230 歓迎会
どうやら、仲間が増えたので歓迎会をしようということらしい。
「ホッホゥ」
イジェの後ろにはフクロウたちが歩いてついて回っている。
その後ろには、大量の雑草を抱えた冒険者がいた。
「ヤギたちのご飯を持ってきたぞ」
「めええ~」
お腹が空いたら、ヤギはその辺に生えている雑草を勝手に食べるだろう。
別にわざわざ刈る必要は無い。
だが、歓迎会なので、歓迎の意を示すために、冒険者たちはわざわざ雑草を刈ってきたのだ。
「めえめえ!」
歓迎の意図が伝わったらしく、メエメエたちヤギは嬉しそうに雑草を抱えた冒険者たちを取り囲む。
「カヤネズミのご飯だけど……。これでいい?」
アーリャが、ヤギの背に乗るカヤネズミたちに布の袋を掲げて見せた。
「ちっちっ」
カヤネズミたちは、ヤギの背をぴょんぴょん跳びはねて移動すると、アーリャの前に集まっていく。
「アーリャ、その袋には何が入っているんだ?」
「虫」
「捕まえたのか?」
「うん。ヤブに入って、バッタとかハエとかを魔法で捕まえた」
「凄いな」
俺は素直に感心した。
魔法で虫を捕まえるなど、あまり聞いたことがない。
「虫なんて小さいものをよく捕まえられたな」
魔導師の冒険者も感心している。
「小さい頃、練習でよくやったから」
「虫を捕まえるのを?」
「そう。魔法で虫を探して、見つけた虫を殺さないように捕まえるのはとてもよい練習になるって、父にやらされた」
アーリャの父、つまり魔王だ。
「そういわれたら、確かに理にかなっている練習かもな」
小さくて動くものを見つけるのは難しい。魔法でなにかを探す練習に虫は最適だ。
小さくて動くものほど、殺さずに捕まえるのは難しい。
より繊細な魔力制御が求められるからだ。
その点、小さな虫は最適である。
「お城や村の倉庫を狙う虫退治とか、食堂の虫退治とか、畑の虫退治とか。練習がそのまま実利になるから」
「さすが魔王。コストが掛からなうえに、利益も上がる訓練か」
「頭良いね、魔導師はみんなそうやって訓練すれば良いのに」
ジゼラがそういうと、魔導師が首を振る。
「余程魔力の扱いが上手くないと、倉庫ごと、畑ごと燃やし尽くしかねない。一般化するには怖すぎるぞ」
「そっかー。そんなものかー」
ジゼラは納得したようだった。
アーリャが失敗しても、被害が拡大しないよう魔王が付いて訓練していたのだろう。
非常に才能のある者と、恵まれた環境が揃ってはじめてできる訓練だ。
俺たちが訓練法に感心している間に、カヤネズミたちはアーリャの前にいるヤギの背中に整列した。
「虫、生きているから。順番だよ」
「ちゅちちち」
アーリャはカヤネズミたちに袋からだした生きた虫を渡していく。
カヤネズミたちは、受け取った虫を嬉しそうに食べ始めた。
「ストラス、フクロウたちのゴハンはコレだよ」
イジェは生肉の塊を五枚の皿に乗せていく。
「ホッホウ」
ストラスたちは、嬉しそうに肉を食べ始める。
生肉を用意するだけなので、ストラスたち、フクロウのご飯を用意するのが最も楽だ。
「ミンナもゴハンタベヨ」
イジェと冒険者たちが俺たちにもご飯を配ってくれる。
「クロ、ロロ、ルル、シロとヒッポリアスのブンも」
「ありがとう、助かるよ」
俺は子魔狼たちとヒッポリアスの分を皿に乗せて、地面に置いた。
「リクザメたちも、コレタベテ」
「べむべむぅ」
「ボアボアとヒリュウのブン!」
「ぶぶい」「がぁお」
ご飯が行き渡ったので、みんなで食べ始める。
冒険者たちは早速お酒を飲み始めた。
「お酒を作っても良いかもしれませんね」
そんな冒険者たちをみて、ヴィクトルがぽつりと呟いた。
今日、ヴィクトルはお酒を飲んでいない。
ドワーフであるヴィクトルもお酒が好きだ。自制しているのだろう。
「陸ザメたちがお酒を作っていたようだし、作り方を教えて貰えば良いかもしれないな」
「そうですね、それがいいかも知れません」
俺は皆の様子を見た。
「めええめえ」
ヤギたちは雑草をむしゃむしゃ食べている。食欲が旺盛だ。
「べむっべむっ」
同じく雑草を食べているのは陸ザメたちだ。
陸ザメたちはヤギに比べて小食だ。食べるのもゆっくりである。
「ちちゅちゅちゅ」
カヤネズミたちはアーリャから虫を手渡されて、嬉しそうに食べている。
アーリャは虫を触ることに抵抗はないらしい。
野外生活が基本の冒険者としては珍しいことではない。
虫が嫌だとか怖いとか言っていたら、冒険者はできないのだ。
「ホッホオ」
フクロウたちは、自分で食べるより、イジェに食べさせて欲しいらしい。
イジェの前に行列を作って、口に入れてもらうのを待っている。
みんな大人のフクロウなのに、まるでヒナのようだ。
「ホゥ」
口に肉を入れてもらうと、イジェに体を押しつける。
