208 ヒッポリアス用の鞍を作ろう

 陸ザメたちのところに戻ると、

「べっむべむう」

 嬉しそうにベムベムが両前足をぶんぶんと振って歓迎してくれた。


「ベムベム、ありがとう。調子はどうだ?」

「べむ!」

 ベムベムは、まだまだ食べられると張り切っている。


「きゅうお」

 ヒッポリアスは大きな体を押し付けて来る。

 俺はそんなヒッポリアスを撫でながら尋ねた。


「ヒッポリアス、何かあった?」

『なんもない!』

「そっか、ありがとう」

『みんなげんき』

「そうだな」


 俺が戻って来たことに気付いた陸ザメたちが

「べむ!」

 次々に燕麦を差し出してくる。

 俺がイジェのところに行っていた際に、収穫した分だ。


「ありがとう」

 俺が受け取ると、陸ザメたちは座って、もぐもぐし始める。


「そうだなぁ」

 溜まるまで燕麦を持ち続けるのは多少面倒だ。

 それに、ここからイジェのところまで、五十メトルほど離れている。

 移動回数も少ない方がいい。


「収穫した燕麦を入れる背負える籠を作ったら楽だな」

 大きめの、背負える籠を作って、そこに入れてまとめて運べば楽だ。


『いい! きゅおきゅい!』

「お、ヒッポリアスも賛成してくれるか」

『うん。ひっぽりあすに、べむべむたちがのれる!』

「む? つまりヒッポリアスの背中に乗せる籠か」

『そう!』

 ヒッポリアスは期待のこもったきらきらした目で俺を見つめている。

 

「そうか、それもいいかもしれないな」

 俺が背負う籠を作ろうと思っていた。

 陸ザメたちの収穫スピードはゆっくりである。

 だから、俺が背負える程度の大きさの籠でも今日中にいっぱいにはならないかもしれないぐらいなのだ。

 ヒッポリアスの背負う籠なら、今日中にいっぱいになることはあるまい。


「そうだなぁ。陸ザメたちも助かるだろうし」

 なにせ陸ザメたちは足が遅い。

 帰りもヒッポリアスの背に乗れた方が、早く帰ることができる。


「きゅおきゅお!」

「べむ」

「ああ、ありがとう」

 俺とヒッポリアスが相談している間にも陸ザメたちは燕麦を持ってくる。


「よし、籠を作ろう。丈夫な奴な」

「きゅうお」

「ピイ、燕麦を持っていてくれ」

「ぴっぴい」


 俺は手に持っていた燕麦を頭の上にいるピイに渡す。

 燕麦を受け取ったピイは、俺の頭から地面に降りた。


「陸ザメたち。しばらく燕麦はピイに渡してくれ」

「ぴぃっぴぃ!」

「べむぅべむ!」「べむっべむっ」「べぇぇむう」

 陸ザメたちも了承してくれた。


「ヒッポリアスは陸ザメたちのことを見ていてやってくれ」

『まかせて』


 そして、俺は再びイジェの元にある魔法の鞄へと走った。

 走ってくる俺を見て、イジェが首をかしげる。


「ドシタノ?」

「陸ザメが入れる籠を作りたいという話になってね」

「リクザメを? ドウシテ?」


 俺は籠を作ることになった事情を説明した。


「ソッカー。リクザメたち、アルクのユックリだものね」

「そうなんだ。それにそれだけ大きければ、燕麦もたくさん積めるし」

「ソッカー! ヒッポリアスもカツヤクデキル!」


 イジェに言われて、もしかしたら、ヒッポリアスは冒険者たちの手伝いもしたいのではないかと思い至った。

 大鎌で刈る冒険者たちの周囲を歩き回って、燕麦を回収すればかなり効率が上がる。


「そうか、……ヒッポリアス。えらいこだな」

「エライ!」


 俺もヒッポリアスに負けてはいられない。

 大急ぎで籠を製作することにする。


「あ、完成したら、魔法の鞄を借りるよ」

「ワカッタ!」


 自分用の籠ならば、この場で作ればいいが、作るのはヒッポリアス用の籠だ。

 ここで作って持っていくのはとてもつらい。

 魔法の鞄に入れて運ぶのがいいだろう。


 俺は魔法の鞄から木材を取り出す。

「籠というより、大きな鞍みたいな感じで作った方がいいな」

 ヒッポリアスの背中の形状に合わせた、陸ザメニ十頭が乗れる鞍である。

 ちゃんと手すりを作って、陸ザメたちが転んだり居眠りしても落ちないようにしなければならない。


「籠部分は木でいいとして……背中に接する部分に柔らかい素材が欲しい」


 ヒッポリアスに直接触れる固定具も柔らかくて丈夫な素材であるべきだ。

 ヒッポリアスの皮膚は強靭で丈夫である。

 それでも、柔らかい方が痛くないだろうし、快適なはずだ。


「マチョのカワをツカウ?」

「革は硬くないし、固定具のベルトに使うにしても最適ではあるけど……」

「ツカエナイノ?」

「魔猪の革はまだ、鞣してないからね」

「ソッカー。ザンネン」


 きちんと処理して鞣していない皮は、素材としては使えない。

 時間が経てば腐ってしまうからだ。


「魔猪の皮はだいぶ溜まってきているんだけどね」


 鞣し作業もはやめにやらなければならないことの一つだ。

 少なくとも冬が来るまでには終わらせたい。

 革として利用してもいいし、毛皮として防寒具にしてもいい。


「とりあえず、籠部分の製作に入るか」


 俺は頭の中で、籠の設計図を描いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る