209 ヒッポリアス用の鞍を作ろう その2

 作るべきはヒッポリアスの背中にフィットした籠、いや鞍である。

「ヒッポリアスは歩くとき、背骨がこうやって動くから……」


 俺が頭の中で鞍の構造を考えていると、

「……テオさん何をやってるんだ?」

 冒険者が小声でイジェに聞いているのが耳に入った。


 燕麦を持って来て、魔法の鞄の隣に座る俺を見つけて驚いたのだろう。


「カゴをツクルんダッテ」

「籠? 燕麦を入れる」

「リクザメ!」

「そっか、陸ザメたち、歩くの遅いから、もし敵に襲われたら逃げるときとか大変だもんな」

 納得した様子で、冒険者は去っていった。



「リクザメが乗る部分の形状は決まったんだが……」

 ヒッポリアスの背中に接する部分の形状が難しい。

 止まっているヒッポリアスの背中にぴったり合わせるのは簡単だ。

 だが、ヒッポリアスは動くのだ。


「動きを妨げないようにしないと……」

 ヒッポリアスの背中や肩が痛くなるかもしれない。


「……うーん」

 木で対応するのは難しい。


「木の鞍の下に、網を張って、その網がヒッポリアスの背中に触れるようにすればいいか」

 網は柔らかく伸縮性のある素材にすればいい。


「問題は網の素材だが……」


 綿も絹も余ってはいない。

 イジェの村から持ってきた服を糸にほぐして網にする手段もあるといえばある。

 だが、服は服として使いたい。

 現状では服も貴重品なのだ。


「草を編みこんで縄を作って網にするか」


 妥協の塊だが、今はそれぐらいしか手段がない。

 数日ならば役目を果たしてくれるだろう。

 ちゃんとした素材が手に入ったときに作り直せばいい。


「よし」

 頭の中で、鞍の構造が定まった。

 俺は先ほど魔法の鞄から取り出した木材に鑑定スキルをかけていく。

 素材の特性を把握したら、即座に製作スキルに移行する。


 あっという間に大きなヒッポリアスの背中に乗るにふさわしい鞍ができていく。

 陸ザメニ十頭が乗れる手すり付きの鞍である。


 その鞍の下には長い棒が四本生えている。

 その四本の棒で、ヒッポリアスの身体に鞍を固定するのだ。


「次は……あ。ちょうどいい。少し大鎌を貸してくれ」

「もちろん構わないが……」

「助かる」


 近くで水を飲んで休憩していた冒険者に頼んで大鎌を借りると、畑から少し離れる。

 丈の長い雑草を大鎌で刈っていく。


「テオさん、草刈りするなら手伝おうか?」

「気持ちだけもらっておこう。もう終わった」


 俺は大鎌を返して、刈った草を集めて積み上げた。

 冒険者はその積み上げ作業を手伝ってくれる。


「ありがとう。助かる」

「いや、気にするな。自作の大鎌の使い勝手はどうだった?」

「いいな。すごく刈りやすい」

「ほんとにな。売りだしたら人気になるぞ」

 そういって冒険者は笑った。


 休憩に戻った冒険者とイジェが見守る中、俺は刈って積み上げた草に鑑定スキルをかけていく。

 草一本ずつに個性があるのだが、ある程度個性を無視する。

 あまり細かくかけていては、消費魔力が膨大になりすぎるからだ。


 大まかに草の特性を把握したら、製作スキルの出番だ。

 繊維にほぐした後、縄として編み込んでいく。


「いい品質の縄になったな」


 我ながら、しなやかで、丈夫な縄ができたと思う。

 完成した縄に鑑定スキルをかけて、強度を確かめた。


「うん。縄の強度は問題ないかな」


 完成した縄を製作スキルを使って網へと加工する。

 製作スキルとしては、難しくない加工だ。


「よし完成」

 網は、ヒッポリアスの背中に直接触れる部分だ。

 そして、鞍事態の重さと、陸ザメたちの重さがかかる部分でもある。


「強度としなやかさをしっかり確かめないとな」

 俺は網に鑑定スキルをかけて、その品質を確かめた。


「多分大丈夫。ヒッポリアスがどういうかわからないが……」

 その網を鞍の下に生えている棒に固定した。


「カンセイ?」

「ああ、これをヒッポリアスの背中に乗せて、固定したら完成だ」

 固定具は余った縄を使えばいいだろう。


 俺は完成した鞍と縄を魔法の鞄に入れる。


「じゃあ、イジェ。ヒッポリアスのところに戻るよ」

「ウン、ワカッタ」

「魔法の鞄はなるべく早く戻しにくる」

「ウン!」


 そして、俺は魔法の鞄を持って、ヒッポリアスのもとへと走った。

 

 走ってくる俺に気付いたヒッポリアスは嬉しそうに尻尾を揺らす。

 ピイの持つ燕麦の量も出発前より大分増えている。

 まるで、ピイの体から燕麦が沢山生えているかのようだ。


「きゅおお」

「お待たせヒッポリアス」

『くらできた?』

「できたよ」

「きゅうおー」

「でも、鞍を乗せる前に、燕麦を回収しよう。ヒッポリアス、少し待ってくれ」

「きゅお!」

「ピイも、燕麦回収係、ありがとう」

「ぴぴぃ」


 俺はピイの持つ燕麦を受け取って、魔法の鞄に入れる。

 ピイはすぐに俺の頭の上へと移動する。

 そしてマッサージを開始した。


「ありがとうピイ」

 疲れていた頭の凝りがほぐされていくのを感じた。

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