206 大鎌の製作
作業をしていると、
「ぴい!」
ピイが俺の疲れを察知したのか、頭のマッサージを開始してくれる。
「ピイ、ありがと」
「ぴぃぃ」
ピイのマッサージの効果はすさまじい。
疲れがとれて、思考がはっきりする。
「さて、一気に作っていくか」
作ったばかりの柄を一本取り出してから、金属インゴットに鑑定スキルをかけていく。
金属インゴットは同質性を重視して製作しているので鑑定は難しくはない。
鑑定を終えると、刃の製作だ。
コツは、木製の柄にしっかりと固着した形で、刃を作り出すことだ。
製作スキルを使わない方法ならば、作った金属の刃を柄に固定する工程が必須になる。
その工程一つ分、製作スキルを使うと省略できるのだ。
「これでよしっと」
作った大鎌を魔法の鞄に入れると、代わりに木の柄を取り出す。
そして、同じ手順を五回繰り返して、大鎌を作っていく。
「ふう。完成っと」
「相変わらず、見事なものですね」
ヒッポリアスの横にいたヴィクトルが笑顔で声をかけて来る。
「さすがに目的地に到着するより早く大鎌が完成するとは思いませんでしたよ」
「ありがとう。金属製品は得意分野だからな」
「やはり、武具防具の製作経験が豊富だからですか?」
「そうだな。それが専門と言っていいぐらいだ」
勇者パーティーの雑用係として、武器防具の手入れを毎日何回もやっていたのだ。
「ぴい~」
「ありがとう。ピイ助かったよ」
ピイがマッサージしてくれていたおかげで、大鎌五本作っても全然疲れなかった。
そのとき、森の中を進んでいたイジェが駆けだす。
それに冒険者たちも走ってついていく。
「ヒッポリアス、走らなくていいよ」
「きゅお」
俺はつられて走りかけたヒッポリアスを制止する。
後ろにベムベムたち陸ザメがついてきているのだ。
走ったら、足の遅い陸ザメたちを置いていくことになる。
少し走った後、イジェは足を止めて、
「ツイタ!」
大きめの声を上げている。
「おお、これが旧大陸の燕麦か?」
「見事なものだなぁ」
冒険者たちも燕麦畑を見て感嘆の声を上げていた。
俺とヒッポリアス、ヴィクトル、学者二人も少し遅れて、イジェへと近づいて行った。
森が開けると、五百メトル四方ほどの、大きな平地が現れた。
山と山の間、底が広くて平らな盆地と言ってもいいかもしれない。
「テオさん、コレがヤセイのエンバクのハタケ」
イジェが自慢げに手で示す先には黄金色の畑が広がっていた。
「本当に野生か?」
俺が尋ねると、イジェは力強く頷いた。
「ウン、ヤセイ」
「……野生には見えないな。…………凄いものだな」
地質学者は驚きすぎて、言葉少なになっている。
「べえむべむ!」
「べむうべむ!」
俺たちについて来た、ベムベムたち陸ザメも畑を見て嬉しそうに両前足をぶんぶんと振っている。
「よく見たら雑草も混じっていますし、やはり野生の畑なのでしょう」
気候学者は農家ではないので、この畑の凄さがあまりわかっていないようだ。
「ケリーさんがいたら、目を輝かしたでしょうね」
「そうだな。間違いない」
俺はヴィクトルの言葉に完全に同意する。
「ケリーさんって、植物はご専門ではないのでは? 確かに近接分野だから詳しいでしょうが……」
気候学者は首をかしげている。
「専門家でないとおかしさに気付けないとか、そういうレベルではないぞ」
「テオさん、どういう意味でしょうか?」
「それだけこの畑が異様だってことだ」
まだ気候学者はわからないようだ。
農村出身者ではないからだろう。
「そもそもだ、なぜ野生動物は食い荒らしに来ないんだ?」
「…………そう言われたらそうですね。どうしてでしょう」
農業に従事した経験があれば、害獣対策がいかに大変か知っている。
畑を放置したら、野生動物の格好の餌食だ。
放置していた畑で綺麗に収穫できる実が残っていることはまずあり得ない。
「それに、雑草の量が少なすぎる」
「テオさん。お言葉ですが、雑草は結構生えているように見えますけど」
気候学者は燕麦の間に生えている雑草を見ながら言う。
「この程度は皆無と言っていい。人が手入れしていた畑でも一週間も放置すればこのぐらいにはなりうる」
「……そんなに?」
「雑草は育つのが早いんだよ」
そのうえ、繁殖力も強い。
一か月も放置すれば、燕麦を雑草が凌駕することになってもおかしくない。
「イジェ、どういう仕組みなんだ?」
「? ワカンナイ」
イジェは首をかしげている。
「イジェ、これまで、この畑の収穫を手伝ったことは?」
「アルよ」
「この畑の管理について、何か聞いてないか?」
「カンリはシテナイはず」
「そうなのか。とてもそうは見えないが」
「ウン。トウチャンはヤセイのエンバクってイッテタ」
イジェの父を信用しないわけではないが、とてもではないが信じられない。
「なにか、秘密があるんだろうな」
「土壌になにかあるのかもしれん。俺の領域だな調べてみよう。いいかい? ヴィクトルの旦那」
「もちろんです。お願いします」
「ああ、任された」
地質学者が目を輝かせて、畑に向かって走っていく。
「さて、皆さん、この謎の多い畑に関しては、収穫してから考えましょう」
「おお!」
「ヴィクトルの旦那は話が分かる!」
「俺には難しいことはわかんねーからな!」
冒険者たちはさっそく収穫の準備に入る。
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