りのようなものはあるのだろうが、陸ほどはっきりしていないのだろう。


 それに、ヒッポリアスは圧倒的強者だから縄張りへ誰かが侵入しても気にしない。

 俺たちが船で侵入したときは、珍しいから近づいてきたが、追い払おうとはしなかった。


「今回、シロは縄張りを点検したいっていってたけど、ヒッポリアスは多分縄張り把握してない」

「そうか。ヒッポリアスが先頭だと、点検に支障が出ると」

「多分ね」


 ヒッポリアスはあくまでも付き添いといった意識が、二頭共にあるのかもしれない


「あとで、しろにきいてみる?」

「そうだな、頼むよ。ところでフィオはどう思う?」

「うーん。しろはこども! ひっぽりあすはこどもだけど、つよい!」

「なるほど? ヒッポリアスはこの場合、保護者なのか?」

「くろ、ろろ、るるとしろみたいなかんじ!」

「なるほどなぁ。そういうことか」


 ケリーは納得したようだった。

 シロはいつも子魔狼たちの後ろを付いてきている。

 それと同じように、ヒッポリアスも後ろに付いたとフィオは考えたらしい。


「勉強になる。一応あとで通訳も頼む」

「まかされた!」


 フィオは元気に尻尾を揺らした。


 そして、俺たちはボアボアの家の前に到着すると

「がうがう」

 飛竜が出迎えてくれる。


 飛竜はふらっといなくなったり、いつの間にか戻ってきたりするのだ。


「飛竜、ボアボアの家に暖炉を取り付けにきたよ」

「がう~」

「そう、部屋を暖める器具。赤い石っていう道具に魔力を込めることで、部屋を暖めるんだ」

「ががう」


 俺が飛竜に説明しながら、ボアボアの家の中に入る。


「ぶい!」「べむべむ!」


 ボアボアと陸ザメたちが迎えてくれた。


「おお、みんな揃ってるな」

「ぶぶい!」


 ボアボアはお昼のぬた打ちがおわって、のんびりしていたところだと言う。


「ぶい?」

 ボアボアはボエボエが迷惑を掛けてないか心配しているらしい。


「ボエボエはいい子にしてたよ」

「ぶ~い」

 俺がいい子だったいうと、ボエボエはどや顔をしていた。


「陸ザメたちは、お昼寝後か?」

「べむ!」

 どうやらそうらしい。


「べむべ~む?」

 ベムベムの父にベムベムが迷惑を掛けていないか尋ねられた。


「ああ、ベムベムもいい子にしてたよ」


 ボアボアもベムベムの父も、やっぱり子供が心配らしい。


「ぶぅい~?」「べむ?」


 ボアボアと陸ザメの父が、それぞれの子供に「お礼を言いなさい」のようなことを言っている。


「ぶい!」「べむ!」

「気にするな、子魔狼たちも楽しんでいたしな。な、ケリー」

「ああ、色々とデータも取れた。こちらこそありがとう」

「ぶい~」「べむ~」


 もう一度ボアボアとベムベムの父にお礼を言われたのだった。

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