そして、食べ終わると、また行列に並ぶのだ。
「イジェ、変わろうか?」
イジェはフクロウたちにご飯をあげるのに忙しく、全く自分のご飯を食べていない。
「ダイジョウ……」
「はい、あーん」
ジゼラがイジェの口にご飯を入れる。
「アリガト」
「イジェはストラスたちにご飯をあげて、ぼくがイジェにあげたら、ちょうどいい!」
そういって、ジゼラは自慢げにしていた。
食事から自然と飲み会へと移行していく。
食事の途中から、一部の冒険者たちはお酒を飲み始めていたので当然の事態ではある。
「ぶぶい」「ぶぅい」
「ん? お風呂に入りたいのか」
ボアボアとボエボエがお風呂に入ろうと誘ってきた。
「それもいいな。飛竜、一緒にどうだ?」
「があぅ」
俺は飛竜も誘って、ボアボア親子と一緒にお風呂場へと向かう。
当然のようにヒッポリアスと子魔狼たちとシロとピイは付いてきた。
「今日は汗水を垂らして働いたからな!」
「ぶぅい!」「がう」
ボアボアの家の中を通って、お風呂場へと向かう。
扉を開けると、湯気が一気に流れ込んできた。
「ぶーいぶい」「がぁおがおがお」
ボアボア親子と飛竜は嬉しそうにそのままお風呂に浸かりに行く。
「湯船に入る前に温度を確認するんだよ」
「ぶい!」「がぁお」
どうやら、温度は快適らしい。
臣下スライムたちが温度調節してくれているおかげだろう。
俺はボアボアの家で、服を脱いで中へと向かった。
「脱衣所と体を洗うための設備がないんだよな」
ボアボアたちのためのお風呂設備なので、必要が無いのだ。
洗う設備がないので、俺はかけ湯だけして湯船に入った
「湯温がちょうど良いな」
『あそぼ』「ぁぅ」『だっこ』
「きゅぅお~」
湯船に入った子魔狼たちと小さな姿のヒッポリアスは器用に泳いでいた。
それをシロが心配そうに見守っている。
「ががお~」
飛竜が裏口の扉を開ける。海が見えた。
夜の涼しい風が入ってくる。
「気持ちが良いな」
「ぶい」「がぁう」
ボアボアと飛竜は湯船に浸かって、海をのんびり眺めている。
「足付かないのは危険かも知れないな。クロ、ロロ、ルル、こっちにおいで」
『だっこだっこ』「ゎぅ」『だっこ』
浅いところに座った俺のひざのうえに子魔狼たちが乗っかった。
「きゅお」「ぶぶい」
ヒッポリアスとボエボエもやってきた。
「ヒッポリアス、ボエボエ、熱くないか?」
『きもちいい!』
「ぶぶい」
そんなヒッポリアスとボエボエにピイがまとわりついて、汚れを取ってあげている。
ヒッポリアスは野良作業を行なった。
そしてボアボアとボエボエの親子はぬた打っていた。
全身をドロドロにしたまま湯船に入ったが、その泥は臣下スライムたちがきれいにしてくれている。
「スライムたち、ありがとうな」
「ぴいぴい」
臣下スライムたちは泥を固めて、裏口から風呂場の外にぽいっと捨てる。
おかげで、湯船の中は綺麗なままだ。
「クロ、ロロ、ルル、調子はどうだ? ちゃんと水を飲んでいるか?」
『なでて』「ぁぅ」『のんだ』
「きゅうお」「ぶい」
俺のひざのうえで、子魔狼たちとヒッポリアス、ボエボエが楽しそうに遊んでいた。
子供たちを撫でながら、健康状態をチェックする。
子魔狼たちは、お腹が張っていないし、毛艶もいい。
ヒッポリアスはいつも通り元気いっぱいだ。
ボエボエも俺たちの仲間になって、より力強くなった気がする。
そのとき、ボアボアの家につながる扉を開けて、ベムベムが顔を出した。
「べむ?」
「お、ベムベム、飲み会に飽きたのか」
ベムベムは子供の陸ザメなので、飲み会はつまらないのだろう。
「ベムベムも、一緒にお風呂入るか?」
「べむ!」
ベムベムは嬉しそうにお風呂の中に入ってきた。
もちろん、右手には俺の作ったスコップを握っている。
「べむぅ~」
ベムベムは器用に泳いで俺のところにやってくる。
「歩くより泳いだ方が速くないか?」
「べむ!」
サメっぽい見た目は伊達ではないらしい。
「べむぅ~」
ベムベムはとても気持ちよさそうに、仰向けでぷかぷか浮いている。
開いた裏口からは、冒険者たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
ヤギたちとカヤネズミたちの嬉しそうな声も聞こえる。
フクロウたちとイジェ、フィオも楽しそうに話していた。
「長閑だな」
『あそぼ』「ぁぅ」『だっこ』
子供たちが楽しそうで、大人たちは笑っている。
冬が来るまでにやらないといけないことはまだまだある。
冬は厳しい物になるだろう。
だが、きっとなんとかなるだろう。そんな気がした。
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