211 謎の足跡
冒険者たちは慌てた様子はない。
普通に歩いてこっちに来ている。何か事件があったわけではなさそうだ。
だから俺も落ち着いて尋ねる。
「ん? 何かあったか?」
「いや、テオさんが、大鎌作っているのを見たイジェが、取りに行けって」
「おお、さすがはイジェ。よく気が付くな」
大鎌を追加で作るとは伝えていなかったのに、すぐ気づいてくれたようだ。
全体を把握して、的確に指示を出してくれているらしい。
イジェの方を見ると、イジェはこっちを見て手を振ってくれていた。
俺が手を振りかえすと、冒険者たちもイジェに向かって振った。
「べむ~」
陸ザメたちも一緒になって、イジェに手を振っている。
「イジェは本当に頭がいいな」
「テオさんもそう思うかい?」
「ああ、指導者に向いている。若いのにな」
「本当にそうだなぁ」
冒険者たちがうんうんと頷いていると、
「べむぅ~」
陸ザメたちもうんうんと頷いていた。
「ヒッポリアスはどうだ?」
「ああ、大活躍だよ。刈ったらすぐに横に来るからな」
冒険者たちは笑顔だ。
まだまだ、体力的に余裕があるようだ。
「だから、魔法の鞄をテオさんに返すようにってイジェが」
「おお、ありがとう」
俺は魔法の鞄を受け取った。
「ヒッポリアスの鞍がいっぱいになったら……」
俺が魔法の鞄に燕麦を入れるために向こうに行こうと思ったのだが、
「そのときは、ヒッポリアスが大喜びでこっちにくるだろ」
「それもそうか」
ヒッポリアスは歩くのが早いのだ。
それに、俺もヒッポリアスも会う機会があった方が嬉しい。
「その時は俺たちも何人か駆け付けるよ。鞍から移すのが大変だろう?」
「ありがたいが、大変じゃないか?」
「ヒッポリアスが大活躍だからな。休憩時間も増えたし」
どうやら、鞍の製作効果は高かったようだ。
「じゃあ、大鎌を作ったのは余計だったか?」
大鎌が増えれば、今よりも休憩時間が減ることになる。
「そんなことないさ。全体の作業が早く終わるならその方がいいし」
「それに身体を動かすのは気持ちがいいものだからな」
「大鎌を振るうと、全身運動になる」
冒険者には身体を動かすことが好きなものが多い。
戦士職は特にそうだ。
「じゃあ、俺たちはテオさんの作ってくれた大鎌を持って作業に戻るよ」
「ああ、気をつけてな」
「もちろんだ。陸ザメたちもありがとうな」
「べむう~」「べむべむ」
冒険者たちは陸ザメたちにお礼を言って、去っていく。
陸ザメたちは冒険者たちの背に向けて、しばらく手を振っていた。
冒険者たちと入れ替わるかのように、地質学者と気候学者がやってくる。
「べむべむう!」「べむ!」
地質学者と気候学者をみて、陸ザメたちは大喜びで両手をぶんぶんと振った。
遊んでいるようにみえるが、陸ザメたちの作業効率は落ちていない。
もともと、陸ザメたちはもぐもぐしている時間が長いのだ。
「どうした? こちらでも調査をするのか?」
地質学者と気候学者も慌てた様子はなかった。
「そうなんだ。足跡が見つかってな。こっちにもないか確認しに来たんだ」
地質学者なのに、ケリーのようなことを言い出した。
「足跡か」
「ケリーがいないから、テオさんにも見解を聞いてみたいというのもあるがな」
そう言って地質学者は笑った。
魔獣学者であるケリーを除けば、俺が一番動物に詳しい。
だから、俺のところに来たのだろう。
「俺は見てないが、陸ザメたちは足跡を見たか?」
「べえむう~~?」「べむ~?」
しばらく考えたあと、陸ザメたちは「ベムベム!」と元気に鳴いた。
「お、見たのか」
「べむう」
陸ザメたちは一斉に燕麦畑に走っていく。
「べむ!」
そして、ニ十頭、みんなが別々の場所を指さした。
「お、おお。少し待ってくれ」
「べむう」
一頭ずつ指さしている場所を確認していくしかないだろう。
俺はまず一番近いところにいる陸ザメの場所へと向かった。
地質学者と気候学者も俺の後ろをついて来る。
「これは?」
「べむ!」
「なるほど? ヤギの足跡だと」
「べぇむ」
陸ザメはヤギの足跡だと主張するが、判別が難しい。
ヤギかどうかの判別ではない。
そもそも、足跡があるかわからないのだ。
「私には陸ザメたちの足跡に見えますけど」
言いにくそうに気候学者が言う。
確かにその通りだった。
元々、足跡があったのかもしれないが、陸ザメがその上を歩いたせいで、判別不可能になっていた。
「……べむぅ」
陸ザメしょんぼりしたので、俺は頭を撫でる。
「ありがとう。なるほど。ヤギの足跡か。データの一つとして参考にさせてもらうよ」
「べむべむ!」
陸ザメが元気になったので、次の場所へと向かう。
「べむ!」
「なるほど。ありがとう」
「べ~むぅ~」
俺たちは順番に確認していった。
だが、陸ザメたちの示した場所は、大体陸ザメの足跡に踏み荒らされていた。
その惨状を見ても、気候学者はもう何も言わない。
陸ザメたちは何も悪くないのだから。
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