240 子ヤギの存在
メエメエは気まずそうに、俺たちを見る。
「どうした? メエメエ。子ヤギが産まれる予定があっても遠慮しなくていいぞ」
子ヤギが産まれるということは、数が増えると言うこと。
数が増えれば小屋を広くしないといけなくなる。
それに、ご飯の消費量も増えるだろう。
そういうことを気にしているのだろうか。
「本当に気にしなくていいよ。子ヤギが産まれても予定に大差ないし、そのぐらいの余裕は充分にある」
「めぇ……めぇ」
メエメエは申し訳なさそうに言う。
「え? 本当か?」
俺は思わず聞き返した。
「うまれたの? すごい!」
駆けてきたフィオが嬉しそうに尻尾を振っている。
「産まれただって? いつだ?」
ケリーも目を輝かせて駆けてくる。
「めぇ~」
「ふつかまえ!」
フィオがケリーに通訳して教えてあげていた。
「なるほど。たしかにおかしいと思ったんだー」
フクロウたちを撫でていた、ジゼラがうんうんと頷いている。
「おかしいってなにがだ?」
「気配? メエメエの警戒の仕方が、周囲を警戒するってだけじゃない感じがした」
「…………へぇ?」
「ほら、こう、離れた場所にいる、誰かを気遣う気配っていうの? そういうのあるじゃない?」
無いと思う。
少なくとも、感知出来るようなものじゃない。
「だから、子供か仲間か。友達なら怪我したヤギが近くにいるのかなって思ってたよ」
そういって、ジゼラはメエメエを撫でる。
「まったく、気付かなかったぞ。冒険者だとそんなことまでわかるのか?」
ケリーが俺の方を見ている。
「俺は気付かなかったし、ジゼラ以外誰も気付かないと思うぞ」
「いや、テオさんも、今日の周辺探索を一緒にしてたら気付いてたって」
気付くわけが無いと思う。
「めぇ……」
「いや、気にしてないよ。赤ちゃんがいるなら、慎重になるのは当然だ」
魔ヤギはとても素早い種族だが、赤ちゃんはそうでもない。
いざというとき。逃げ遅れる可能性がある。
完全に安全が確認できるまで、隠しておこうというメエメエの判断は正しい。
メエメエは群れの長なのだから、弱者を守る責任があるのだ。
「めえ」
「気を悪くなんてしていないさ。俺たちだって、同じ状況なら同じ判断をする」
たとえ、俺たちのことを信用していたとしても、メエメエの判断は変わるまい。
俺たちが気付いていないだけで、拠点が安全な場所にない可能性だってあるのだ。
また、俺たちにとっては安全場所でも、ヤギたちにとっては危険な場所である可能性もある。
「まあ、赤ちゃんは、念入りに護らないとだよな」
「めえ」
「メエメエ、教えてくれたってことは、ここは安全だと思ってくれたってこと?」
ジゼラが尋ねると、メエメエは頷いた。
「めえ!」
「そっかー。周辺探索でも、危険な場所は危険な奴は見つからなかったもんね」
「めええ!」
わざわざ勇者を連れて周辺探索をするなんて、慎重な種族だと思っていたが赤ちゃんがいるなら納得である。
「じゃあ、メエメエ。母ヤギと赤ちゃんヤギが群れに加わるってことか?」
「めえめえ」
「とうさんやぎもいる!」
「そっか。三頭だな。三頭なら小屋の大きさを大きく変える必要は無いかな」
「めえ~」
メエメエは迷惑をかけると頭を下げた。
「それより、子ヤギ用の必要な設備はないか?」
「めえ~めえめえ」
お気遣い感謝する。だが我らはいつも雨や雪の日でも、木陰や岩陰で凌いできたのだ。
屋根と壁があるだけで、充分ありがたい。
なにも、心配しなくてもよいのだ。
そんなことをメエメエは言う。
「ありがと、でも、きのしたとかで……あめとかよゆう! しんぱいない」
「ほうほう。そうなのか……」
メエメエの言葉を、フィオがケリーに一生懸命通訳していた。
「メエメエ遠慮するな。例えばベッドとか作らなくていいのか?」
「めえ~?」
「このぐらいの枠を作って……」
「めえ」
「中に藁とか入れたら、赤ちゃんも寝やすいんじゃないか?」
「めええ!」
メエメエもよさげだと言ってくれる。
「その大きさだと、赤ちゃんしか入れないだろう? 授乳しやすいようにもう少し大きくしたらどうだ?」
「ああ、ケリーの言うとおりだな。メエメエどう思う?」
「めえ!」
メエメエも賛成してくれた。赤ちゃん用ベッドはとりあえず作ってみればいいだろう。
なにか改善点が見つかればそのときに直せばいい。
「あとは……そうだな。暖炉を置く予定なんだが、赤ちゃんが上に登ったら危ないよな」
「めえ?」
「ああ、暖炉って言うのは……」
俺はメエメエに暖炉について説明する。
「とはいえ、まだ暖炉の構造は決まっていないんだが……」
暖炉の構造を決めるのは、赤い石の性能チェックの後になるだろう。
「まあ、暖炉の構造が決まったら、赤ちゃんが登れないようにする方法を相談しよう」
「めえ!」
とりあえず、ヤギ小屋兼フクロウの巣の大体の仕様が決まった。
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