219 帰宅しよう

「調査用の道具なんかも、必要なものがあったらいつでも言ってくれ」

「おお、その時は頼む」

「そういえば、以前作った百葉箱も、追加で作らなくていいのか?」

 気候学者に頼まれて、中に観測機器を入れるための百葉箱を以前作ったのだ。


「はい、またお願いします。とはいえ、設置したとしても巡回が大変なので、拠点周囲になると思いますが」

『きゅお~。ひっぽりあすがつれていくよ?』

「ヒッポリアスが連れて行ってくれるそうだぞ」

「おお、その時はお願いしますね」

「きゅおきゅお!」


 その後、俺もヴィクトルと一緒に燕麦の収穫を手伝った。

 そして、昼までに燕麦の畑の収穫を終えたのだった。


「半日で収穫できるとは思わなかったな」

「さすが、冒険者たちですね! お見事です」


 ヴィクトルが笑顔で、冒険者たちをねぎらった。

 およそ百メトル四方の燕麦を一日で刈り切ったのだ。

 身体を鍛え上げ、身体能力を魔力で強化できる冒険者たちだからこそ、できたことだ。


「いや、テオさんの大鎌が凄かったからだよ」

「ああ、俺が故郷で使っていた大鎌ならば、こんなに効率よく刈れなかったさ」

「うんうん。その通りだ」

「べむべむ!」

「陸ザメたちもありがとうな」

「べむう!」


 冒険者たちは額に汗しながらも、笑顔を浮かべている。

 陸ザメたちも、やり切ったという表情で、両手と尻尾をぶんぶんと振っていた。


「収穫は久しぶりだが、達成感が凄いな」

 俺も久々に身体を動かしたからか、爽快な気分だった。

 今日はゆっくり深く眠れそうだ。


「テオさんも収穫作業したことあるのかい?」

「ああ、子供の頃にな」


 そして、俺たちは拠点への帰路についた。

 ヒッポリアスの背に乗せた鞍に陸ザメたちを乗せて、歩いていく。


「明日は筋肉痛になりそうだ」

「私もです」

 地質学者と気候学者も、途中からは汗だくになって手伝っていた。


『きゅうお? のる?』

「ヒッポリアスが乗るかと聞いてるぞ」

「ああ、大丈夫だ、ありがとう」

「拠点まで歩くぐらいの体力はありますからね!」


 俺たちは疲れながらも、足取り軽く拠点へと向かって歩いていく。


「鎌や農具を入れる倉庫を作りたいな。ヴィクトルどう思う?」

「いいですね。ボアボアの家の近くに作りますか?」

「そうだな。畑はボアボアの家の近くに開く予定だし。薪を入れる倉庫は拠点の方がいいだろうが」

「そうですね。薪を入れる倉庫は、暖炉より後に作るのが良いと思いますが」

「それもそうだな」


 そんなことを話している間に、ボアボアの家が見えて来た。


 ぬた打ち場で、楽しそうにぬた打っていたボアボアとボエボエがぬた打ちを中断して出迎えてくれる。

 そんなボアボアたちを撫でてから、イジェと、ヴィクトル、冒険者たちは拠点へと戻って行った。

 みな、お腹が空いているのだ。


「昼ご飯を食べてから風呂に入るか、風呂に入ってから昼ご飯を食べるか」

「それが問題だ」

「イジェはスグにゴハンをツクル」

「ありがとう、ならば俺はイジェを手伝おう」

 そんなことを真剣な表情で語り合っている。


 俺は、冒険者たちと別れて、ヒッポリアスの鞍を外し陸ザメたちを地面に降ろした。

「べむうべむう!」

「陸ザメたちもお疲れ様。お腹空いてないか?」

「べむっ」

 陸ザメたちは、収穫しながらずっともぐもぐしていたので、お腹は空いていないようだった。


「べえむべえむ」

 陸ザメたちはぞろぞろと、ボアボアの家の中に入っていった。


「べむ!」

「そっか、お昼寝の時間か。頑張ってくれたもんな」

 陸ザメたちはボアボアの家で午睡を楽しむつもりらしい。


「べぇむう」「べむう」

「誘ってくれるのはありがたいし、凄く魅力的だが……お昼ご飯を食べたいからな」

「べむう」


 陸ザメたちを見送った後、俺はボアボアに声を掛ける。


「ボアボア。忙しいところすまない」

「ぶい?」

 冒険者たちを見送ってすぐにボアボアとボエボエは一心不乱にぬた打ちを再開していた。

 俺が声を掛けると、ぬた打つのを一旦やめて、こちらを見る。


「ボアボアの家の隣に農具を入れる倉庫を作っていいか?」

「ぶぶ~い」


 ボアボアが快く許してくれたので、俺は倉庫建築に取り掛かる。

 倉庫といっても、ボアボアの家と構造的に異なるところはない。


「倉庫……。ボアボアの家より、今は小さくていいんだが……」

「ぶい?」

「そうなんだ、今は小さくてもいいんだが、収穫物を一時的に入れたり、作業したりしたくなるかもしれないし」

「ぶぶぅい」

「そうだな、ならばお言葉に甘えて、ボアボアの家ぐらい大きくするよ」

「ぶい!」


 魔法の鞄から石材と木材を取り出して、鑑定スキルをかけると、一気に建築していった。


「よし、完成」

「ぴい!」

「ありがとう、ピイ」


 ピイはいつもは大変大人しく、黙ったまま俺の肩か頭の上に乗っている。

 だが、鑑定スキルや製作スキルを発動すると、即座にマッサージしてくれるのだ。


 俺は出来たばかりの倉庫に中に入ると、大鎌や犂などの自作の農具類を並べていった。

 ヒッポリアス用の鞍も倉庫の中に置いておく。

 イジェの村から持って来てもらった農具も、きちんとと並べた。


「こうして並べると、手入れが必要な道具が、一目でわかるな」

 それもイジェや冒険者たちが使い終わった後、泥を落として綺麗にしてくれているおかげだ。


 小さくなって、倉庫の中について来たヒッポリアスが首を傾げた。

『ていれする?』

 ――ぐぅうぅうう


 同時にヒッポリアスのお腹が盛大になった。


「手入れはあとにするよ。イジェのお昼ご飯づくりを手伝いに行こう」

「きゅお!」

 ヒッポリアスは元気に尻尾を振った。

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