256 冒険者用宿舎への暖炉設置

「さて、次はみんなの宿舎にも設置しに行くんだが……。俺の作業は魔力消費も少ないし、ピイ、このままアーリャのマッサージをしてくれないか?」

『わかった! ぴい!』


 ピイは快く了解してくれた。


「ピイ、いいの?」

『いい! ぴぃ~』

「構わないそうだよ」

「ありがとう、ピイ」

「ぴっぴぃ~」


 そして、俺とヒッポリアスは食堂を出て、病舎に向かった。

 食堂では、イジェが暖炉の使い方を説明し、ヴィクトルを含めた冒険者たちが真剣に聞いていた。

 暖炉の使い方を理解した冒険者たちが、アーリャたちにも教えてくれるだろう。


 病舎までは渡り廊下を歩いて行く。

「きゅうおーきゅうお~」

 ヒッポリアスはご機嫌だ。


 少し前を歩いて、こちらを振り返って、尻尾を振って、また歩き出す。


「きゅおきゅーお」

「よく考えたら、二人きりで行動するのは久しぶりかもしれないな」

「きゅお!」


 ヒッポリアスは戻ってきて、俺の足に前足を掛ける。


「抱っこか、いいよ」

「きゅうお~」


 俺はヒッポリアスを抱っこして、病舎に入った。


「ヴィクトルたちが完治して以来だな」

「きゅうお」


 食中毒になったヴィクトルたちのために建てたのだ。

 幸運なことに、あれから一度も使われていない。


「この辺りでいいかな」

 俺は病舎の奥に暖炉を設置する。


「暖炉さえ設置してあれば、ヒバシも赤い石も、他から持ってくるのは簡単だからな」

「きゅお!」

「次は冒険者の宿舎を順番にだな」

「きゅうおー」


 共有部分に暖炉を設置することは、冒険者たちに今朝方言って、了解を取ってある。


 暖炉の設置自体は簡単だ。

 冒険者の宿舎、五棟に順番に暖炉を設置して回る。


「共有部にしか無いから……個室が寒いかな」

『どああける! きゅお』

「まあ、ドアを開けたら寒さはましになるが……」


 個人の領域というのは大切なのだ。

 とはいえ、個室ごとに暖炉を設置する余裕はない。


「各自なんとかするだろう」

「きゅお!」

「残りはお風呂場一基とヒッポリアスとボアボア、ヤギの家の三基だな」

『どれからいく? きゅおー』

「まずは、拠点のお風呂場かな」

『おふろ! きゅお』


 俺に抱っこされたヒッポリアスは尻尾を揺らす。


「離れた場所にあるボアボアとヤギの家、ボアボアたちのお風呂場はは最後にするとして」

『とおいもんね! きゅおきゅお』

「そう。行き来するのに時間がかかるからね」


 近くにある作業をまとめて終わらせてからの方が良いだろう。


「ヒッポリアスの家にはみんながいるからね」

『そっかーきゅお』


 そんなことを話ながら、俺とヒッポリアスはお風呂場に入る。

 一応湯船の様子を見る。


「ぴい~」

 ピイの臣下スライムたちが楽しそうに泳いでいた。

 脱衣所にもスライムが二匹いた。


「ぴい?」

 スライムたちは「洗濯する?」と聞いてくれる。


「大丈夫。洗濯じゃないんだ、暖炉を設置しにきただけだからね」

「ぴぴい~」


 俺はスライムたちに見守られながら、暖炉と柵を設置した。


「ぴぃ~~?」

「これは暖炉といって、すごく熱くなるんだ」

「ぴい」

「脱衣所を暖めるんだよ」

「ぴっぴぃ」

「たぶん、スライムたちなら、やけどしないけど、熱くなっているときは念のために触れないようにね」

「「「ぴい!」」」


 ピイの臣下スライムたちも非常に賢いのだ。


 そして、俺とヒッポリアスは、ヒッポリアスの家に戻った。


 近づくにつれ、騒がしくなっていく。

「わふわふわふ!」「べむう!」

「ぶうういい」「きゃふう」

 見なくても子供たちがはしゃぎまくっているのがわかる。


「ただいま」

「きゅうお!」


 俺とヒッポリアスが中に入ると、

『ておどーる!』「ぁぅ」『あそぼ』

 クロ、ロロ、ルルが一目散に駆けてくる。


 前足を俺の足にかけてぴょんぴょんと後ろ足で飛ぶ。


「クロ、ロロ、ルル、元気だな。眠くないのか?」

『ねない!』「ゎぅ」『あそぼ』

「水飲んでるか?」

『のんだ!』『のんだ』『あそぼ』

 いつも小さな声で鳴いているロロも飲んだと教えてくれる。

 昨日、水分不足でお腹が痛くなったからだろう。


「そっか、みんないいこだな」

「「「わう」」」

「ぶぶい!」「べむ!」


 子魔狼たちに遅れてボエボエとベムベムもやってくる。


「ボエボエとベムベムもいい子にしてた?」

「ぶい!」「べえむ」


 いい子にしてたと言いながら、ボエボエは俺の匂いを嗅いでいる。

 ベムベムは右手にスコップを握りしめ、両手をぶんぶんと縦に振っていた。


「そっか、いい子だったか」

『あそぼ』「ぁぅ」『あそぼ』

「ぶぅい」「べぇむべむ」

「遊びたいのはやまやまなんだが、暖炉を設置しないとダメだからな」

「「「わふぅ」」」「ぶいぅ」「べむぅ」



 そして、俺はケリーとフィオ、シロにお礼を言う。


「子供たちの面倒みてくれてありがとう」

「気にしないでいいよ」

「まかせろ」

「わふ」


 ヒッポリアスがケリーとフィオに甘えに行った。

「きゅぅお」

「ヒッポリアスは可愛いなぁ」

 ケリーがヒッポリアスを撫でまくると、フィオも横から撫でて、シロはベロベロと舐めた。

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