210 ヒッポリアスに鞍を乗せよう
俺に気付いた陸ザメたちも集まってくる。
「べぇむべむ!」
「みんな、麦の収穫ありがとうな。喉とか乾いてないか?」
「べむう!」
「大丈夫か。いつでものどが乾いたら言ってくれ」
「べむぅむ!」
子供のベムベムが右手に俺の作ったスコップを持ち、左手に持った燕麦を、
「む!」
と言って差し出してきた。
口から、燕麦の茎の一部が少しはみ出ている。
「ありがとう、ベムベム。助かるよ」
「べぇむ!」
俺が燕麦を受け取ると、ベムベムは満足げに地面に座りもぐもぐを再開した。
そして、チラチラと横目で俺を見る。
ベムベムから、俺に撫でて欲しいという気持ちを感じた。
それは大人の陸ザメたちも同様である。
「陸ザメたち、俺は急いで魔法の鞄を向こうに持って帰らないといけないんだ」
「べぇむぅ……」
「撫でるのは、それが終わってからな」
「べむ!」
ベムベムはいま撫でないことを納得してくれた。子供なのに聞き分けが良い。
大人の陸ザメたちも納得したようだった。
「さて、ヒッポリアス。待たせたな。鞍を乗せてみよう」
「きゅおおお」
俺は魔法の鞄から大きな鞍を取り出して地面に置く。
陸ザメたちの座る部分を四本の柱で、支える形になる。
その柱の上の方、陸ザメたち座る場所のすぐ下に、縄で作った網が張られている形だ。
「べむう~」「べむべぅ」
陸ザメたちは一斉に鞍を見る。
好奇心が強いのだろう。
「はい、ヒッポリアス、姿勢を低くして」
『きゅお~、ひっぽりあすちいさくなる』
「ん? ああ、それがいいな」
ヒッポリアスは小さくなっって、鞍の下に入る。
そして、巨大化した。
しっかりと鞍が背中に乗った状態になる。
「きゅお?」
「ヒッポリアスは賢いなぁ」
「きゅっきゅお!」
ヒッポリアスは嬉しそうに尻尾を揺らす。
「ヒッポリアス、当たって痛い部分はないか?」
『ない!』
「そうか、じゃあ、固定してみるな」
「きゅお~」
俺は四本の柱同士を縄でくくって、ヒッポリアスに鞍を固定する。
「きつくないか?」
『きつくない。ゆるい!』
「ゆるいか。もう少しきつく締めよう」
俺は縄を締めたり緩めたりして調節する。
『ちょうどいい!』
「そうか、それなら良かった」
ヒッポリアスはきつめに締める方が好きらしい。
「今は良くても、時間が経ってきつく感じることもあるかもしれない」
「きゅお?」
「そのときは遠慮しないですぐに言うんだよ」
『わかった!』
「調節は簡単だからね。遠慮は絶対したらだめだよ」
『わかった!』
「それに、どのくらいの強さがちょうどいいのか調べるのも大事だからね」
『わかった!』
ヒッポリアスはご機嫌だ。
何を言っても『わかった!』と元気に返事をしてくれる。
『きゅお~、みんなをてつだいにいっていい?』
「いいよ。痛くなったり、違和感を覚えたらすぐに戻ってきなさい」
「きゅお!」
「あと、魔法の鞄も……」
『もってく?』
ヒッポリアスの鞍に燕麦を乗せるなら、魔法の鞄は必須ではない気がする。
だが、すぐに返すと俺は言ったし、ヒッポリアスの鞍がどう運用されるかもわからない。
「そうだな。イジェに渡してくれ」
『わかった!』
「でも、ちょっと待ってくれ。材料を取り出しておこう」
俺は魔法の鞄から、金属インゴットと、木材を取り出した。
「大鎌がもっと必要になるかもしれないからね」
ヒッポリアスが運搬を担って効率的になれば、その分の労働力を大鎌担当に割り振ることができるかもしれない。
「きゅうおー」
「お待たせ」
俺が魔法の鞄を手渡すと、ヒッポリアスは口に咥えた。
『いってくるーきゅおー』
「気を付けるんだよ」
「きゅおー」
ヒッポリアスは元気に走っていった。
「……フィオがいないけど、大丈夫かな」
向こうにテイムスキル持ちがいないから、少し不安になった。
だが、鞍に燕麦が積めると言っていたイジェがいるから大丈夫だろう。
俺は去っていったヒッポリアスの後ろ姿を眺める。
「……べむ」
「ん? ああ、撫でるのがまだだったな」
いつの間にか陸ザメたちが俺の前に行列を作っていた。
「ありがとうなー」
俺は一頭一頭、順番に頭を撫でていく。
「べ~む~!」
撫でられた陸ザメたちは満足そうに燕麦の収穫作業に戻っていく。
全員を撫でおわると、燕麦の回収をピイに任せて、俺は大鎌の製作に取り掛かる。
「さっき作ったのと同じだからな」
全く難しくはない。
あっというまに、新たに大鎌を三本作り終わる。
「べむ?」
作り終わった時には、陸ザメたちに囲まれていた。
何をしているのか気になったらしい。
「向こうで冒険者が使う大鎌を作っていたんだよ」
「べぇむぅ~」
陸ザメたちは納得したようだ。
なにやらまた頭を撫でて欲しいので、順番に撫でていく。
燕麦を収穫する、撫でられる、また収穫する。
そういう流れが陸ザメたちにはいいらしい。
俺が陸ザメたちを撫でていると、
「テオさん」
「どうした?」
冒険者が三人やって来た。
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