235 暖炉と赤い石

 ヒッポリアスの家に向かう途中、フィオが尋ねてくる。


「テオさん! だんろてどんなの?」

「えっとだな。家の中で火をおこすためのものなんだけど」

「かまど?」

「それとは少し違うな。かまどは熱が上にいくように作るんだけど、暖炉は熱が部屋に広がるように……」

「?」


 フィオが首をかしげる。

 その横ではシロと、子魔狼たちも首をかしげていた。


「ま、みたらわかるよ」

「たのしみ!」

「わふ!」


 ヒッポリアスの家の中に入ると、どこに暖炉を作るのかから考える。


「うーん。部屋全体を暖めたいから……」

「きゅおー?」


 ヒッポリアスも一緒に考えてくれているようだ。


「扉の正面に作ろうかな」

「きゅお!」

「火事を防ぐためにも、暖炉近くの床と壁は石に交換しようか」

『いし? ひっぽりあす、いしとってくる?』

「ありがとう。足りなくなったらお願い。でも前にヒッポリアスが採ってきてくれた石で多分足りるよ」

「きゅう~」


 簡単に言ってしまえば、暖炉は室内で行なう焚き火だ。

 延焼を防ぎ、煙を外に出す機構が何より大事になる。


 かつて見たことのある暖炉を思い出す。

 そうしておいて、この部屋に合わせて、思い浮かべる。


「高さはフィオの身長ぐらいかな。横と奥行きもそのぐらいでいいとして、煙突は……」


 煙突にはそれなりの太さが求められる。

 煙突の先は屋根の上に出すが、雪や雨が中に入ってこないようにしなくてはならない。


「煙突が厄介だな」

『やっかい?』


 ヒッポリアスが聞いてくれるので、説明する。


「そうなんだ。木を燃やすと煙がでるから外をに出すために煙突は作るんだ」

「つくる!」「わふ」


 フィオとシロも真剣な表情で聞いている。


「簡単に言えば空気の通り道だ。逆に言えば冷たい空気の通り道にもなる」

「むふう」


 火をおこしている間は、大丈夫だ。

 だが、火が消えると、途端に冷たい空気の通り道になる。

 隙間風なんて、比ではない。


「暖炉を使っていないときに通り道を塞ぐ機構を作ることもできるんだが……」

「わすれたらこまる!」

「そうなんだ。通り道を開けるのを忘れて火をおこしたら、煙だらけになるし」


 開け忘れがあるならば、当然、閉め忘れもある。 

 それに、寝ている間に火が消えたら、閉める人が居ないので冷たい風が入り込み急激に冷えることになる。


「うーむ、なんとかならんものか」

「きゅおー」「わふぅ……」

「くねくねさせる?」


 フィオが指の先を左右に動かしている。


「煙突を……なるほど。それはいい考えだ」

「わふぅ!」


 嬉しそうにフィオがぴょんと跳ねた。


 煙突を長くして、何度も途中で曲げれば、冷たい空気は入りにくくなる。

 それになにより煙は熱い。

 その熱い煙が通る経路を長くすることで、室内をより効率的に暖めることができるだろう。

 俺は見たことがないが、王都よりはるかに寒い街ではそういう暖炉を使っていると聞いたこともある。


「問題は材料がたくさんいることだな」

「いしたりない?」

『ひっぽりあす、とってくる?』

「……そうだな。うーん」


 俺は迷った。

 たしかに熱効率を考えれば、その方が良い。

 だが、大がかりすぎる。部屋が狭くなるのも問題だ。


 それに、ヒッポリアスの家のような大きな一部屋だけある構造ならばいいが、冒険者の宿舎はそうではない。

 暖炉を設置する共用部分に個室がくっついている構造になっている。

 煙突を横に伸ばしてくねくねさせたら、共用部分が狭くなりすぎる。


「うーむ」

「テオサン!」


 悩んでいると、イジェが入ってきた。


「あ、何か手伝えることができたか?」

「ソウジャナイの。コレツカウ?」

「これは……」


 イジェが持ってきたのは赤い石だ。

 正四面体、つまり正三角形四枚が組み合わさった形で一辺が十分の一メトルぐらいある。

 上部の頂点に、何かを引っかけられそうな小さな輪が付いていた。


「持たせてくれ」

「ドウゾ」

 持ってみると、意外と軽かった。


「普通の石よりは軽いかな」


 それでも、極めて軽いというわけではない。

 水程度の密度はありそうだ。


「鑑定スキルつかっていいか?」

「モチロン!」


 許可を得て、鑑定スキルを行使する。

 赤い石の情報が頭の中に入り込んでくる。


「おおっ」


 見た目以上に思ったより情報量が多い。

 ただの石ではない。構造が非常に複雑だった。


「ここをいじれば、開くのか」

「チョウシがワルイときは、アケテ、チョウセツする」

「これは、魔道具だな。しかもかなり性能が高い」

「どんな、せいのう?」


 フィオが興味津々な様子で赤い石をじっと見つめている。


「これは魔力を熱に変換する魔道具だよ」

「すごい! おゆをだすやつとおなじ?」

「そうだな、魔道具という点では同じだ」


 ヴィクトルが持ってきてくれたお湯を出す魔道具は便利に使われている。

 各戸にお湯を供給できているのは、魔道具のおかげだ。


「イジェのムラでは、ダンロにコレをイレテタ」

「ほう? 薪の代わりに?」

「ソウ。ミンナとハナシテイテ、イジェのオモウダンロとミンナのダンロがチガウとキヅイタカラモッテキタ」


 そういえば、イジェは木を伐採しすぎてはだめだと言っていた。

 暖炉は薪が大量に消費する。

 薪の代わりに燃料とできる魔道具があるならば、つかって欲しいと思うだろう。


「イジェ、これはどうやって使うんだ?」

「タダ、マリョクコメレばイイ。イチニチイイッカイ、マリョクをコメレば、イチニチアタタカイ」

「それはいいな。一日一回込めるだけでいいなら、負担は少ない」


「すごい!」

 フィオも嬉しそうに尻尾を振っている。


「それで、どのくらい暖かくなるんだ?」

「スゴク!」


 どのくらい暖かくなるかを口で説明するのは難しい。


「試してもいいか?」

「モチロン! デモ、ソトでヤッタホウガイイ。スゴクアツクナルから」


 俺たちは外で実験してみることにした。

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