255 食堂への暖炉の設置

 気持ちよさそうな冒険者を見て、他の者もうらやましくなったようだ。


「俺にもしてくれ! 肩が痛いんだ」

「俺は腰だ!」

「ぴい~」


 冒険者たちがピイにマッサージをねだっている間に、俺は暖炉の設置を進める。


「場所は……奥と手前、どちらがいいかな?」

「ウーン、イリグチのチカクだと、アッタカくなったクウキが、すぐデチャウけど」

「でも、渡り廊下があるからな」


 俺が食堂を含めた各戸を渡り廊下で繋げたのだ。

 暖かい空気が食堂から外に出ても、廊下にとどまる。


「とはいえ……廊下は広くて長いし、すぐ冷えるか」

「ウーン」「きゅおー」


 ヒッポリアスも俺とイジェと一緒に考えてくれている。


「テオさん、廊下の中は凍りますかね」

「可能性は……あるな」

「なら、入り口近くに設置して、凍るのを防ぐのはどうでしょう?」

「そうか。廊下を快適な温度にするのは難しくとも、凍結防止になりうるか」

「ロウカに、ダンロをオクのもイイカモ」

「寒さ次第だけど、それもありだな」


 赤い石の数には余裕があるのだ。


 その後、少し話し合って、やはり食堂が暖かい方が良いと言う結論になった。

 食堂とキッチンを隔てる壁沿いに暖炉を設置する。


「イジェ、壁にくっつけて固定するんだよな」

「ソウ。タオレたらカジになるから」


 誰かが転んで足を引っかけて、暖炉を倒したら、火事になりかねない。

 火事になればどこまで火が燃え広がるかわからない。

 冬に火事で焼け出されたら、大変なことだ。



「そうですね。火事はもっとも警戒すべきことの一つです」

 ヴィクトルも神妙な顔で頷いている。


「たしかにこの暖炉ならば、床も後方も熱くならないし、壁に固定した方が火事は防げるな」

「ソウ」

「よし、固定は金属の釘を使おう」

「ウン」


 俺はイジェが説明のために持っていった暖炉を、壁に固定する。

 暖炉には固定するため金具が付いているので、それを利用して、製作スキルで釘を作って壁に打ち付けた。


「これでいいかな? イジェどう思う?」

「ウーン」


 イジェは暖炉に触れて、調べてくれる。


「バッチリ!」

「そうか、よかった。あとは子供たち対策の柵だな」

「ドンナのにスルの?」

「うーん。半径一メトルの半円状に柵をつくればいいかな?」

「フムフム」

「子供たち対策の柵だから高さはそんなになくてもいいかな」

「イチメトルグライ?」

「そうだね、とりあえず作ってみよう」


 俺は魔法の鞄から鉄のインゴットを取り出した。


「ある程度頑丈でさえあればいいからね」


 難しいことは考えなくていい。


「でも、錆びにくいほうがいいか。うーん」


 俺はミスリルのかけらも取り出した。


「ミスリル? チイサイね」

「ごく微量まぜれば、特性は鉄のまま、錆びにくくなるからな」

「ソウナンダ」


 そして鉄インゴットとミスリルのかけらに鑑定スキルをかける。

 配合比率や不純物などは、あまり気にしなくていいので楽なものだ。


 そのまま、製作スキルを使って、高さ一メトル半径一メトルの半円状の柵を七個作った。

 正面には開閉できる部分も作ってある。

 そこを開けて、暖炉に近づき赤い石を出し入れするのだ。

 

「ふう。これを壁と床に固定してと」


 しっかりと固定させる。

 村にいる子供たちはみんな賢くて、聞き分けのいいこだが、何をするのかわからないのが子供だ。


 もしかしたら、はしゃぎすぎて、走り回ったあげく、柵に頭から突っ込むかもしれないのだ。

 しっかりと固定していないと柵を吹っ飛ばして、暖炉に突っ込みかねない。


「こんなものかな」

「おお、しっかりと固定されてますね。これなら大丈夫でしょう」

「ウン、ダイジョウブ!」


 ヴィクトルとイジェが、柵を手で握って揺らして強度を確かめてくれる。


「よかった」


 これで安心だ。


「じゃあ、俺はキッチンの方にも暖炉を設置しに行くよ」

「ウン、オネガイ」


 それから、イジェは冒険者たちに呼びかける。


「ダンロのセツメイするよー」

「おお、わかった! ピイありがとうな。楽になったよ」

「ぴい~」


 マッサージを受けて楽になったらしい冒険者たちがピイにお礼を言っている。


「これが俺たちの宿舎にも設置されるのか。楽しみだな!」

「ああ、今日中に設置する予定だぞ」

「テオさん頼んだ! ありがとう」


 冒険者たちも暖炉を楽しみにしているようだ。

 冬はまだ来ていない。暖炉を使うまでまだ時間はある。

 だというのに、これほど期待されているのは、冬が恐ろしいからだろう。


 説明を始めたイジェと別れて、俺とピイ、ヒッポリアスはキッチンに向かう。

 キッチンでは、アーリャと三人の冒険者が甜菜を煮ていた。


「テオさん。暖炉の設置? 話は聞こえてた」

「そうだけど、まさか、アーリャ、朝から?」

「そうだけど」


 アーリャはまだ、魔法でとろ火を維持していた。


「……凄まじいな」

「きゅお……」


 一流の魔導師でも、これほど完璧に制御された魔法を長期間維持するのは、ほぼ不可能だ。


「大丈夫。たまに替わってもらって、休んでるし」

「いやいや、替わるといっても五分ぐらいだぞ」

「そうそう、俺たちだと、五分が限界だからな」

「三人で交替して、十五分休みを二回。アーリャのとった休みはそれだけだよ? 本当にすごい」


 三人の冒険者たちも、優れた魔導師だ。

 それでもとろ火を維持するのは五分で精一杯。


『ぴい? マッサージする?』

「アーリャ、ピイがマッサージしていいか聞いているぞ」

「ん、ありがとう。お願い」

「ぴい~」


 ピイがアーリャの頭の上に飛んでいく。

 そして、マッサージを開始した。


「気持ちいい。疲れが取れる」

「ぴい~」

「それはよかった。俺も連続で製作スキルを使うとき、ピイにマッサージしてもらうんだ」

「ぴっぴぃ」

「ピイのマッサージをうけると魔力の凝りのようなものが取れるからな。長時間魔力消費をする作業のときは本当に助かるんだ」

「ぴぃ」


 少し照れたように、ピイが震えた。


「新大陸のスライムって凄いんだなぁ」


 冒険者たちも感心している。

 旧大陸のスライムは凶暴で知能が低かった。だからこそ驚きが大きいのだ。


「それはそとして、砂糖作りは順調か?」

「うん。いま煮汁を煮詰めているところ。灰汁を取りながらね」

「灰汁取りなら任せろ! というか、それぐらいしか役に立ってないんだが」


 魔導師の冒険者が、少し自嘲気味にそういって笑った。


「休憩させてもらっているし、助かっている」

 アーリャはピイにマッサージされながら、そう言って微笑んだ。


 そして、俺はキッチンにも暖炉と柵を設置した。

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