251 イジェの村の跡地
『ついた! きゅうお~』
イジェの村の前で、ヒッポリアスは急に止まった。
ズザーっと音を立てて、急制動したのだ。
「ありがとう、ヒッポリアス。さすがだな。とても速かったよ」
「きゅうおきゅおー」
ヒッポリアスが高速で走ってくれたおかげで、あっという間だった。
拠点から、十分とかからなかったように思う。
俺はヒッポリアスの背中から降りる。
「ヒッポリアス、アリガト。タノシカッタ」
「きゅうお~」
ヒッポリアスの尻尾が激しく揺れている。
「イジェ、手につかまって」
「アリガト」
俺はイジェの手を引いて、ヒッポリアスの背中から降ろす。
「ファッ」
イジェはヘロヘロになって、ひざが笑っていた。
これまでに体験したことのない高速移動と、上下移動だったのだろう。
俺はイジェを近くにあった切り株に座らせた。
「少し休もう。ヒッポリアスも疲れただろう?」
『ひっぽりあすは、だいじょうぶ!』
そういうが、ヒッポリアスの鼻息は荒い。
『いじぇ、だいじょうぶ?』
「イジェ、大丈夫か?」
ヒッポリアスの言葉を通訳する。
「ダイジョウブ、タノシカッタ。デモ、ビックリシタ」
「そっか」
「きゅうおー」
「よし、水でも飲んで一息入れよう」
俺は魔法の鞄からコップと皿を出して、水を入れると、
「きゅうおー」
ヒッポリアスは小さくなった。
小さい方が、喉の渇きを癒やすのに効率がいいのだ。
「はい、イジェ」
「アリガト」
イジェは水を飲み、ふーっと息を吐く。
俺は続けてお皿に水を入れてヒッポリアスの前に置いた。
「きゅおー」
勢いよくヒッポリアスは水を飲んだ。
走ったので、喉が渇いていたのだろう。
それを見ながら、俺も水を飲む。
「ピイも飲む?」
『のむ! ぴい』
いつものように、ごく自然にピイは黙って俺にくっついていたのだ。
俺は自分の飲んでいたコップを肩に乗るピイの前に出す。
『……ぴい』
ピイは静かに吸い取るようにして水を飲む。
「ピイ、うまいか?」
『うまい!』
そういって、ピイはプルプルした。
勢いよく水を飲み終えてから、ヒッポリアスはイジェの顔をペロリとなめにいく。
俺は黙ってヒッポリアスのお皿に水を追加で入れた。
「アリガト、ヒッポリアス。シンパイしてクレテルノ?」
「きゅおー」
「ダイジョウブ。ビックリシタケドタノシカッタ。カエリもオネガイね」
「きゅお!」
ヒッポリアスはイジェのひざが笑っているのを見て、やり過ぎたと思ったのだろう。
あくまでも、ヒッポリアスはイジェと俺を楽しませようと走ったのだ。
そして、イジェが「キャアー」と喜ぶので、つい加速した。
結果、あまりに速く走りすぎて、イジェの体がびっくりしてしまっただけである。
「ケリーとか子魔狼たちが乗っているときは、ゆっくりめにな」
『わかった! ふぃおは?」
「フィオは、様子をみてだな。喜んでそうなら速く走った方がフィオも嬉しいだろうし」
怖がっていたら、やめた方がいいだろう。
『わかった! きゅおー。……ておどーるとぴいは?』
「ん。俺は楽しかったよ」
『たのしい、ぴい』
ピイはプルプルする。
『そっかー、きゅーおー』
ヒッポリアスは俺の足に体をこすりつける。
俺はそんなヒッポリアスを抱き上げた。
「きゅうお~」
ヒッポリアスは俺の顔に顔をこすりつけてくれた。
それから、ヒッポリアスを地面に降ろすと、先ほど皿に入れた水を勢いよく飲む。
あっという間に飲み干した。
「ヒッポリアス、余程喉が渇いてたんだな」
「きゅお!」
「もっと飲むか?」
『だいじょうぶ! もうかわいてない』
「そっか。遠慮はするなよ」
「きゅお!」
その後、しばらくゆっくりした。
急いで行ってくると、ヴィクトルたちに言ってある。
だが、ヒッポリアスが走ってくれたおかげで、予定より早く着けたから、時間には余裕があるのだ。
「サテと……」
ヒッポリアスの背中から降りたときから五分ぐらい経ったとき、イジェがゆっくり立ち上がる。
「もう大丈夫か?」
「ウン! アリガト」
「じゃあ、暖炉のある場所に案内してくれ」
「ツイテきて」
イジェを先頭にして俺たちは村の中を歩いていく。
「何回も来たけど……やっぱりいい村だな」
「ソウ?」
「ああ、建物も高い技術を使って建てられているし、村の建物の配置もよく考えられているし」
「ソッカ」
イジェは少し照れたように、微笑んだ。
イジェが案内してくれたのは、イジェが住んでいた家だった。
以前も案内して貰ったことがあるので覚えていた。
「ドウゾ。テキトウにスワッテ」
「ありがとう」「きゅおー」
「ダンロモッテクルカラ、マッテテ」
「手伝わなくていいのか?」
「ダイジョウブ」
どうやら、イジェの村で使われていた暖炉は軽いらしい。
俺とヒッポリアスは、居間に置いてある椅子に座った。
机や椅子には埃がうっすらと積もっている。
立派な家にあったしっかりとした家なのに、少しずつ朽ちていっているのだ。
人が住まなくなった家は朽ちるのが早いという。
それが、とても残念でもったいなく感じた。
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