225 ヤギたち

 俺は一生懸命、ペダルを踏み込んでいるボアボアに尋ねる。


「ボアボア、どうだろうか? ボアボアの家から直接は入れるようにしておいたよ」


 ボアボアの家の後ろ側に大きな扉を取り付けて、直接建物に入れる構造にした。

 その反対側にも、裏口として大きな扉を取り付けてある。

 そちらを開ければ、景色が楽しめる。

 それに外の空気が入り込んで、外気浴が楽しめるだろう。


「があるぅ?」

 飛竜が実際に二つの扉を開け閉めしたり、出入りしたりしてボアボアに見せる。

 その様子をボアボアは休まずにペダルを踏み込みながら確認していた。


「ぶぅいー」

「おお、たしかにな。扉を開けておけば湯気で家が暖かいかもしれない」

「ぶい~」

「そのうちボアボアの家にも暖炉を取り付ける予定だが、暖炉に火を入れたら部屋の中が乾燥するからな」

 湿気が入り込むのは丁度良いかもしれない。


「それに湿気はカビの原因になるが……」

「ぴぃ~」

「そうだな、ピイたちがいればカビは問題ないな」

「ぴい」


 カビぐらい発生する端から、臣下スライムが除去してくれる。


「ピイと臣下スライムたちの活躍はすごいな」

 俺たちの中で最も活躍していると言っても過言ではない。


「ぶぶいぶい」

 ペダル踏みを飛竜と交替したボアボアは、風呂場の扉を開けて出入りする。


「どうだ? 開けにくいとか、通りにくいとか、もっとこうして欲しいとか要望はないか?」

「ぶい~~」

「そうか、使いやすいか。飛竜はどうだ?」

「があぁう」

「使いやすいなら良かったよ。だが、使っているうちに、気付くこともあるだろう」

「ぶぶい」

「そう、気付いたら、俺を手伝うと思ってすぐに言ってくれ。改良は趣味みたいな物だからな」

「ぶい~」「がぁぅ~」


 その頃には湯船にお湯が充分溜まった。


「お、もうお湯が溜まったな。さすがはボアボアと飛竜。ありがとう」

 巨体を利用しペダルを踏み込むことで、大きなポンプを動かしてくれたおかげだ。


「入るのは少し冷ましてからかな」

「ぶいぃ~」

 そんなお風呂に臣下スライムが入っていく。


「大丈夫か? 熱くないか?」

『ぴい。ほのおでもだいじょうぶ』

「すごいな」


 そのとき、外からヴィクトルの声が聞こえてきた。


「テオさん……うわっ」

「どうした?」

 俺は裏口から顔を出す。


「いきなり立派な建物が出来て驚きました」

「ボアボアたち用のお風呂だよ」

「なるほど、ほほう。これはよさそうなお風呂ですね」

 ヴィクトルは裏口から覗いて中を確かめていた。


「今は温度が熱すぎるが、あと少し待てば俺たちも入れるようになるよ」

「それは楽しみです」

「それで、何か用があったのではないか?」

「そうでした。ヤギがきました」

「おお、早いな。すぐ行く」


 俺はピイを肩に乗せて、ヴィクトルについていく。

 フィオとヒッポリアスもついてきた。

 ヒッポリアスは小さい姿に変わっている。


「ヒッポリアス、配慮ありがとうな」

『きゅお!』


 先ほど削蹄したヤギだけなら、大きいままで問題ない。

 だが、ヤギが約束通り群れを連れてきてくれたならば、大きいままだと怯えさせかねない。

 ボアボアと飛竜も、お風呂場の建物の角まで付いてきたが、そこで止まる。

 建物の影から顔半分だけ出して、ヤギたちの様子を窺っていた。

 ボアボアと飛竜なりに、ヤギたちを怯えさせないよう、気を使ってくれているのだろう。


「おお、群れの仲間も連れてきてくれたんだな」


 はさ掛けされている燕麦の間に、ヤギたちがいた。

 どうやら、ヤギの群れは二十頭ほどらしい。


 俺が削蹄したヤギより大きな個体は他にはいなかった。

 それでも、ロバぐらいの大きさはあった。

 子ヤギは、旧大陸でよく見かけたヤギぐらいの大きさである。


「よ~しよしよしよし」

 ヤギたちは、ジゼラの回りに集まっていた。

 なぜかジゼラはヤギたちに人気があるようだった

 ジゼラが人気なのは、勇者だからだろうか。

 ジゼラも嬉しそうにヤギたちをなで回していた。


「ぶぅい~?」

 小さなボエボエはジゼラの足元にいる。

 そして、ヤギたちと匂いを嗅ぎあって挨拶している。


「ふむふむ。立派な体格だ。毛は……。ほう?」

 そして、ケリーはジゼラの周囲に集まるヤギをこっそり調べていた。


 ちなみにヴィクトル、ボアボア、飛竜と冒険者たちは少し離れた場所で、静かにして動いていない。

 もちろん、ヤギとネズミを刺激しないようにだ。


「メエメエ。その背中に乗っている子はお友達?」


 先ほど、俺が削蹄した大きなヤギのことをジゼラはメエメエと呼んでいる。

 俺が名付けるのは難しいから、名付けてくれるのは構わない。

 だが、メエメエと勝手に名付けて、ヤギは怒らないのだろうか。


「めえ~」

 どうやら、メエメエは名前を気に入ったようだった。

 気に入ったのならば、文句はなにもない。


「め? めぇ~」

「うん、よく来てくれたな」

 俺に気付いて、先ほど削蹄したヤギ、改めメエメエがやってくる。


「蹄の調子はどうだ?」

「めえ!」

「それならよかった」

 メエメエの蹄の調子はとても良いらしかった。


「めええ~」

「うん。わかったよ、みんなも削蹄して欲しいんだね」

「めえ!」

「ところで、その背中に乗っているのは……」


 メエメエだけでなく、ヤギたちは背中に小さなネズミを乗っけていた。

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