234 手伝いたい子供たち
「お湯わかそうか?」
そう言ったのは、アーリャだ。
アーリャは魔王の娘であり、とても優秀な魔導師なのだ。
「ウン、オネガイ。デモ……」
「沸騰させないのね」
「ソウ! ナベはコレをツカッテ……」
「わかった」
アーリャが何かを呟いて右手を少し動かすと、イジェの指さした鍋がふわりと浮かぶ。
「ウワァ」
「すごい!」
イジェは感嘆の声を上げ、フィオも包丁を止めて、目をキラキラ輝かせている。
「「「おおぉ~」」」
冒険者たちも驚いて声を上げた。
アーリャは少し照れた様子で、かまどの上に鍋を置く。
「水はどのくらいいれたらいい?」
「ア、ウン! ミズはハンブングライまでイレテ」
「うん、わかった」
宙から水が出現し、鍋の半分まで一瞬で水が溜まる。
「すごいな、さすがはアーリャだな」
「あ、ありがと。テオさんに褒められたらお世辞でも嬉しい」
「お世辞ではないぞ」
そんなことを話していると、ヒッポリアスが走り出す。
「きゅぅお~」
向かったのは薪置き場だ。
薪を運ぶお手伝いをしたいらしい。
「わふ」
ヒッポリアスの動きを見てシロも走る。
その後ろを子魔狼たちも追いかけた。
そして、ヒッポリアスとシロは薪を咥え、子魔狼たちは枝を咥えて戻ってくる。
だが、そんなヒッポリアスやシロ、子魔狼たちの動きにアーリャとイジェは気付かない。
「……このぐらいかな?」
アーリャは火炎魔法を使って、水を温め始める。
その魔法の威力は非常に高く、あっという間に水がお湯に変わっていく。
お湯に変わった後は、アーリャはすぐに火力を落とし、繊細な火炎魔法でじわじわと温度を上げていく。
「スゴイ!」
「さすがのコントロールだな!」
イジェと冒険者たちはアーリャの魔法に夢中だ。
「もう少し温度上げた方が良い?」
「ウーン。コノグライがイイかな」
「わかった。この温度を維持すればいいのね」
何でも無いことのようにアーリャは言う。
「アーリャ、さすがに難しくないか? 一時間だぞ?」
そう心配そうに言ったのは冒険者の魔導師の男だ。
「この火力なら、何時間でもいける」
「…………」
魔導師の男は絶句している。
俺もその気持ちはわかる。
最大火力で焼き尽くすのも難しいが、弱い火力をずっと維持するのも難しいのだ。
少しでも気を緩めたら、火力が高くなり過ぎる。
弱くしようとし続ける方に意識が向かいすぎたら、今度は逆に火が消える。
「アーリャは魔法の威力も凄いが、それ以上にコントロールが得意なんだな」
「見事なもんだなぁ」
冒険者に褒められて、アーリャは照れたように頭を掻いた。
だが、火力に一切の揺らぎはでない。
呼吸をするかのように自然に火力を一定に維持している。
みんながアーリャを称えるなか。
「……きゅお」
「……わふ」
「「「…………」」」
ヒッポリアスとシロが咥えていた薪を床に落とした。
子魔狼たちは枝を咥えたまましょんぼり固まっている。
「あっ」
薪が床に落ちた音で、アーリャはやっと気付いた。
「ご、ごめん」
アーリャは気まずそうに謝った。
「……えっと、えらいぞ」
冒険者たちも、ヒッポリアスたちが薪を持ってきてくれたことに気付いて、気まずそうに褒める。
「きゅお~」
「わふ」
だが、ヒッポリアスたちはしょんぼりしている。
「ヒッポリアスも、シロも、子魔狼たちも偉いぞ」
「えらい!」
俺とフィオで、ヒッポリアスとシロと子魔狼たちを撫でまくった。
だが、まだしょんぼりしたままだ。
「よし! ヒッポリアス、シロ、クロ、ロロ、ルル、それを持ったまま付いてきてくれ」
「きゅお?」
「わふ?」
「俺も砂糖作りで手伝えそうなことがないし、暖炉作りでもしようと思ってさ」
「ああ、それはいい!」
「これから冬がくるものな!」
冒険者たちがうんうんと頷いている。
「ヒッポリアス、シロ、クロ、ロロ、ルル。その暖炉にくべる薪が必要だから、そのまま持ってきてくれ」
「きゅお!」
「わふ!」
『わかった!』「ぁぅ」『もっていく』
手伝えると思って、ヒッポリアスたちは元気になった。
勢いよく揺れる尻尾が可愛らしい。
「イジェ、暖炉作りに行ってくる」
「ワカッタ! コッチはマカセテ」
「うん、近くにはいるから、用があったら呼んでくれ」
「ウン!」
一応冒険者のみんなにも声を掛ける。
「みんなの宿舎にも暖炉を作っていこうと思うが問題ないよな?」
「もちろんだ!」
「暖炉なしだと、冬きついからな! 助かる」
みんなの了解も取れたので、安心して暖炉を作れる。
俺はヒッポリアスとシロ、子魔狼たちを連れて、外に出る。
フィオも付いてきてくれた。
「どこからつくるの?」
「そうだなー。ヒッポリアスの家から作ろうか」
「きゅお!」
薪を咥えたヒッポリアスは嬉しそうに尻尾を振った。
――――――――
6巻が1月14日に発売となります。
よろしくお願いいたします。
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