229 ヤギの巣
フィオがボアボアの家に居るシロを呼びに行ったということは、ベムベムたち陸ザメも来るだろう。
そして、恐らく起きているはずの子魔狼たちもだ。
子魔狼たちが、起きていなかったとしてもフィオが行けば起きるに違いない。
俺は削蹄の手を止めて、動物たちに言う。
「みんな、飛竜とボアボアを紹介してもいいか?」
「めえ!」「ホッホウ」「チュキュキュ」
「大きくて肉も食べるが、ヤギやカヤネズミを食べたりしないから安心してくれ。もちろんフクロウたちもだ」
「めえ~」「ホゥ」「チュチュ」
飛竜とボアボアは強力な存在なので、怯えさせないようにするには事前の説明が必要なのだ。
動物たちが了承してくれたので、俺は建物の影から片目だけだして覗いている飛竜とボアボアに呼びかける。
「ボアボア、飛竜、こっちに来てくれ」
「ぶぅい」「がる」
そして、ヤッテキタボアボアと飛竜のことを皆に紹介していく。
フクロウたちは落ち着いたものだったが、ヤギもカヤネズミも少し緊張した様子だった。
飛竜とボアボアの紹介が終わった後、
「わふぅ! つれてきたー」
フィオがクロとロロを抱っこして走ってくる。
シロはルルのことを口に咥えて、フィオの後ろを走っていた。
「べむべむぅ!」
陸ザメたちはシロの後ろを元気に走っていた。
ふと気付くと、俺たちの周囲には臣下スライムたちが沢山いた。
「ピイ、呼んでくれたのか?」
『ぴい! あいさつだいじ!』
「そっか、そうだな」
飛竜たちを先にみたおかげか、ヤギもカヤネズミも落ち着いたものだ。
スライムやシロをみても、驚いていなかった。
狼はヤギやカヤネズミの天敵のはずだが、シロがまだ子供だからおびえなかったのかもしれない。
「きゅーんきゅーん」「ぁぅ」「ぴぃ~」
むしろ子魔狼たちが、大きなヤギをみて、驚いたようだった。
「しょうかいする!」
フィオが張り切って、互いのことを紹介していく。
俺に削蹄されているヤギも、足を保定されながら「めえ~」と鳴いて、シロたちに向かって挨拶してた。
「ぴぃ~~」
臣下スライムたちは、ヤギやカヤネズミ、フクロウに飛びついて、全身をなで回す。
「怯えなくていいよ。ダニを取ってくれているだけだからね」
「めえ~」「ちちち」「ホッホゥ」
ヤギもカヤネズミもフクロウも、何をされているのか理解しているようで暴れたり怯えたりはしなかった。
全員の互いへの挨拶が終わった後、イジェは「ヨルゴハン、ツクル!」といって食堂へと向かった。
イジェを手伝うために冒険者が数名付いていき、なぜか、その後ろを「ホッホゥ」鳴きながらストラスたちフクロウがついていく。
そして、臣下スライムたちもどこかへ去って行った。
各自の仕事場にもどったのだろう。
俺は削蹄作業を続けながら、メエメエに尋ねる。
「メエメエたちはこれからどうするんだ?」
「めえ?」
ケリーに毛を梳いてもらい終わったメエメエは、どこかすっきりした表情をしていた。
「この近くに住みたいなら、家を作るぞ」
「めぇ~」
「その辺で寝るからいいって、巣は?」
俺が尋ねると、ヤギの毛梳きをしながらケリーが教えてくれる。
「ヤギは巣をつくらないんだよ。旧大陸の野生のヤギはだが」
「巣を作らないって、雨が降ったらどうするんだ?」
「もちろん濡れたままだ」
「風邪を引かないのか?」
「ヤギとはそういう生き物だからね」
「そうはいっても、冬は寒いだろう? 風雪を防げる建物で過ごせた方が良いんじゃないか?」
「めぇ~」
やはり、風雪を防げる場所があるならそれに越したことはないという。
耐えられることと、快適であることは異なるのだろう。
「そうか、じゃあ、明日にでも作っておくよ」
「めぇ!」
ボアボアの家にはまだ余裕がある。
ボアボアに住まわせていいか聞いたら、いいよと答えてくれる気がする。
だが、陸ザメたちに加えて、ヤギ二十頭も同居したらさすがに狭く感じるだろう。
「カヤネズミたちは、冬もヤギたちと一緒に居るのか?」
「ちっちちゅ」
「そうか、冬こそ寒いから一緒に居ると。巣は作らないのか?」
「カヤネズミは巣を作る種族だね。旧大陸のカヤネズミは、だけどね」
ケリーが教えてくれる。
「ちっちち」
「そうか、ヤギの背中の上が巣だと」
ヤギたちの毛は長い。その中に埋もれて過ごせば、きっと冬も暖かいだろう。
俺の削蹄とケリーとジゼラの毛梳きが終わった頃には太陽は西に沈みかけていた。
空が赤くなっていく。
「涼しくて気持ちがいいね。ぼくはこの季節が一番好きかもしれない。テオさんは?」
「俺もこの時期は好きだよ」
暑すぎず寒すぎず、ちょうど良い。
「私は春の方が好きかな。こう動物たちが動き出そうとしている気配がいいよね」
「ふぃおもはるがすき!」
どうやら、ケリーとフィオは春が好きらしい。
「春は俺も好きだよ」
「ぼくも好きー」
そんなことを話しながら、西の空を眺めていると、イジェたちがご飯ををもってやってくるのが見えた。
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