207 燕麦の収穫

 俺はヒッポリアスの背中から降りて、魔法の鞄から作ったばかりの鎌を取り出す。

「鎌を作ったから、使ってくれ」

 俺は作ったばかりの鎌を冒険者に手渡していく。


「おお、使いやすそうだ。流石テオさんの作った鎌だな」

 俺の鎌は冒険者たちには好評なようだった。


「魔法の鞄をここに置いておくから、刈り取った燕麦は全部入れていってくれ」

「わかった!」

「べむべむ!」

 陸ザメたちも畑に向かう。


「あ、みんな、陸ザメがいるから、鎌で傷つけないように気を付けてくれ」

「わかった! 気を付ける」


 大鎌は燕麦の根元を刈る農具だ。

 そして、一メトルほどの高さがある燕麦より陸ザメたちは背が低いのだ。

 燕麦の畑に紛れてしまうと、目立ちにくい。

 いつ危険な事故が起こってもおかしくない。


 俺は陸ザメたちを連れてきたことを少し後悔した。


「イジェ、俺は陸ザメたちを少し離れたところに連れて行くよ」

「ワカッタ。チイサイからアブナイものね」

「そうなんだ」

「ドノアタリにツレテイクの?」


 大体百メトル四方の範囲に燕麦の畑は広がっている。

 もちろん、野生の畑なので、正方形でも長方形でも、そもそも四角ではない。

 大体、ぼんやりと四角と楕円の中間みたいな形で畑は広がっているようだ。


「イジェたちは、どちら方向から収穫を開始するんだ?」

「アッチ」

「そうか、じゃあ、俺と陸ザメたちは逆方向がいいかな」


 俺は今いる場所から五十メトルぐらい向こうを指さす。

 今いる場所からもギリギリ見える範囲で遠い場所だ。


「ミエタほうがイイモノね」

「そうだな。注意すべきことはあるか?」

「エット、コノグライにイッポンはカラナイでノコシテホシイ」

「全部刈ったらだめなんだな」

「ソウ。ノコシてオイタら、カッテにハエる」

「すごいな」

「ウン。スゴイ」

 野生の燕麦は繁殖力が凄いらしかった。


 注意事項を聞いたので、俺は陸ザメたちに呼びかける。

「じゃあ、陸ザメたち、ついてきてくれ」

「べむうべむべむ」「べむ!」「べむむ」


 俺とヒッポリアスが歩き始めると、陸ザメたちは大人しくついて来る。

 五十メトルほど歩いて、俺は陸ザメたちに言う。


「陸ザメたちはこっちからやってくれ」

「べえむべむ!」

「この辺りに一本ぐらいは、刈らずに残して欲しいらしいぞ」

「べむ!」

「無理しなくていいからな」

「「「べむっ!」」」

 俺は心配になって、陸ザメたちの様子を見守った。


 陸ザメたちは燕麦まで歩いていくと、

「べむっ!」

 根元にかじりついて、食いちぎる。


「もぎゅもぎゅ」

 そして、食いちぎった燕麦の茎をもぐもぐしながら、燕麦の上部分を左手にもってこちらに戻ってくる。

 右手に大事そうに握っている農具は全く使わない。


「おお、そうやって刈り取るのか」

「みょぎゅ。みゅ!」

 刈り取った燕麦を俺に向かってぐっと突き出す。


「ありがとう」

「みゅぐ!!」


 俺が燕麦を受け取ると、陸ザメは満足そうに地面に座った。

「むぎゅむぎゅ」

 そして、陸ザメは食いちぎった燕麦の茎をもぐもぐしている。

 そういえば、陸ザメたちは少ないご飯をゆっくり食べるのだった。


 一本収穫して、俺に渡した後、もぐもぐする。

 食べ終わるとまた収穫に行き、俺に渡した後もぐもぐする。

 それの繰り返しだ。

 ペースは遅いがニ十頭いるので、少しずつ収穫は進んでいく。

 とはいえ、大鎌を持った冒険者一人より、ずっと遅い。


「きゅお?」

「ヒッポリアスは……休んでいてくれ」

「……きゅお」


 ヒッポリアスは働きたいようだ。

 だが、ヒッポリアスに任せられる農作業はいまのところない。


「怪しい奴がきたら教えてくれ」

「きゅお!」

 俺が警戒の仕事をあたえると、ヒッポリアスは嬉しそうに尻尾を揺らす。


 そんなヒッポリアスを撫でてから、俺はもらった燕麦の実部分に鑑定スキルをかけた。

 鑑定スキルをかけても味はわからないが、毒の有無はわかる。


「うん。品質的には旧大陸の燕麦とあまりかわらないか」

 ならば余計、この畑が無事だった理由がわからない。


「この畑には何かあるにちがいないが……、陸ザメたちは何か気付いたことはないか?」

「むぎゅ?」

「ああ、ありがとう」

「むぎゅむぎゅ」

 陸ザメたちは一本ずつ収穫したものを持って来て、座ってもぐもぐしている。

 ベムベムも小さいながら一生懸命大人たちに混じって収穫を手伝ってくれていた。


「べむ」

「ベムベム、ありがとう」

「むぐむぎゅ」

 ベムベムも俺のところに燕麦を持ってきた後、座ってもぐもぐする。


「燕麦の茎ってうまいのか?」

「べむ! もぎゅ」

「そうか、まずまずか」

「べえむべむ。むぎゅむぎゅ」

「そこら辺の草と、おいしさはあまり変わらないと」

「べむ!」


 陸ザメたちの収穫スピードはとても遅い。

 だが、ニ十頭もいるので、俺の持つ燕麦の束は大きくなりつつあった。


「ヒッポリアス。少し陸ザメたちを見ていてくれ」

「きゅお!」

「陸ザメたちが大鎌に巻き込まれる事故だけは避けたいからな」

『まかせて』


 俺は陸ザメの面倒をヒッポリアスに任せると、魔法の鞄のところまで走る。


「リクザメたちはダイジョウブ?」

 収穫する冒険者たちを指揮をしていたイジェに尋ねられた。


「ああ、あっちでゆっくりと収穫してくれているよ」

「ソッカ。アトでオレイイワナイと」

「俺もこっちを手伝いたいんだが、陸ザメたちを放置できないし、すまない」

 収穫の効率だけを考えたら、その方がいいのは間違いない。


「キニシナイデ。ジコはコワイし」

 俺はイジェと話しながら、魔法の鞄に燕麦を入れる。

 そして、収穫している冒険者たちを見た。

 みな、大鎌を上手に使っている。


 俺に気付いた冒険者の一人が手を振ってくれた。

「あ、テオさん、大鎌の使い勝手がすごくいいよ」

「それならよかったよ」


 皆、手慣れている。

 大鎌で刈る冒険者と、刈った燕麦を魔法の鞄まで運ぶ冒険者にわかれて効率よく収穫していた。


「じゃあ、イジェ。俺は陸ザメたちのところに戻るよ」

「ウン。ツギからは、ワタシがテオサンのトコロにエンバクをトリにイクね」

「助かるが、いいのか?」

「リクザメたちのインソツがダイジ」

「そうか、じゃあ頼む」

「ウン!」


 そして、俺は陸ザメたちのところへと走って戻ったのだった。

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