228 ヤギのお世話
俺とストラスの話を聞いていたイジェが言う。
「ストラス。ライネンもエンバクをマモッテホシイ」
「ホホウ」
「構わないって」
「アリガトウ」
「ホッホゥ」
「その代わり、イジェに撫でて欲しいんだって」
「ワカッタ。イツデもナデルよ」
「ホッホゥ!」
ストラスは興奮気味に羽をバサバサさせて、撫でていたケリーが後ろにひっくり返った。
「うむ、羽も大きいな!」
ケリーは転びながらも、嬉しそうに言う。
俺たちは、無事、三種族との協定を結び直すことができた。
フクロウたちに関しては協定とは異なるものだが、協力関係を築くことができた。
「それでは、皆を呼んできますね。挨拶させた方が良いでしょう?」
ヴィクトルがそういって、拠点に走って行った。
「みんなをしょうかいする!」
張り切ったフィオが、この場にいる冒険者たちをヤギ、カヤネズミ、フクロウに紹介していった。
この場にいる全員への紹介がおわると、俺は短剣を取り出した。
「削蹄して欲しい奴は、並んでくれ」
「めぇえめぇ」「めぇえ」
「毛梳きは私がやろう」
イジェから櫛を受け取ったケリーが俺の横に来てヤギたちに声をかける。
ケリーの前に最初に並んだのは、既に削蹄が終わったメエメエだった。
「メエメエ、痛いとか気持ちが悪いとかあればすぐにいうんだよ」
そういって、ケリーは毛梳きを開始する。
そんなケリーを見たジゼラが突然、ヤギの一頭をなで始める。
「ぼくも手伝うよ!」
「めえ?」
何を言っているんだという目をしているヤギを、
「ほれほれほれ~」
ジゼラは指を立てるようにして撫でまわす。
ジゼラが撫でるたびに、ヤギから毛が抜けて、地面に落ちる。
「めぇぇぇ~~」
ヤギはとても気持ちよさそうに尻尾をふっていた。
ジゼラは指を櫛代わりにしているらしかった。
「さて、こっちも始めよう。蹄を見せてみなさい」
「めえ」
先頭のヤギが前足を俺の前に出す。
「ああ、大分伸びているな。まだ歩きには問題ないだろうけどな」
だからといって放置して良いわけではないぐらい伸びている。
「めええ」
「安心しなさい。すぐ終わるよ」
俺はヤギの前足を、太ももに挟んで保定すると、短剣で蹄を削っていく。
「……削蹄専用のナイフを作ろうかな」
「ソノタンケンだと、サクテイしにくい?」
順番にフクロウたちを撫でていたイジェが尋ねてくる。
「削蹄しにくくはないけど、特に削蹄しやすいというほどでもないんだ」
一頭二頭ならば、何の問題も無い。
だが、二十頭のヤギの削蹄を定期的にするとなると、専用の器具が欲しくなる。
「イジェのおじさんは、なにか専門の道具を使ったりしていなかったか?」
「ウーン。ワカンナイ」
「そっか、そうだよな」
イジェはおじさんがヤギと仲いいことも知らなかったのだ。
削蹄にどんな道具を使っていたかも、当然知らないだろう。
「櫛も作った方が良いんじゃないか?」
メエメエの毛を櫛で梳いていたケリーが言う。
「確かに、その方が効率的……、凄いな、それ」
俺は話しながらケリーをチラリと見て驚いた。
ケリーの横には大量の毛が溜まっていたからだ。
ジゼラの横にも同じぐらい毛が溜まっている。
「これは去年の冬毛だね。早く梳かないと、今年の冬毛の成長に悪い影響が出るかもしれない」
「なるほどなあ、それにしても大量の毛だな」
「メエメエ。ケ、ツカワセテモラッテいい?」
「めええ~」
「いいらしいぞ。好きに使っていいって」
「アリガトウ。コレダケアレば、テブクロぐらいならツクレル、ケイトになる」
ヤギの毛は、俺たちの生活を支える貴重な材料になるだろう。
「ケリー、ジゼラ、魔法の鞄を渡しておこう」
「助かるよ」
「ぼくも持っているけど、テオさんの鞄にまとめた方が良さそうだね」
「あ、まとめるのふぃおがやる!」
ケリーとジゼラが毛を梳いて、フィオがその毛を魔法の鞄に入れていく。
「ケリー、その櫛は特別なのか?」
ただの櫛にしては以上に毛が取れている。
ジゼラの手が特別なのは聞くまでもない。
「そうだね。普通の櫛とは違うかも。櫛の歯は細くて固い。これは金属だな」
「金属? 痛くないのか?」
「先は丸いね。そして、櫛の歯は何列にも重なっている」
「ブラシみたいに?」
「そうだね、櫛と言うよりブラシに近いかも」
「あとで見せてくれ。イジェ、いいか?」
「イイヨ!」
そんなことを話している間に、一頭の削蹄が終わる。
そしてすぐ次のヤギの削蹄に入った。
「シロたちも、毛を梳いてやった方が良いかな?」
「うーん。これから冬だから。いらないんじゃない? 来年の春には梳いてあげて方が良いと思うけけどね」
「これから、シロたちもモコモコになるのか?」
「そりゃ、なろうだろう」
「イジェもモコモコにナル!」
「そうなのか?」
「ウン。ミテ。スコシハエテキタ」
フクロウたちに囲まれたまま、イジェは右腕をあげてこちらに見せる。
「……少しもこもこなのかな?」
正直、俺には変化があまりわからなかった。
「うわー、確かにもこもこだねえ」
どうやら、ジゼラには違いがわかるようだ。
「コレカラ、モット、モコモコになる!」
「そうか、楽しみだな」
順調に削蹄作業を進めていると、ヴィクトルが拠点にいた者を連れてやってきた。
「ふぃおが、みんなをしょうかいする!」
張り切ったフィオが、みんなにヤギとカヤネズミ、そしてフクロウたちを紹介していった。
互いのことを知っておけば、不意の遭遇で事故が起こる可能性も少なくなるだろう。
全員を紹介し終わると、フィオは
「そだ! しろもよんでくる!」
そういって、走って行った。
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