213 ヤギの到来
そのとき、俺の肩と頭を行ったり来たりしていたピイが地面にぴょんと降りる。
そして、足跡をその体で覆った。
「ピイ、どうした? 何か見つけた?」
「ぴぃ~」
ピイは少しプルプルした後、
『やぎ!』
と教えてくれた。
「ピイはなんて言っているんだ?」
「どうやら、足跡の主はヤギらしい」
「ピイは凄いですね。そんなこともわかるのですか?」
「恐らく、わずかに落ちた毛とか爪のかけらとかそういうものから判断しているんだろう」
『そう!』
「そうらしい」
俺が教えると、地質学者と気候学者は感心してピイのことを撫でた。
今できる調査は終わった。
俺はピイを肩に乗せ、ベムベムを抱っこして、元いた場所へと歩いていく。
歩きながら、地質学者と気候学者に尋ねた。
「本業の調査の方は順調なのか?」
本業の調査とは、地質と気候の調査のことだ。
「はい。木の状態などから、この辺りの気候調査は進みましたよ」
「ほほう。それは良かった」
「地質の調査も色々と進んだよ。そして、この畑の土質は素晴らしいということもわかった」
「そうなのか?」
「ああ、野生の畑とは思えないほどだ」
地質学者がいうには、栄養が豊富な土壌なのだそうだ。
「イジェは野生と言っていたし、土壌改良もされていないだろうにな」
「土が勝手にここまで豊かになることは、普通考えにくいんだ」
「何か理由があると」
「ああ、どんな理由かはわからんが」
そんなことを話している間に、元いた場所へと戻ってくる。
「藪を、いや燕麦をこいだからな。ダニチェックしておこう。ピイ頼めるか?」
『まかせて、ピィ~』
ピイは俺の全身を撫でるようにを素早く移動する。
『にひきいた!』
「おお、二匹も。助かったよ」
「ぴぃ~」
そして、すぐに地質学者の全身を、次に気候学者の撫でるように移動する。
『ふたりあわせて、さんぴきいた!』
「二人で三匹いたらしいぞ」
「ありがとう、助かります」
「ピイは本当に凄いな。助かるよ」
「ぴぃ~」
ピイは地質学者と気候学者に撫でられて、フルフルした。
すると、陸ザメたちが燕麦を片手に持って集まってくる。
「べむっ」「べむむっ」「べぇむぅ!」
「ありがとう、回収するよ」
俺は陸ザメから燕麦を受け取って魔法の鞄に入れていく。
「お腹いっぱいになっていませんか?」
「べむ!」
気候学者に尋ねられて、陸ザメは自慢げに手を振る。
陸ザメが何を言っているのか、俺は通訳することにした。
「まだまだ食べられるそうだよ」
「そうなんですね」
「陸ザメたちはゆっくりと長い時間、食べ続ける種族らしいんだ」
そんなことを話していると、向こうからイジェとヒッポリアスがやってくるのが見えた。
ヒッポリアスの鞍の上には山のように燕麦が積んである。
「ついに、ヒッポリアスの鞍も一杯になったか」
「きゅお~」
俺と目が合うと、ヒッポリアスは元気に走り出す。
イジェを置いて、こちらに駆けて来た。
「きゅおっきゅお!」
そして、俺の身体に顔を押し付ける。
ヒッポリアスは甘えたいらしい。
俺はそんなヒッポリアスを撫でまわした。
「ヒッポリアス、お疲れさま」
「きゅぅお~」
「鞍の調子はどうだ? 痛かったり、きつかったりする場所はないか?」
『ない!』
「それならいいんだが……」
『かいてき!』
「そっか、気づいたらすぐに言うんだよ」
「きゅお~」
すぐに燕麦を魔法の鞄に移す作業に入る。
「ひとまず、鞍を降ろそう」
『きゅお! だいじょうぶ! はずさない』
「えー、たまに外した方がいいよ」
『だいじょうぶ!』
ヒッポリアスは、ふんふんと鼻息を荒くしている。
『ておどーるのくら、かっこいい!』
「そ、そうか、ありがとうな」
「きゅお」
どうやら、鞍がかっこいいからつけていたいようだ。
「だけど、鞍のチェックしたいし、燕麦を魔法の鞄に入れ替える作業をしたいから、一度降ろそうな」
「きゅぅお~」
しぶしぶ、ヒッポリアスは鞍を降ろすことに納得してくれた。
鞍を外す作業をしていると、イジェが追い付く。
「イジェ、そちらの様子はどうだ?」
「ジュンチョウ、ヒッポリアスがダイカツヤク」
「それはよかった」「きゅうお~」
「ダケド、アノ、テオさん」
「どうした?」
「ヤギがキタ」
足跡の主だろう。
燕麦畑に足跡を残すぐらいだ。ここはヤギの縄張りに違いない。
ヤギとしても縄張りに知らない人が押しかけて、勝手に燕麦を刈っているのだ。
怒っていてもおかしくない
「ヤギ。足跡の主だな。怒っているのか?」
「ワカンナイ。アバレテはイナイ。ダカラ、テオさんにヤギのハナシをキイテホシイ」
「わかった。すぐに向かう――」
「ダイジョウブ、エンバクをオロシテカラでイイ」
イジェがそういうならば、ヤギは相当大人しくしているのだろう。
向こうにはヴィクトルもいる。大概のことは問題あるまい。
俺は、二人の学者と協力して、急いで鞍から燕麦を降ろしたのだった。
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