233 砂糖作り

 朝食をみんなで食べていると、当然のようにお酒の話になる。

 もっとも反応したのが意外にもヴィクトルだった。


「なんと! お酒を作れると?」

「砂糖をつくる途中で出る甜菜を再利用するらしい」

「ほう! それはいいですね!」


 ヴィクトルは酒豪で有名なドワーフだ。

 例に漏れず、ヴィクトルもお酒が大好きなのだ。


「ほう? 熱を? それは興味深い。イジェ、詳しく聞かせてくれ」

 ケリーは煮た甜菜を使うことに関心を示していた。


「砂糖? いいね! 手伝うよ!」


 ジゼラは、お酒にはあまり興味が無いらしい。

 ちなみに、朝食の準備中、ジゼラはケリーと一緒に、飛竜やボアボア、陸ザメたち、ヤギやカヤネズミとフクロウの様子を見に行ってくれていたのだ。

 サボっていたわけではない。


「ジゼラはカヤネズミたちに頼まれていたことがあるだろう?」


 ケリーが呆れたように言う。


「そうだった! ごめん手伝えない」

「ダイジョウブ。テはタリテルから」

「うん、終わったら手伝いに行くかも」

「オネガイ。デモ、ムリシナクテイイヨ」


 ジゼラはイジェの頭を優しく撫でている。


「ところで、ジゼラ、カヤネズミたちから何を頼まれたんだ?」


 テイムスキルのないジゼラがなぜ頼み事を聞けるのかという疑問は置いておく。

 ジゼラは神に選ばれし勇者だから、そういうこともあるのだろう。


 ただ、俺はカヤネズミが何に困っているのか知りたかったのだ。


「えっとね。周辺の調査を一緒にしてほしいって」

「ふむ? 危険な魔物がいるかどうかとか?」


 この村の周囲には危険な魔物はいないはずだ。


「そうだよ。ぼくたちには危険じゃなくても、カヤネズミには危険な生き物もいるし」

「そうか、小さいものな」

「あと、カヤネズミたちだけじゃなく、ヤギたちも、周辺の調査をしたいみたい」

「ヤギも慎重なんだな」



 手のひらに乗れるカヤネズミと違って、ヤギは馬ぐらい大きいのだ。

 しかもヤギたちは魔獣。

 魔獣ではない狼には勝てるぐらい強いのだ。


「そだねー。でも、ぼくはヤギの気持ちはわかるよ」

「そっか。俺も手伝おうか?」

「大丈夫! こっちはまかせて!」


 ジゼラは堂々と胸を張った。

 そして、ジゼラは、カヤネズミたちのいるボアボアの家へと出かけていった。

 ジゼラに同行するのは、ケリーと地質学者と気候学者、そしてヴィクトルだ。

 ついでに改めて色々と調査しようと言うことなのだろう。


 ジゼラを見送ると、

「ボクタチもサトウをハジメヨウ!」

 イジェが指揮を執っての砂糖作りが始った。


 イジェがキッチンに移動すると、冒険者たちも付いてきた。

 冒険者たちは、砂糖作りよりもお酒造りに興味があるようだった。


「イチニチイジョウ、シッカリツケタ、テンサイがコレ」


 イジェがキッチンに置いておいた甜菜の入った壺の蓋を取ると、甘い匂いが漂った。

 

「おお、いい匂いだな」


 蓋を開ける前から、この匂いをヒッポリアスやシロ、子魔狼たちは嗅ぎ取っていたのだろう。


「きゅぅお~~」

「ふんふんふふふん」

「「「へっへっへっへ」」」


 ヒッポリアスとシロ、子魔狼たちは、よだれを垂らしていた。


「朝ご飯を食べたあとでよかったな」


 空腹時なら、今以上に、ヒッポリアスたちのよだれが大変なことになっていただろう。


「マズ、カワをムク」

「了解だ! 俺は皮むきは得意なんだ」

「カワはウスクムイテね」

「まかせろ!」


 そう言ったのは、ごつい戦士の冒険者だ。

 太ももぐらい太い腕を巧みに動かして、綺麗に薄く皮を剥いていく。

 得意と自分で言うだけあって、非常に上手い。


「皮むきが得意だったんだな」


 俺がそういうと、戦士は照れながら言う。


「いやー。駆け出しの頃、へまをして装備を壊してな」

「あーなるほど」


 それを聞いただけで、何があったのか大体わかる。


 装備を壊してしまう駆け出し冒険者は意外と多い。

 そんな冒険者は廃業するか、別の仕事で金を稼ぐしかない。


 その別の仕事で皮を剥いたということだ。


「王都にある人魚の賑わい亭ってのがあるんだが……」

「知ってる。やすくて旨い店だな」


 金のない冒険者でも利用できる大衆店だ。


「そこで半年ぐらい働いた。毎日何百という芋やら人参やら蕪やらの皮をひたすら剥いたんだ」


 そんなことを語りながら、冒険者はあっというまに甜菜の皮を剥き終わる。


「イジェ! 終わったぞ」

「アリガト!」


 その頃にはイジェも皮を剥き終わっている。

 イジェの足元にはヒッポリアス、シロ、子魔狼たちがお座りしていた。

 手伝うことがないか待機しているのだ。


 その後ろに待機していたフィオが言う。


「きるの? ふぃお、きれるよ!」

「ジャア、フィオ、テツダッテ」

「うん!」


 まずイジェが包丁を手に取った。


「フィオ、ミテテ」

「うん!」

「コンナカンジで……」

「ふむふむ!」

「オオキサは、コノグライ」

「わかた!」

「ジャア、オネガイ」

「まかせて!」


 フィオが一生懸命甜菜を切り始める。

 その後ろをヒッポリアス、シロと子魔狼たちがぐるぐるしていた。

 きっと、子供たちも手伝いたいのだろう。

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