257 ヒッポリアスの家の暖炉

 みんなに撫でられて、ヒッポリアスはご満悦だ。

「きゅおきゅお」

 ケリーに体をこすりつけに行く。


「ケリー、子供たちはどうだった?」

「何事もなく、だね。遊んでお昼寝して、おやつを食べてお昼寝して。って感じかな」

「そっか、ありがとう」

「本業だからね、魔物の観察は。ところでピイは?」

「ピイはアーリャのマッサージのためにキッチンに残った」

「ほう?」


 俺はアーリャが類い希なる魔法の使い方をしていることや、ピイのマッサージが魔法疲れを癒やすのに最適であることを説明した。

 そうしながら、魔法の鞄から柵と金属インゴットを取り出していく。


「これが、いじぇのむらのだんろ?」


 柵を見て、フィオが首をかしげる。

 すると、俺にじゃれついていた子供たちも柵の前に集まった。


『だんろ!』「ぁぅ」『だんろ?』

「ぶい!」「べむ!」「きゅお!」


 なぜか、暖炉ではなく柵だと知っているヒッポリアスまで子供たちに混じって尻尾を振っている。


「いや、これは柵だろう。テオ、暖炉をもらってきたのでは無いのか?」

「持ってきたけど、二基足りないんだ。予備も作るためにも、ヒッポリアスの家とボエボエ、そしてヤギの家の暖炉は新しく作ろうと思って」

「ふむ?」

「その三軒は大きいからね」


 念のために赤い石を三つおけるようにしておきたい。

 食堂兼キッチンも大きいが、暖炉は合計二基設置済みなのだ。


「そして、これがイジェの村から貰ってきた暖炉」


 ボアボアの家近くのお風呂場に設置するための暖炉を皆の前に置く。

 子供たちはそれを見て大はしゃぎだ。

 匂いを嗅いだり、前足を掛けてみたり、上に乗ったりする。

 いつも大人しいシロも匂いを嗅ぎにいく。


「だんろー」

 フィオまで匂いを嗅ぎにいった。

 子供たちにとって、新しい物は好奇心を強く刺激するらしい。


「さて、子供たち」

「「「わふ?」」」

「これは暖炉といって、すごく熱くなるんだ」

「ぶい!」「べむ!」

「そう、ボエボエとベムベムの言うとおり、かまどに似ているかな。」

「ぶい~」「べむ~」

「だから、触ったり、この周りで騒いだらダメだよ」

「「「わふ!」」」

「ぶぶい」「べむ!」「きゅおー」


 ヒッポリアスまで真剣な表情で聞いてくれた。


 子供たちに暖炉の危険性を伝えたので、製作作業に入る。


「よし、暖炉を一気に二基作る」

「わかた!」「わふ」


 フィオとシロが子供たちを連れて少し離れた場所へと移動する。



「まずは材料作りからだ」


 並べた金属インゴットに鑑定スキルをかけて、状態を把握。

 そして、一気に製作スキルで合金を作っていく。


 暖炉の外側と、鏡、つまり反射板の部分は素材が違うのだ。


 その二種類の金属を暖炉三基分一気に作っていく。

 少し多めに作る。足りなくなって後で作り直すと面倒だからだ。


「材料はこれでよしっと」


 俺は頭の中で暖炉のイメージを固めていく。

 イジェの村の暖炉と構造は同じだ。

 ただ、部屋が大きい分少し大きめにする。

 反射板の角度も、すこしだけ部屋に合わせて変えた。



「よし」


 イメージが固まったら、いつもは材料の鑑定に入る。

 だが、材料は今は作ったばかりだ。

 それも均質に作ってある金属インゴット。

 鑑定を省略し、一気に作っていった。

 一基できたら、すぐに次を作っていく。


「できた?」

「できたよ。これをヒッポリアスの家に置こう」

「きゅおきゅお~」


 俺は二基を魔法の鞄にしまう。

 そして、一基をヒッポリアスの家の壁に固定する。


「テオ、疲れないか? ピイがいないが……」

「大丈夫だ、今回の作業は単純で簡単だからな」

「そうかならいいんだ」


 ケリーは心配してくれたらしい。

 柵も固定してから、改めて子供たちに言う。


「この柵は暖炉に突っ込まないためのものだ」

「「「わふ」」」

「ぶい」「べむぅ」「きゅうお」

「だけど、あまり勢いよく突っ込むと壊れる」

「わふ」

「だから、この近くではあまり暴れないように」

「「「わふ!」」」

「ぶい!」「べむ!」「きゅお!」

「いい返事だ。さて、使い方を説明しよう。フィオとケリーも聞いてくれ」


 そして、俺はみんなに暖炉の使い方を説明する。


「柵はここで開けられる。子供たちは開けないように」

「「「わふ」」」

「そして、この部分から赤い石を交換する」

「わかた!」

「なるほどなぁ、魔力を注ぐってのは?」

「ケリーは魔力操作が苦手なのか?」

「得意では無いね」


 冒険者と違い学者先生たちは、魔力操作が苦手な者が多い。

 冒険者は戦士だろうと、ある程度魔力を扱えないと話にならない。

 だが、学者をするのに魔力の操作は必要ないのだ。


「後で教えるよ。そう難しくない」

「頼むよ」

「まあ、できなくても俺が魔力注ぐから心配しなくていいさ」


 一日二回ならば、そう大変なことではないのだ。

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